著者 : 鳴海章
立て篭もり無理心中、女性警察官殺し、中学生乱射事件。いずれも凶器となったのは、同じ型のマグナム銃だった。愛崎署で銃器薬物対策係に所属する佐倉は、潜入捜査官となって銃の密売経路を追う。頼れるのは、うだつのあがらない極道、跡見ただ一人ー。不器用に信条を貫く男の姿を描いた警察小説の感動作。
ガソリンに溶ける新種の覚醒剤0822。その密売ルートを追う愛崎署の宇崎の周囲で、情報漏洩の疑いや容疑者の死など不可解な出来事が次々と起こり出す。一方で家庭より仕事を優先する毎日から彼と妻の関係はいつしか冷え切っていた。正義感と墜ちる快楽との狭間で男が行き着く先は…警察小説の衝撃作。
北海道東方でジャンボ機がハイジャックされた。針路は米軍三沢基地か?緊急発進する自衛隊のF-15。同じ夜、福島の原子力発電所が襲撃される。阻止のため潜入した“毒”と呼ばれる死を恐れない究極の狙撃手、暗号名はダンテ。事件は大規模な謀略戦の序奏に過ぎなかった。ダンテは標的を打ち抜けるのか!?風を読み、息を潜めるスナイパーの鼓動を感じる傑作。
夏見楓子-北海道・帯広の馬産農家に生まれたが、都会でのOL生活に憧れて上京。以来十年余り。達成感のない仕事と不倫の恋に疲れて、自分を見失いそうになっていた。ダイチ-ばんえい馬。夏見牧場ゆかりの血統で、伝説的名馬リキムゲンの孫。身体が小さく競走馬になれるかどうか危ぶまれていた。だめなら食肉用として処分される運命が…。廃業寸前の家業を継いで一から畜産農業を学び始めた楓子は、忘れかけていた土の香りや生き物のぬくもりに触れ、次第に生気がよみがえってくる。父が心血を注いだ強いばんえい馬づくりの復活に向けて一歩ずつ前進を始めていた。一方、老舗の厩舎に預けられたダイチは素質の片鱗を見せるものの、馬主がつくかどうかは微妙な状況だった…。
鳴海章『花男』-特殊な経緯で結ばれ普通の家庭を作った男を惑わす、妻と自分の「心に潜む謎」。桐野夏生『グレーテスト・ロマンス』-絶望から逃れるため、獄中の男は妄想を紡ぎ続ける。やがて、妄想の女から一通の手紙が届き-。野沢尚『ひたひたと』-少女時代に受けた心の傷から逃れられない女。その傷を与えた少年が当時のままの姿で現れた。三浦明博『声』-竿も持たずに釣り場に現れた男が尾行してきた…。バンブーロッドが取り持つ男の友情。赤井三尋『秋の日のヴィオロンの溜息』-来日中のアインシュタイン博士のバイオリンがすり替えられた。ケースはそのままなのに、なぜ。
「近藤、こいつをおれだと思って持っていってくれ」そう言って、真鍋はスイス製の高価なクロノメーターを突き出した。「おれの代わりにこいつを出撃させてやってくれ。おれたちは一蓮托生だ」九七式艦上攻撃機の乗員である一等飛行兵の近藤(操縦員)、鈴原(電信員)、真鍋(偵察員)の三人は、海軍鹿児島基地での猛訓練を経て、いままさに実戦に臨もうとしていた。出撃命令の下らなかった真鍋を残し、近藤らはオワフ島の北方二百三十海里の海上でハワイ空襲部隊の旗艦・空母『赤城』から飛び立つべく、自機に搭乗した-。昭和十六年十二月八日。若き飛行兵たちを通して真珠湾攻撃のすべてを描く、鳴海章渾身の書下し長篇大作。
ト・ツ・レ“突撃隊形制レ”…。土手っ腹だ、土手っ腹をねらえ!照星、照門が重なり敵艦・ウエストバージニアの中央-ちょうど煙突と煙突の間にぴたりとのった。「射っ」八百三十キロの魚雷を投下した九七式艦上攻撃機は、近藤の意志とはかかわりなく、ふわりと浮かびあがった。「魚雷は?」「走ってます!」鈴原は白い航跡を曳きながら敵艦に向かって真っ直ぐ走る魚雷の姿を捉えた。「右舷甲板に対空砲。鈴原、撃て!」九七艦攻の旋回機銃とウエストバージニアの対空機関砲が真っ向からむきあった。鼻先を薄緑色の曳光弾が唸りをあげる。衝撃波が顔を打つ。鈴原はのけぞり、そのまま側壁にたたきつけられた-。迫真、長く短い真珠湾攻撃の一日。
ファントム・ライダーとして数々の戦歴を誇る松本栄治は、四十歳を迎え、一線を退こうとしていた。そのラストフライトの日、松本の脳裏に蘇ってきたのは、中南米での人質奪還作戦飛行のことだった。実戦では先に敵機を発見した方に勝機がある。松本は自分の眼だけを信じ、勝ち残ってきたのだ…。意地と誇りを賭して蒼穹を駆けるライダーたちの物語。本格航空小説。