出版社 : 小学館
塾は今や巨大産業として、莫大な利益を産む教育機関だ。利益が望めるところに犯罪も生まれる。神奈川県の進学塾に、自殺した教師の名で脅迫メールが届いた。何かと世間体を気にするその塾は、内密に事を済まそうと、ある人物に解決を依頼する。その人物とは、かつてキャリアとして将来を期待された警察官だった。しかし、彼はどす黒い組織に反発し、ある事件をきっかけに、潔く身を退いたのだった。事件を調べるうちに、また新たな事件、そして忌まわしい過去が暴かれていく……。 本格ミステリーの次代の担い手として期待される新人・青木知己、初の単行本化。
二七才、スナック勤務のあたしは、おなかに「俺の国」と称した変な地図を彫っている三才年下のダメ学生・カザマ君と四か月前から同棲している。ある日、あたしは妊娠していることに気付き、なぜか長野のペンションで泊り込みバイトを始めることに。しかし、バイト初日、早くも脱走を図り、深夜、山の中で途方に暮れて道の真ん中で寝転んでしまう。その時、あたしの目に途方もなく美しい、あるものが飛び込んでくるー。表題作を含む三編を収録した、二五万部突破「さくら」著者の清冽なデビュー作。
永久歯が生えてこないという娘おてるを診ることになった桂助。彼女は桂助とともに長崎で学んだ斎藤久善の患者で、その見たては間違いなかった。斎藤のところには患者が多数詰めかけ、〈いしゃ・は・くち〉は閑散としていた。そこに、同心の友田からの依頼で、桂助は傷のない女性の死体を診ることになった。すみれの花の汁が付いていたことを見つけ、その真相に迫っていくのだが……。新たに入れ歯師が仲間に加わることになる、大人気シリーズ第5弾。
「負け組」と言われる東京第一銀行の副支店長・蓮沼鶏二は、締め付けを図る本部と、不況に苦しむ取引先や現場行員との板挟みに遭っていた。一方、バブル期の経営責任もとらず、公的資金に頼りながら、なおも会長として院政を敷く元頭取を陥れようと策謀を巡らすリストラに遭った行員。その攻防から銀行ぐるみの不正の匂いをかぎつけた副支店長は、組織に反旗を翻す。攻守ところを変えるスリリングなドラマから現代サラリーマン社会の構造的欠陥を浮き彫りにする。
前作『笹色の紅』で評論家の絶賛を浴びた新鋭作家の、ほのぼのおかしくて、ちょっとせつない書き下ろしシリーズ第1作。 天保の改革で、贅沢なものが次々と禁止になるさなか、見事な戯画で大人気を博した歌川国芳。ついには国芳も奉行所に呼び出され、顔見知りらしかった遠山の金さんと全面対決へ。さて、その顛末はいかなることに!? 国芳と妙ちきりんな弟子たちとが織りなす浮世模様を、国芳の娘の絵師・登鯉の目から格調高く描く。
そこに与っていたのは空に向かって飛んでいくシャボン玉。「想い」と題された一枚の写真をきっかけに少女は少年へ想いを募らせていくがー。ピュアな感性とみずみずしい文章で描き出された「十五歳の純愛」。第六回小学館文庫小説賞受賞の話題作が待望の文庫化。
とある地方都市で小さな水草ショップを営むぼくのもとに、ある夜ひとりの美しい女性が現れる。店のドアに貼ってあった求人チラシを手にして……“アルバイト募集 年齢性別不問。水辺の生き物を愛する方ならどなたでも”。この出会いが、奇跡の始まりだった。著者の愛する映画『ノッティングヒルの恋人』へのオマージュで始まるファンタジックな青春ラブストーリー。'07年6月の映画公開に向け、著者初の、そして待望の長編文庫化!
