出版社 : アムリタ書房
南英丘陵地のフェアエーカー村の小学校長ミス・リードの夏休みは波乱の幕開けとなった。思わぬ怪我のために親友エイミーのもとで静養するのだが、エイミーの求めに応じてギリシアのクレタ島へと旅立つことになる。離婚問題をかかえた親友との、エーゲ海の輝ける島の休暇がこうして始まった。この地の風情を満喫しながらも、自らの暮らしに思いをめぐらす二人。結婚-共に暮らすことの歓びとそれゆえの苦悩。独身-自由とひきかえの孤独。性格も境遇も異なる二人の友情。機知とアイロニーとユーモアを全編にちりばめながら、暖かい愛情と鋭い洞察で描き出した英国田園物語の海外編。
南イングランドの丘陵地の片田舎フェアエーカー村。女校長ミス・リードの教える全校児童数40人の小学校に3人の新入生が入学した。新入生と村の人々の暮らしの一年を、女教師の眼を通して、暖かくときに辛辣にユーモアとペーソス溢れる筆致で描く。第二次大戦直後の英国の田園生活が、季節の移ろいの中で鮮やかに描き出される。小さな村の小さな学校の小宇宙。なつかしい記憶。そこには豊かな時間が流れ、私たちは永遠なるものに触れる。著者の筆は、的確な写実により、典型を描いて普遍に至る。
ミス・リードが校長に就任した南イングランドのフェアエーカー村小学校の掃除婦ミセス・プリングルは、気難しいが比類のない働き手。ミス・リードが初めて村の学校のロビーに泥足を踏み入れたとき、開口一番冷やかなスタッカートで、「そこ、掃除したばかしなんですがね!」。それが、何年にもわたって続く戦闘の第一弾であった。ミス・リード着任のいきさつから、村のタフな好敵手ミセス・プリングルとの出合いと交渉。主人公ミス・リードと心優しい村人たちとのふれ合いを、辛辣ななかに暖かな眼差しをたたえてユーモラスに描く。中村妙子訳ミス・リード・コレクション第5冊。フェアエーカー物語シリーズ。
平成九年をもって八十歳の坂を越した著者が綴った、自己の体験を織りまぜながらの小説。作中の人物やその生活等は創作だが、主人公の語る「兵隊物語り」は、ほぼ体験そのままである。戦記ものではとかく自分の功を誇り、失敗を隠しがちだが、本書では事実およびその時々の気持が素直に述べられている。
フェアエーカー村の学校の元校長ミス・リードは、健康上の問題から定年まで数年を残して退職したが、思い描いていた平和な暮らしと現実は大分違っていた。リタイア後も、おなじみのボブ・ウィレットは庭の手入れに、ミセス・プリングルは掃除の手伝いにと通ってきたは、フェアエーカー村のゴシップに余念がない。友人のヘンリー・モーンの家庭問題、ジョン・ジェンキンズの習慣化した求婚などミス・リードの身辺もにぎやか。そして、手すさびにと、ものを書くことを勧められたミス・リードは、新しい目標に挑戦するのだが…。半世紀にわたって数多くの田園物語で欧米の読者を魅了しつづけてきたミス・リードの英国田園物語最新作。
九月のある夜、月光に浸された南イングランドの田園のコテージで、年老いた女性が息をひきとった。村の学校の元教師エミリー・デーヴィスの死の知らせは、フェアエーカー村ゆかりの人々の間に静かに波紋を広げてゆく。記憶の中から浮かび上がる思い出の出来事の数々。エミリー先生の勇敢な精神と暖かい教えは、村を離れた昔の教え子たちや、土地に住む友人たちの心のうちに生きつづけていた。二つの大戦を生き抜いた女教師の姿を通して、二十世紀初頭から今日までの英国田園生活のパノラマが、詩情豊かに描き出される。簡潔な文体による写実。全編に溢れるユーモアと機知。英国を代表する田園作家ミス・リードの佳品を名訳で贈る。
