著者 : 青山光二
戦後、虚脱と混乱の世相を体現するかのような烈しい生を、「可能性の文学」に殉じて壮絶な死で終わらせた織田作之助。三高での出会い、関西から東京へと共にした街歩きの青春、文学への熱情とデカダンスに駆られ自滅への道をひた走る流行作家の貌…。四篇の実名小説は、著者が親友に捧げた鎮魂の書であり、その文学の火種を九五歳でなくなるまで燃やし続けた“最後の無頼派”青山光二自身の青春の書である。
ただひとりキーツを天才詩人だと見抜いていたイザベラ・ジョーンズ夫人。彼がこの年上の美貌の夫人と過した運命の夜を再現し、長編詩『エンディミオン』『聖アグネス祭前夜』を完成させるまでの詩人の心の奥をさぐりながら、その愛とエロスと生の真相に迫る。キーツの魅力に憑かれた作家が、十九世紀初頭の英国と現在を往還するかのごとく描く魂の交響曲。
ロンドンから鉄道で一時間余りの小さな町。その町でレストランを営む日本人の娘のもとに滞在する初老の男が出会う様々な出来事。“麗人”に翻弄される日本人画家やアメリカ兵や町の男たちの恋愛沙汰は、静かな町を時に騒然とさせる。-個人主義的でありながらも心情あふれる郊外の情緒を交えて物語る、円熟の連作小説。
戦後間もない闇市の、活気溢れる喧噪のなか、ジンタ響かせ夢を売るサーカス興行の世界に身を置き、舌先三寸巧妙な口上でネタを捌くテキヤ稼業の浮き沈みを助けながら、博奕と喧嘩殴り込みと、意地と度胸で命を張って浮世を生きる、特攻隊帰りの血が戦ぐ無法者一代。
桝井一家の幹部格である尾形菊治は、ヤクザ渡世に嫌気がさし、突然盃を返すと言い出した。親分の怒りを買ったものの、周囲の取りなしで破門を免れ、所払い五年となった彼は、後見人の北浦亀吉から神奈川の土木請負業者丸高組を紹介される。心機一転、カタギの商売に専念し、組を興すようにまでなったが、汚い手口で私腹を肥やそうとする佐々岡組の柳五郎と対立関係に陥ってしまう。
飽きっぽい性格のため、何度も職を転々としていた志村兼次郎は、持前の腕力、胆力の強さから、いつの間にか横浜の盛場でハイダシ(ユスリ・タカリ)集団の不良仲間の首領として、徐々に幅を利かせるようになっていった。そのあまりの無鉄砲さに「鉄砲兼」というアダ名をもらっていた兼次郎だが、強きを挫き、弱きを扶けるという精神だけは生涯変わることはなかったー。「鉄砲兼」の喧嘩人生痛快譚。
島岡辰治は腕利きの胴師だ。それも手本引きの、本物の腕利きなのだ。胴師は、賭場の主宰役。その腕次第で、親分の儲けは天地の差だ。謙蔵親分の二号とデキた辰治は、静岡から東京へと流れた。先々で、縄張り目当ての出入りと、オンナがらみのもめ事。一宿の恩もあれば、渡世のしがらみも重い。頼れるのは、自分の腕っきり。やっと堅気の女子大生と所帯は持ったが…。若き博徒の半生を描く長篇問題作。
大正14年12月21日、鶴見に建設予定の火力発電所の下請分担をめぐり、清水組と間組との関係が悪化。急を聞いた大阪はじめ各地の稼業人が次々と上京、ついに千人を超える男たちが激突した日本最大の喧嘩となる…。関係者の証言、資料をもとに克明に再現したノンフィクション・ノベル。
モーゼル銃数梃と猟銃数十梃がいっせいに火をふいた。砂まじりの烈風が吹きつけてくるような散弾のあらしにまじって、ヒューン、ヒュッ、と挙銃弾。白鉢巻や白襷の男たちの怒号が飛びかい、白刃が交差し、血飛沫が舞う…。千人を超える血気の男たちがくりひろげる乱闘、死闘の顛末は…。
日吉組の開帳する手ホンビキの盆に、胴師として招かれた達夫とその恋人花江は、組の幹部伊勢に呼びとめられた。姐さんの鶴子に手を出した達夫はあやうく大切な親指をつぶされるところだったが、友人の布村京吉に救われた。達夫の身代りとなって親指をたたきつぶされた京吉は、日吉組に盃を返し、沖津組に身を寄せたが、やがて賭場で伊勢と勝負する日がやってきた。「獣の倫理」他、七篇を収録。