出版社 : 作品社
「牛肉のひれや、人間の娘より、柔々(やわやわ)として膏(あぶら)が滴る……甘味(うまい)ぞのッ」 “世界に冠たる「きのこ文学」作家”泉鏡花の8作品を集成! 『原色日本菌類図鑑』より、190種以上のきのこ図版を収録! その魅力を説く「編者解説 きのこ文学者としての泉鏡花」付! お姫様は茸(きのこ)だものをや。 紅茸と言うだあね、薄紅(うすあこ)うて、白うて、美い綺麗な婦人(おんな)よ。 山路はぞろぞろと皆、お祭礼(まつり)の茸だね。坊様も尼様も交ってよ、尼は大勢、びしょびしょびしょびしょと湿った処(ところ)を、坊主様(ぼんさま)は、すたすたすたすた乾いた土を行く。湿地茸(しめじたけ)、木茸(きくらげ)、針茸、革茸(こうたけ)、羊肚茸(いぐち)、白茸、やあ、一杯だ一杯だ。 初茸なんか、親孝行で、夜遊びはいたしません、指を啣(くわ)えて居るだよ。……さあ、お姫様の踊がはじまる。(「茸の舞姫」より) 化鳥 清心庵 茸の舞姫 寸情風土記 くさびら 雨ばけ 小春の狐 木の子説法 編者解説 きのこ文学者としての泉鏡花 飯沢耕太郎
全米図書賞受賞作!突然死した兄への思い、ゲイだと告白したクラスメイトの失踪、マイノリティへの差別、友情と恋心のはざま、そして家族の愛情…。アイデンティティを探し求める黒人少年の気づきと成長から、弱さと向き合い、自分を偽らずに生きることの大切さを知る物語。
一九六八年一月、研修医の待遇改善に端を発する東大医学部闘争が勃発。その余波は、小暮悠太が所属する精神医学教室にも及び、悠太の研究室も全共闘の学生たちに占拠される。騒然とした状況の中、犯罪学の研究の傍ら小説を書き始めた悠太。そこへ、幼い頃から愛し続けていた千束が離婚したとの話が舞い込んでくるーー。 『永遠の都』に続く自伝的大河小説の第三部。毎日出版文化賞企画特別賞。
無実の殺人の罪を着せられて警察の拷問を受け、地下の世界に逃げ込んだ男の奇妙で理不尽な体験。20世紀黒人文学の先駆者として高い評価を受ける作家の、充実期の長篇小説、本邦初訳。重要な中短篇5作品を併録した、日本オリジナル編集!
コロナ禍に揺れる二〇二〇年の日本から幕末の蘭医で近代化学の祖である川本幸民のなした翻訳文化の知の体系を照射した表題作と、ルネサンスを生きた人文主義者マキァヴェッリの宗教への想いを描いた「残映のマキァヴェッリ」。日本とイタリアを舞台に、「近代」とは何かを鋭く問う、歴史小説集!
精神医学教室に入局して精神科医としての第一歩を踏み出した小暮悠太。研修を経て東京拘置所の医務官となった悠太は、あらゆる種類の犯罪者が集まっていることに興味をそそられ、やがて死刑囚の拘禁反応を研究することに。順調に医者への道に進み始めた悠太だが、一方で十歳年上の人妻と抜き差しならない関係を結び、懊悩するーー。 『永遠の都』に続く自伝的大河小説の戦後編。毎日出版文化賞特別賞受賞。
都パリを逐電したラ・モット夫妻は、荒野の一軒家で保護した美しき娘アドリーヌとともに、鬱蒼たる森の僧院に身を隠す。彼らを待ち受けるのは恐るべき悪謀ーー 今なお世界中で読み継がれる名著『ユドルフォ城の怪奇』に先駆けて執筆され、著者の出世作となったゴシック小説の傑作。刊行から二三二年を経て本邦初訳! 袖口にスリットが入ったグレーのキャムレットの衣装は、彼女の容姿を引き立てこそすれ、飾り立てるものではなかった。開いた胸元には乱れた髪が覆いかぶさり、慌てて纏った軽いベールは、混乱していたためか、上げられたままになっていた。(…)この荒涼とした家、そしてそこに巣くう粗暴な輩たちとはあまりに対照的な、優雅で洗練されたその様相を見るにつけ、彼は、これは実人生での出来事というよりは、想像力が生み出したロマンスなのではないか、という気がしてくるのであった。彼は何とか彼女を慰めようと努めたが、その誠意あふれる同情心に疑いを差し挟む余地はなかった。娘の恐怖心は徐々に収まってゆき、悲しみと同時に感謝の念も湧き上がってきた。 「ああ、ありがたや……」彼女は言った、「わたしをお救いくださるために、天が貴方様を遣わしてくださったのですね……どうか貴方様に神の報いがございますよう……わたしには貴方様以外、この世に一人の味方もないのです……」(本書より)
