出版社 : ベネッセコ-ポレ-ション
今まで現実だと信じていたものが突然得体の知れないものへと変じ、日常生活に亀裂が生じたとき人は恐怖のどん底へ突き落される。本書を読む者は、割れ鏡に映じた己れの姿を前にして目まいを憶えるように、不気味な幻想の世界へと誘われていくであろう。ハリウッドの老女優にまつわる奇妙な物語「影の商人」、日記に残されたサイコ・スリラー「焔の湖での自己洞察」、ボードレールへの猥雑なオマージュ「J」、グロテスクな御伽噺「お妃の死」他、短篇全10篇を収録。
19世紀に華々しく開花したゴシック小説。その死と恐怖に満ちた暗黒の世界は、われわれ現代人の心の中にも巣くっている。本書は現代作家によるゴシック小説を甦らせようという試みであり、新たな世紀末を飾るに相応しい異色のアンソロジーである。呪われた画家の生涯を描いた幻想譚「展覧会のカタログ」(スティーヴン・ミルハウザー)、プラスチックに覆われた奇妙な街の世界「ニュートン」(ジャネット・ウィンターソン)、平和な日常生活へのグロテスクなファルス「オヴァンドー」(ジャマイカ・キンケイド)、ポオを思わせる不気味な死の物語「におい」(パトリック・マグラア)他、短篇全9篇を収録。
ジェラルドとジョージは一見仲の良い双子の兄弟。一心同体とも言うべき2人は家族の宝であり、皆のアイドルだった。しかし、長年消息の途絶えていた弟のジョージが突然姿を現わしたとき、兄のジェラルドは再会の喜びよりもあるうとましさを覚える。ジェラルドは一週間の約束で家を弟に明け渡すが、帰宅した彼を待ちうけていたものは。『ワールズ・エンド』『モスキート・コースト』『0=ゾーン』の鬼才ポール・セローが、双子の兄弟のひそかな近親憎悪が引きおこす謎の怪事件を描いたサスペンスロマン。
『赤い小人』、『メテオール(気象)』などの作品で知られる著者による、人生へのエスプリに満ちた短篇集。インドで迎えたクリスマスの思い出話「星に物乞いする男」、美少年との同性愛への賛歌「アフリカの情事」、レジスタンスの“闇の世界”を描いた「花火製造あるいは記念日」、天地創造の寓話「音楽とダンスの伝説」他、全20篇を収録。
SFか?現実か?新生ドイツの話題作。西暦2016年のドイツ。17歳の高校生カールは小さいときから自分が養子であることをきかされていたが、実の両親捜しを進めていくうち、出生にまつわる怖ろしい秘密を知ることになる。
眼の前には雄大な青空があった。自分だけがぽつんとそこにいる-。だが、生きていくことは、とてもしんどい、けれど刺激的なエンターテインメントだ、と思いたい。家族の崩壊を前提にドラスティックに生きる高校生を描く期待の新鋭の中篇小説集。
1995年1月27日午後6時47分、第三次世界大戦勃発。6時51分終結。その間、わずか4分。そしてその実事を知っているのは、ワシントン郊外に住む一小児科医だけ。恐怖の核戦争をスラップスティック風に描いた快作「第三次世界大戦秘史」。終りのない内乱に明け暮れるベイルート。17歳の少年戦闘員ライアンは、停戦を実現するすばらしいアイデアを思いつくが…。中東紛戦を戯画化した表題作「ウォー・フィーバー」。エイズが蔓延した21世紀。低下する一方の出生率を上げるため、国家によるセックスの強制が実施される(「エイズ時代の愛」)。イマジネーションを刺激する14篇を収めた最新短篇集。
