著者 : 香月夕花
ハウスクリーニングサービスで働く高岡紅は、丁寧な仕事と気配りで指名が入るほど信頼を得ていたが、待遇の悪さや部下の対応に腐心する日々に疑問を抱いていた。そんな折、十代から水商売で身を立てた母・奈津子から独立を促され起業を決意。仕事は軌道に乗り、親しい顧客の勧めで「開運お掃除サービス」を新たな事業として立ち上げる。そんな紅のブログがインフルエンサーの目に留まり、書籍出版とセミナー開催の運びに。経験を活かした実践術と母親譲りの弁舌で聞くものを魅了し、一躍時の人になるも、ある日、紅のメソッドを曲解した教え子の行動がSNSで批判されているという知らせを受ける。窮地に追い込まれた紅は起死回生を図るのだが…。
私たちはこんなにも弱くて、脆い。それでも生きることから、逃げられない。音大のピアノ専科に通う真尋は、大学の授業で人の心を癒やすための音楽に出会った。今まで自分が演奏してきたのとは全く違う音楽の世界に興味を持った真尋は、即興演奏をもとに患者の抱えた問題と向き合っていく音楽療法の実習を受けることに。誇れる娘であってほしいと悪意なく邪魔し続ける母親にもめげず、クライエントと音を通じて向き合い続ける真尋だったが、次第に彼女自身が抱えた秘密も明らかになってゆきー。切ない痛みと力強い決意を描いた感動作!
「実は、世界は、もう壊れはじめているんだ」幼馴染の翔子と再会した書店店主・大介は、すっかり忘れていた小学校時代の出来事を思い出す。同級生四人と忍び込んだ、町で一番高いマンションの最上階。そこにいた不思議な男は、世界の終わりを予言した。その真意を確かめたくなった大介と翔子は、三十年前の記憶をたどりながら再びマンションを訪れるが、男がマンションから飛び降りたという噂を耳にして…。大人になった俺たちは、世界を、自らを、救うことはできるのか。同級生との再会で呼び覚まされた、三十年前に出会った不思議な男の記憶。「ひび割れた世界」に生きる人々のかすかな希望を力強く描く連作短篇集。
生い立ちに問題を抱え周囲に心を開けない女性小学校教諭と、無自覚なままに人が見抜かれたくないことを言葉で射抜いてしまうカメラマンの青年・葛城。人と交わることが苦手な二人は傷つきながらも惹かれ合うが、葛城は山に撮影に出たきり姿を消してしまい…(「水に立つ人」)。選考委員全員が○を付けた、第93回オール讀物新人賞受賞作を含む鮮烈なデビュー作。