出版社 : ベネッセコ-ポレ-ション
風変りな幻想の博物館の世界を描いた表題作「バーナム博物館」、アラビアン・ナイトの魅惑の源を探った「シンバッド第八の航海」、幻影の女性がもたらした甘美な呪い「ロバート・ヘレンディーンの発明」、『不思議の国のアリス』のパロディ『アリスは落ちながら』、ミステリアスな雰囲気に満ちた「探偵ゲーム」、謎めいた芸人の鬼気迫る生涯の物語「幻影師、アイゼンハイム」他、全10篇を収録。
ジョン・ベアドはヘミングウェイを専門とする、しがない大学教員。常人離れした記憶力の持ち主であるが、絵に描いたような学者バカ。学内政治に疎く、学者として出世する望みはほとんどない。そんなある日、キーウェストのとあるバーで論文をしたためていた彼は、詐欺師のシルヴェスター・キャッスルメインと知り合いになり、ヘミングウェイの小説の贋作作りを持ちかけられる。ヒトラーの日記やハワード・ヒューズの自伝など過去にも贋作事件の例はある、うまくすれば一攫千金も夢ではないのだ。最初のうちは気が進まなかったベアドだったが、ベトナム戦争で負傷し創作に手を染めるなど、自身の人生をヘミングウェイの生涯に重ね合わせがちな彼は、いつしか我知らずのうちに贋作作りに没頭してしまう。だが夢中になってタイプライターを打つ彼の目の前に、なんとヘミングウェイその人が現われたことから、事態は意外な方向へ進展していくのだった。消失したヘミングウェイ作品の贋作でひと儲けをしようという悪だくみに、パラレル・ワールドの幻想をからめたライトなSFコメディの世界。ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞。
最愛の子を失い、夫の浮気も発覚して意気消沈するドロシー。そんな折りも折り、海洋調査研究所から逃げ出した謎の怪物「アクエリアス」が彼女の前に現われる。身長2メートルはあろうかという、海陸両棲の蛙男。ドロシーはその怪物を海に帰してやろうとするが…。哀しみの果ての優しさを描いた表題作ほか、倦怠期にさしかかった中年夫婦と新婚カップルの奇妙なやりとり(「聖ジョージとナイトクラブ」)、公園のベンチで終日夢想に耽る男の話(「置き去りにされた男」)の2篇収録。
1926年5月のある嵐の日、ドイツの小さな地方都市ピューリッツ(現在はポーランド領)で女の子が生まれる。父親のいない私生児。ポーランド人の祖母はマレンカ(雷)と呼び、ドイツ人の母はマルゴットと呼ぶ。1939年に勃発した第二次大戦終戦の混乱の中で、彼女は死んだ親友になりかわり、偽りの人生を歩むことになるが。-戦争によって国家も、家族も、自我さえも引き裂かれたドイツの悲劇を躍動感溢れる文章で描く、ベストセラー作家の代表長篇。
「性」以前の澄明な精神を求めて、自らを〈僕〉と称する女子高生徒。17歳のうつろいやすい魂とジェンダーのうっとうしさを描いて、時代の皮膚を垂直に刺す第9回「海燕」新人文学賞受賞作。
一通の手紙からはじまった奇妙な旅。旅先で出会うのは愛すべきおかしな連中ばかり。アーヴィング、ヴォネガットに続く異才が放つ、パワフルでユーモラスなロード・ノヴェルの傑作。
南アフリカ北西部のとある閑静な漁村。この平和な土地にある犯罪者を追って圧政者イネス署長が乗りこんできたことから、物語は意外な展開を遂げていく。-漂流者や流れ者などさまざまな人々のるつぼのような架空の村を舞台に繰り広げられる、魔術的リアリズムに満ちた異色小説。
ヒーローでもヒロインでもないし、腹心の友でも悪漢でもないが、オペラで大団円をもたらすのに必要不可欠な役柄は「五番目の男」と呼ばれていた。カナダの小さな村で生まれたダンスタン・ラムゼイは、悪友がいたずらで投げた雪つぶてがもとで、人生の歯車が大きく狂っていく。第一次大戦への参加、聖人研究の旅、奇妙な魔術団との出会い、さまざまな女性遍歴。奇々怪々なこの一篇の物語の中で、「五番目の男」の役割を果すのは一体誰なのか?カナダ文学界の大御所ロバート・デイヴィスの代表作、本邦初紹介。
中国奥地に源流を発し、極地地方を通ってニューヨークにまで流れ込む伝説の大河、ハサヤンパ。そこはすばらしい魚の宝庫であり、マストドンやユニコーンまでもが生息していた。少年ランナーは父親のティルカットに連れられて、釣りと狩りのキャンプ旅行にハサヤンパ河を訪れた。マストドンを撃ち倒し、淡水カジキを釣りながら、父子の旅は順調に続くように思えたが、ある苛烈な出会いがハサヤンパ河上流で二人を待ち受けていた…。奇想天外な傑作カルト小説。
徳を尊ばれた男が、荒野の国の人々に謀殺された後に鬼と化し、迷いの世界を生きかわり死にかわる姿を説話的に描く表題作ほか、破壊するにはあまりに凡庸な現代の生を、そして書く行為を根源的に凝視する六篇。