著者 : 高橋治
古美術店「故渓」の女主人、氏家蔦代は茶人だった父から受け継いだ確かな眼と気っぷの良さで、同業者からも一目置かれる存在。男に縁がないわけではないのに、独身を通しているのが周囲の人間にとっては不思議だったが、実は深い訳があった。情けを交わした男には決まった不幸が訪れるーそんな数奇な宿命が蔦代にはつきまとっていたのだ。その始まりは、初恋のあの人だった…。
岐阜県・長良川河畔で老舗の旅館を営む日野家の嫁、沙衣子は、主婦業に専念していたが、夫が急死したため、素人同然の身で若女将となった。悩みの種は姑の松乃。伝統や格式にこだわり、客よりも旅館側の都合を優先する松乃の考え方は、沙衣子と相反するものだった。やがて沙衣子は、理想のもてなしができる旅館を新たにつくろうと決意するが、その道のりはあまりに遠く険しかった。
自分の無力さを痛感した沙衣子は、かつて恋心を抱いた建築家・宗野徹也への想いを蘇らせていた。その想いが通じたかのように、沙衣子は十数年間、行方知れずだった宗野との再会を果たす。共に歩む運命を予感した二人は、出会いから長い時を経てようやく結ばれた。宗野は沙衣子のひたむきな心に動かされ、素晴らしい旅館を築きあげる。しかし沙衣子は、ある決意を固めていた…。
TV局に勤める夫と女優の浮気に気づいた35歳の人妻。6年越しの煮え切らない恋が重くのしかかる、33歳のツアー・コーディネーター。長い間追い求めていた香りを完成させた途端に、妻に去られてしまったパーフューマー。恋愛と結婚、仕事と家庭など、様々な問題の間で揺れ動いて、自分の感情に素直になれない男と女。その微妙な心理を花に託して巧みに描いた掌編8編を収録。
鯛釣り名人波太郎はアメリカから戻ると下田から西伊豆、浜名湖へと修行の旅を続ける。沖泊り源平とのカツオ釣り勝負は写真家と地元漁師が加わって大波乱。負けた方が陸に上がる条件で再び対決を迎えるが事態は一変、美女暁子と波太郎は北海道へ飛ぶ。魚に対する敬意と海の愛し方を説く、真の男の冒険行。
夫の転職にともなって長崎にやってきた谷地万沙子は、祭で一心不乱に太鼓を打ち続ける信次の凛々しい姿に心惹かれる。したたり落ちる汗が太陽に輝く。男はこれほどに美しいものか。彼女のその一瞬の心の揺れが思いがけない悲劇を生んだ。不倫の汚名を着せられた信次は12年後の再会を誓って島を去った。そして今、約束の時が訪れる。-海沿いの町を舞台に描く大人の恋の物語。
美しい海の町天草・牛深で特産の海産物加工品を本物の味に創り上げようとがんばる若き夫亡人千帆子。夫の面影に守られ、頑固な父親と名人肌の海女や慕って集まる若者たちに支えられて、ようやく彼女の努力が実を結ぼうとしたとき、純情な青年が現れて愛を告白する。自然と恋愛を大らかに描いた力作長編。
ずっと考えて来ていたことは…誇らかに花咲かせたい…咲く君のそばにいたい…芭蕉布を勉強するために沖縄に来ていた緋紗代の前に現れた事業家武富とホテルの支配人伊集院。珊瑚礁の美しい徳之島を舞台に、2人の間を揺れ動く女ごころを描く「夜光貝岬」ほか「沖ノ蔵千畳敷」「薩摩ずべい釣り」を収録。