ラオス国境沿いにあるヴェトナムのアメリカ軍基地に一人の兵士が転属されてきた。男の名前はトム・ライト。敵襲を何度も生きのびてきた優秀な狙撃兵であった。だが、ライトの配属された部隊は常に戦死者が続出するため、誰一人彼の回りに近づこうとする者はいなかった。通信兵ジャクソンは、ライトの面倒を見ることを命じられたことから彼と親しくなり、〈スターライト〉と呼ばれる狙撃用の夜間スコープに隠された驚くべき秘密を打ち明けられる。なんと、ライトの持つ夜間スコープには次に戦死する人間の姿が浮かび上がるというのだ。一方、前線基地はすでにイカレた兵士たちの吹きだまりと化していた。M-16ライフルをギターがわりにして、ジミ・ヘンドリックスの歌詞でしか会話をしないロック狂の兵士レナルズ。雷が同じところには落ちないという俗信から、わざと弾痕の開いた戦闘帽をかぶっている分隊長のリアンダー。ライトにまつわる伝説を利用して、怪しげな保険を始めて一儲けをたくらむイカサマ師のラボウフなどなど。死の恐怖におびえる兵士たちは、さまざまな狂態を繰り広げていた。やがて戦況は悪化して、ライトはスコープに映し出される奇妙な《死者の棲む街》の話をし始め、ジャクソンも彼も、やがてその街の住人となることを告げたのだった…。ジョーゼフ・ヘラーの「キャッチ22」や、ティム・オブライエンの「カツィアトを追跡して」の流れに続く、新進作家による異色の戦争小説。
『むずかしい愛』は、現代人の日常生活の中でのさまざまな“すれちがい”のおかしさを集めた、ユーモアとエスプリに満ちた短篇集である。活字中毒者が繰り広げる微笑ましい恋愛光景を描いた「ある読者の冒険」、写真マニアの秘かな願望を探る「ある写真家の冒険」他、全12篇を収録。
ハルオと立人とわたし。男女3人の共同生活は、どこか奇妙でヘンに家庭っぽい…。あらかじめ壊れたところから営む現代の最も新しい人間関係を鋭く捉えた大型新人デビュー作。第9回「海燕」新人文学賞受賞作。
見果てぬ青春の夢を追って、アメリカ中西部の大学へ、そしてニューヨークへ-。’60年代の無垢と頽廃の気配がきざす風俗、新しい詩の潮流、性のパフォーマンスに賭ける日米の若者たちを描いて、アメリカと自己をみつめる連作小説。
風変りな幻想の博物館の世界を描いた表題作「バーナム博物館」、アラビアン・ナイトの魅惑の源を探った「シンバッド第八の航海」、幻影の女性がもたらした甘美な呪い「ロバート・ヘレンディーンの発明」、『不思議の国のアリス』のパロディ『アリスは落ちながら』、ミステリアスな雰囲気に満ちた「探偵ゲーム」、謎めいた芸人の鬼気迫る生涯の物語「幻影師、アイゼンハイム」他、全10篇を収録。
ジョン・ベアドはヘミングウェイを専門とする、しがない大学教員。常人離れした記憶力の持ち主であるが、絵に描いたような学者バカ。学内政治に疎く、学者として出世する望みはほとんどない。そんなある日、キーウェストのとあるバーで論文をしたためていた彼は、詐欺師のシルヴェスター・キャッスルメインと知り合いになり、ヘミングウェイの小説の贋作作りを持ちかけられる。ヒトラーの日記やハワード・ヒューズの自伝など過去にも贋作事件の例はある、うまくすれば一攫千金も夢ではないのだ。最初のうちは気が進まなかったベアドだったが、ベトナム戦争で負傷し創作に手を染めるなど、自身の人生をヘミングウェイの生涯に重ね合わせがちな彼は、いつしか我知らずのうちに贋作作りに没頭してしまう。だが夢中になってタイプライターを打つ彼の目の前に、なんとヘミングウェイその人が現われたことから、事態は意外な方向へ進展していくのだった。消失したヘミングウェイ作品の贋作でひと儲けをしようという悪だくみに、パラレル・ワールドの幻想をからめたライトなSFコメディの世界。ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞。