著者 : 青木栄一
西暦2020年、世界は混乱の極にあった。21世紀初めにアフリカで発生したエイズを凌ぐ疫病が世界中に猛威をふるい、ソ連ではゴルバチョフ失脚後、政治体制が二転三転し、国民生活は疲幣しきっていた。米国は経済力の極度の低下によってかつての超大国の面影はなく、ヨーロッパ各国はEC域内にとじこもっていた。いまや日本だけがハイテク産業を中心として隆盛をきわめ、ハイテク軍事国家として世界の超大国たらんとしていた。そんな折り、ソビエトで内乱が勃発し、日本はイスラム諸国とともに反乱軍支持にまわる。日本の狙いがシベリアの地下資源にあるのは明らかだった。窮地に陥ったソビエト首脳は、かつてのライバル、米国に救いを求める。米国初の黒人大統領ウォーターズは、ジョージ・テイラー大佐率いる最新鋭ウォー・マシン配備の第7機動部隊をソビエトに派遣することを決意する…。
西シベリア平原では、日・イスラム枢軸国軍と米・ソ連合軍の凄絶な戦闘が繰り広げられていた。次々と使用される日本製ハイテク兵器の前に、ソビエト軍は壊滅状態にあった。逃げまどう避難民の列に、イスラム軍の残忍きわまりない化学兵器が射ち込まれていた。20世紀末に起きた最後の中東戦争でアラブ軍が使用した核兵器によるイスラエル消滅と、2005年の米国による南アフリカの首都プレトリアへの核攻撃後、核兵器は全面撤廃されていたため、核による反撃はできない。皮肉なことに、崩壊へと驀進するソビエトの最後の望みは、米国陸軍第7機動部隊だけだった。第7機動部隊司令官ジョージ・テイラー大佐は、戦況を逆転させるために日本軍基地への奇襲攻撃を企てる。ついに、ノボル・カバタ将軍率いる日本軍との直接戦闘が開始されるのだった…。
ソ連書記長が何者かに暗殺されたために、クレムリン内部では一挙に権力闘争が開始された。米国との関係をこれまで以上に緊密にすべきだと主張する和平派と、書記長暗殺は米国の謀略だから断固報復すべしとする強硬派に、クレムリンが二分されたのだ。強硬派は、ノルウェー沖のバレンツ海で米国情報収集船を拿捕し、さらに、ソ連が誇る巨大原潜と最新鋭攻撃原潜を密かに米国近海に派遣し、核の一撃で米国を破壊せんともくろむ…。
1982年、ヨーロッパではパレスチナ過激派による暗殺事件が続発していた。その背後には常に、『テロリストの王』と呼ばれるアブ・ニダルの無気味な姿があった。一方、パレスチナ人の作家ラムジー・アウワドとイスラエルの情報部員シャイ・シャハムは、動機こそ異なるがアブ・ニダルを倒すという共通の目的のために、アムステルダム、ウィーン、ローマと、アブ・ニダルを追う。折りしも、新たな標的に意外な人物が浮かび上がる…。
クリスマス。ヨーロッパ各地の都市や港湾、鉄道拠点などで、デモやストの不穏な動きが続出した。同じ頃、中東ではテロリスト訓練キャンプから送り出されたテロリストたちの消息がプツンと切れ、所在がつかめなくなっていた。これらの事件がたがいに結びついているようには見えなかったし、西側に危機が迫っているようにも思えなかったが、“聖なる”夜の暗闇に乗じて、ワルシャワ条約軍が西側との国境地帯に集結しつつあった…。
アラビア海に浮かぶ小島で米国がミサイル基地を建造しているのを、ソ連の偵察衛星がキャッチ。激怒したクレムリン首脳はソ連海軍インド洋艦隊をアラビア海に派遣するが、米国は空母ニミッツを旗艦とする58機動部隊でこれを迎え撃とうとする。第三次世界大戦の危機が高まる中、レーザー兵器によって米ソ両国の偵察衛星が破壊され、ついに史上初の米ソ両艦隊の直接戦闘が勃発!エスカレートする米ソのパワー・ゲームの結末は?
ソ連人科学者ピョートル・アサーノフは、英国情報部員の手引きによって、西側に亡命を企てていた。音響電子工学の専門家であるアサーノフの新型ソノブイの研究に、米・英の国防筋が眼をつけたからである。彼の協力で、この新型ソノブイが完成すれば、西側は、ソ連との対潜作戦で絶対的優位にたつはずだった。折しも、ソ連のプレーリー級新型潜水艦が北の軍港ポルヤルニーを出航しようとしていた…スパイ&軍事テクノロジー小説の白眉。