親鸞の嫡嗣にして義絶された宗門の異端者! 造悪無礙など非道に奔る東国の門徒を鎮めるため親鸞の命で下向した嫡嗣善鸞。性信・真仏ら親鸞面授の門弟との確執、忍性・日蓮ら鎌倉仏教の名僧たちとの諍論を経て独自の道を辿る。 第一章 再会 第二章 門弟 第三章 東国 第四章 義絶 第五章 鎌倉 第六章 秘儀 終章 覚如 あとがき
レーモン・クノー『文体練習』を手がけた名翻訳者/フランス文学者による、奇想の小説集。 パンデミック後の世界を描く傑作短篇から近未来ディストピア・フィクションまで、驚異とユーモアに満ち満ちた全16篇。 診察から帰ってきた鈴麗の声は弾んでいた。 「ミミタケなんだって。すごく珍しい、って感心してた」 「何、それ?」 「あのね、耳がキノコになるらしいよ。最初のあれ、真菌性のハナタケだったんだって。気がつかなくて申し訳なかったって頭を搔いてたけど、それが耳に来てしまったんだって。それでね、ハナタケがミミタケになったら、もう間に合わないんだって」 「何が?」 「だからさあ、ミミタケになったときは、もう脳の中に菌糸が入り込んでるの。だから治らないんだよ」(「KINOCCO-19」より) KINOCCO-19 Kの災難 虎の目 三途の湯 蕎麦殻の枕 クダアリの話 間男 千年劫 流されて 丘の上の桐子 門 妖怪池 軽井沢日記 思い出酒場 トーキョー・セレナーデ 最後のピクニック
サンフランシスコ講和条約が発効した直後の一九五二年五月一日、皇居前広場には政府に抗議する多くの労働者や学生が集まっていた。東大の医学生となり、セツルメント活動に関わっていた小暮悠太もその中にあったーー。占領が解かれ、新時代に向けて胎動する中、小暮家の新たな歴史が紡がれていく。 『永遠の都』に続く自伝的大河小説の続編、ついに開幕。 毎日出版文化賞企画特別賞。
記憶の芸術家、ノーベル文学賞受賞後の第一作。 小さな偶然と大きな奇跡──忘却と想起を詰め込んだ、日本語版オリジナル編集の小説集。 眠れる記憶 ──僕は、街角でしか人が真に出会うことはあり得ないと長らく信じていた。 老齢を迎えた語り手が、六十年代を生きた自らの激動の青年期を振り返りながら、記憶の奥底に眠っていた女性たちとの出逢い、別れ、そして再会の思い出を想起する。ノーベル文学賞受賞後初の作品となる表題作。 隠顕インク ──この人生には空白がいくつかある。 パリから失踪した女性を捜し出すという任務を授かった主人公は、彼女が住んでいたと思われるアパルトマンで一冊の手帳を発見する。三十年後、自ら調査を再開して目撃者を追跡するのだが……。 眠れる記憶 隠顕インク
戦争が日常を覆い暗雲が立ち籠める中、悠太は陸軍幼年学校での厳しい訓練の日々を過ごす。母・初江は、弟・研三の疎開先の草津へ行くが、その帰り、上野駅で三月十日の大空襲に遭遇、辛くも一命をとりとめる。一方、苦しい経営に耐えながら、何とか診療を続けていた祖父・時田利平の病院も空襲によって焼け落ち、利平は全身に大火傷を負って失明する……。 戦争に翻弄されながらも、ひたむきに生きていく人びとの姿を活写する大河小説、いよいよ佳境へーー。 芸術選奨文部大臣賞。
ようやく戦争が終わり、焼け残った東京の我が家へ戻ってきた悠太は、深い喪失感を抱きながらも都立高校へ進学して、新たな生活が始まる。離ればなれになっていた一家がともに暮らせるという喜びも束の間、長年、時田病院を牽引してきた祖父・利平が七十二年の生涯を終える。 戦争という惨禍に彩られた時代を生き抜いてきた時田家、小暮家三代の物語がついに大団円を迎える。 芸術選奨文部大臣賞。
1923年、大正12年の関東大震災から時を経てフランスはパリの都に渡った一人の日本人。ベルエポックと呼ばれた20世紀の麗しの時代は、欧州の戦乱で失われたが、我が主人公はヴァイオリンを片手に、新たなふらんす物語を紡ぎ出す。パリジェンヌとの恋は成就するのか。波瀾万丈の日仏混合のコメディであり、小説のキュービズムがここに誕生する。