22歳のフローラは、故郷コーンワルの父のもとを離れて再びもどったロンドンで新しい生活を始めようとしたやさき、偶然にも自分に双子の姉妹ローズがいることを知る。そのショックから立ち直る間もなくフローラは、ローズの代わりとして、スコットランドで病の床につく老婦人のもとを訪れることになる。だがそこで出会ったのは、安っぽい欺瞞であしらうことのできない立派な人々であった。自らのアイデンティティーの危機をはらみながら、善意からとはいえ、嘘をつき人を欺きつづけることで苦悩するフローラ。みずみずしい情感とゆたかな筆致で描き出される物語世界。
フランスの片田舎に育ったフィリップは、母から自分がイギリスの公爵の私生児だと知らされる。財産相続の証拠となる手紙を携え危篤の父に会いにイギリスに渡るが、正妻と嫡男に命を狙われ、ロンドンに逃げる。印刷屋で世話になるうちにフランクリンを知り、印刷、出版の啓蒙的役割に惹かれ、新大陸で身を立てる決意をする。ボストンの印刷屋は独立運動家達のアジトで、次第に彼等と深い関わりを持つことになる。ケントでの運命的な恋の行方は?ボストンで出会った新しい時代を生きる女性とは?貴族生活への夢とアメリカの民主運動の間で揺れる心の葛藤は?さまざまな歴史上の人物がフィリップと交わり数々の逸話が語られていく…。フランス〜イギリス〜アメリカを舞台に繰り広げられる大河ロマンの第一弾。
ワシントン(後の米大統領)の英国への反乱軍兵士として、平和を夢みながら勝利のために、飢え、寒さ、病気、怪我に苦しみながらも懸命に戦うフィリップ・ケント。彼と結婚し一児を儲けるが、悲劇的な結末を迎えるアン。優しいが、弱い性格のジャドソン・フレッチャーは、ヴァージニアの大農園主の次男として生まれたが、父親の期待に添えず、初恋の人も友人に嫁ぎ、酒と放蕩の日々を過ごす。不名誉で、悩める彼が、それでも英雄になれたのは何故か?フィリップとジャドソンを結び付けることになる、美しく聡明なペギー・マクリーンは?アメリカの独立戦争を背景にダイナミックに展開する親子の、夫婦の、兄弟の、友人の、そして人間全体への愛に溢れる巨編。
幼くして両親を失くしたローラは夫アレクとの新婚生活の幸せのさ中にありながら、妻として自信の持てない自分をもどかしく感じていた。季節は夏。病後の療養に出かけた先はアレクの叔父の住むコーンワルの果てのトレーメンヒア荘。ローラを迎えたのは風変わりな人々の暮らす地上の楽園であった。コミューンの暮らしから照らし出される家族の形-孤独と癒し。人間のやさしさと怖さが胸に迫る物語が渋滞なくうつくしく展開する。
インドから「光り輝く島」(スリランカ)へ移住し、小さな町の駅前で粗末な茶店をいとなむ男、レンガサーミ。タミル人の彼は、シンハラ人優位の社会で、シンハラ人になりきろうと健気な努力をかさねてきた。妻と年ごろの娘との、貧しいながらも平穏な生活。だが、彼がきずいた人生は、町の映画館でおきた些細な出来事をきっかけに一変するー。仏教とヒンドゥー教、シンハラ語とタミル語…さまざまな民族と文化がせめぎ合う国スリランカ。その複雑な社会で、少数派として生きるレンガサーミの姿を、シンハラ人の「私」が友人の眼で描写する。開発の波に洗われ変わりゆく町を舞台に、スリランカの根源的な問題を浮き彫りにした力作長編。
本書はC・S・ルイスの珠玉のファンタジー『ナルニア国年代記』に様々な角度から光をあて、その魅力の秘密と特質を明らかにしようとする試みである。C・S・.ルイスについてあまりよく知らない方々にとっても、ルイス文学の格好の入門書としての役割を充分に果たしてくれる豊かな内容を含んでいる。また、児童文学一般、ファンタジー、キリスト教と文学の関係などに関心を持っている方々にとっても有益で楽しい読み物となるに違いない。増補改訂にあたって新しい章を一つ加え、主要書目を増補し、新しい挿し絵と入れ換えた。