『源氏物語』に託された宿望! 幼くして安倍晴明の弟子となり卓抜な能力を身に着けた香子=紫式部。皇后彰子と呼応して親政の回復と荘園整理を目指し、四人の娘を四代の天皇の中宮とし皇子を天皇に据えて権勢を極める藤原道長と繰り広げられる宿縁の確執。 書き下ろし長篇小説。 2024年NHK大河ドラマ『光る君へ』関連本! 第一章 不可思議な未来が展ける 第二章 源氏の物語を書き始める 第三章 彰子入内と怨霊との対決 第四章 天満宮上空に北辰が輝く 第五章 皇子の誕生と望月の和歌 終章 帝の夢を女院が引き継ぐ
小学校高学年になった悠太の淡い恋、世界一周に出かける父・悠治、ヴァイオリンの才能に目覚める妹の央子……小さな波風を立てながらも平穏な暮らしを続ける小暮家。 妻・菊江の死を乗り越えて大きく発展していく利平率いる、時田病院。不幸な結婚から新たな恋を獲得する時田家の次女・夏江…… そんな両家の日常を一気に押しつぶす太平洋戦争の開戦と、相次ぐ東京への空襲。戦時体制下に暮らす人びとの運命を稠密に描く大河小説。 芸術選奨文部大臣賞。
オランダの文豪が描き出す、日本の原風景 大正時代、五か月にわたって日本を旅したオランダを代表する世界的な作家が、各地で見聞・採集した民話・神話・伝承や絵画などから広げたイメージをもとに描いた物語、全30話。 著者没後100年記念出版! 浄福と慈悲の阿弥陀、高く伸びた茎の先に花を咲かせ、陽ざしを浴びてきらめく幾千もの蓮華の池を越えて、至福の涅槃(ねはん)に入ることをみずからは望まなかった阿弥陀、その阿弥陀が東の水平線の上に、あるいは高みから波打つように下方に向かう山々の広大な稜線の合間に姿を現わすとき、その両眼は、胸元は、指先は光り輝く。 そして、その光とともに首の周囲の〈慈悲の糸〉を摘(つま)みあげる。死後の世界に阿弥陀のそばへ寄るすべての者たち、たとえ、ちっぽけな、とるに足らぬ者であれ、今こうして、両眼に光輝をたたえたその姿を仰ぎ見るすべての者たちへ向けて。いかにちっぽけでとるに足らなくとも、苦難に満ちた現世の生を終えたすべての者たちがその糸をつかみ、胸にしかと抱くようにと、首に三重(みえ)に巻いた糸を持ち上げるのである。(本書「序奏」より) 序奏 第一話 女流歌人たち 第二話 岩塊 第三話 扇 第四話 蛍 第五話 草雲雀(くさひばり) 第六話 蟻 第七話 明かり障子 第八話 篠突く雨 第九話 野分のあとの百合 第十話 枯葉と松の葉 第十一話 鯉のいる池と滝 第十二話 着物 第十三話 花魁(おいらん)たち 第十四話 屏風 第十五話 ニシキとミカン 第十六話 歌麿の浮世絵 『青楼絵抄年中行事』下之巻より 第十七話 吉凶のおみくじ 第十八話 源平 第十九話 蚕 第二十話 狐たち 第二十一話 鏡 第二十二話 若き巡礼者 第二十三話 蛇乙女と梵鐘 第二十四話 波濤 第二十五話 審美眼の人 第二十六話 雲助 日本奇譚一 権八と小紫 激情の日本奇譚 日本奇譚二 雪の精 親孝行の日本奇譚 日本奇譚三 苦行者 智慧の日本奇譚 日本奇譚四 銀色にやわらかく昇りゆく月 憂愁の日本奇譚 訳者あとがき
人間が高められている、ひたすら人間的ーートニ・モリスン 妊娠中の身を賭して、奴隷隊の反乱に加わった黒人の少女デッサ。 逃亡奴隷たちをかくまい、彼らとともに旅に出る白人女性ルース。 19世紀アメリカの奴隷制度を描く黒人文学の重要作、本邦初訳! 巻末附録:「霊的啓示 トニ・モリスンとの会話」 なんと深く、豊かで、力強い作品なのでしょう……わたしは、言語にも思慮にも、祖先との明白な共働作業(コラボレーション)にも、そして作品のページをめくるたびに出会う愛にも驚嘆し、感動し、大きな喜びに満たされました。--アリス・ウォーカー もっと多くの新しい読者のために、この宝物のような作品が再版を続けることは必要不可欠であるばかりか、至上命令なのです。--トニ・モリスン 緒言 プロローグ 黒んぼ(ダーキイ)第一章/第二章 娘(ウェンチ)第三章/第四章 黒人女性(ネグレス)第五章/第六章 エピローグ 「歴史瞑想」序文 霊的啓示ーートニ・モリスンとの会話 訳者解説