真夜中の殺人現場から走り去った口裂け女、爆破殺人のあった学校で目撃された人面犬。ぼくと中瀬ひかるが勤める〈大川探偵事務所〉には、なぜかこのごろ「都市伝説」が絡んだ事件ばかりが舞い込んでくる。そして、事件のあらましが判明してきたころ、決まって登場するのが間暮警部と部下の谷田貝美琴。ふたりは、懐かしいヒット・メドレーを歌い始める。そこに事件を解くカギがあるというのだ!?ヒット曲満載で送る前代未聞!?の「歌謡曲」ミステリー。
竹本京子、20歳。右目の斜視にコンプレックスを抱く彼女が、引っ越しを機に変わり者のおばあさん杉田万寿子に出会った。万寿子からさまざまないやがらせを受け、怒り心頭の京子。しかし、このおかしなやりとりを通して、意外にも二人は仲良くなってゆく。やがて、気丈だった万寿子に認知症の症状が出てくるようになり、京子は自ら万寿子を介護する決意をするが…。
ある日曜日、ほんの思いつきで初恋の思い出の場所を訪れた26歳のOL京子は、そこで初めて恋をした少年と再会する。彼は、なんと当時-10歳の時の姿のままだった。子供らしい純粋さとわがままさをあわせ持つ彼に惹かれ、京子は毎週日曜日になると、彼に会いに行く。そして、少年とのデートを重ねるにつれ、京子の中の時間は逆行して、10歳の少女の心に戻り始める-。注目の作家が描く、ファンタジック・ストーリー。
湘南に住み湘南ライナーで通勤する三十代、独身エリートの五人の男達のまえにあらわれた、ふるいつきたくなるような美女。彼女の口から奇妙な申し出が…。週に一度、彼女のマンションでともに一夜を過ごして欲しい、という。ただし、セックスぬきの関係。五人の男達がそれぞれ月曜日から金曜日まで“一夜同棲契約”を結ぶ。男達は謎の女の意図をはかりかねながらも、その魅力の虜となってゆく。待つのは、禁断の蜜のるつぼか、はたまた逃れられない蟻地獄か…。セックス抜きのやりとりに耐えかねた男達は共謀して彼女を襲う計画を立て始める。なんの不足もない社会生活を営んできたエリートたちの周辺に波風が立ち始める。まるで、穏やかな湘南の海が様相を変え牙をむきはじめたかのように。男達の一人の周辺で殺人事件が起こり、男達の間に反目、諍いが起きる。殺人捜査に乗り出した十津川警部も頭をひねった謎の女の真の狙いとは…。西村ミステリー四〇〇冊の金字塔後の新境地。結末には、驚愕のどんでん返しが…。異色ミステリー長編。
社会科教師のおでこのテカリ占いをしては大受けしていた陽気でマシンガンな中学時代からクールで一目置かれる弓道部員の高校時代を経て、大学生になった私がしたことは、恋をすることだった。遠くの的を見抜く力のおかげで視力が2.0以上になっていた私はその年の秋、キャンバスで遙か遠くから歩いてくる同じ学年の男の子に「今度は的じゃなくて、別のものを射抜くことにしたんです。例えば男子とか」と笑いかけていた。怖いくらい、好きになる。それでもいいと思った。最強の恋愛小説。
ある日突然、幼なじみ奈津の夫・憲吾が姿を消した。市子は、夫捜しに奔走する奈津から一人娘の美月を預かる。女性の影もちらつく憲吾の失踪だったが、市子も、まりも、三宅ちゃんも、究さんも、土方さんも、いつもと変わらず、美月の運動会に集まった。事態はやがて、市子の元恋人も登場して意外な展開を迎える。
ロスアンゼルス生まれの都会派探偵・左文字進は、十津川警部とともに西村作品の名キャラクターとして多くのファンを魅了してきた。そして本作ー。左文字の親友である若き私立探偵・川村が射殺される。川村の死の直前、共にいた女とは…。次々と起こる殺人を繋ぐ糸は何か?追跡行の途次、忽然と姿を消した左文字の愛妻・史子。都会の闇に蠢くハイテクを駆使した姿なき殺人者を前に窮地に陥る左文字。西村京太郎が生んだ華麗なるキャラクター、私立探偵・左文字進が、またも読者を虜にする長編推理小説、待望の文庫化。
桂助の名を騙った者に治療されて子供が死に、そのあと妻も自害したという武士が、仇を討ちにあらわれた。表乾一郎と名乗る男は誤解だと納得したが、上総屋のおいとが殺され、桂助は捕らえられる。偽桂助の被害はさらにひろがりを見せ、背後に悪の存在が浮かび上がる。果たして、真犯人の意図は何なのか? 今回の第4弾では、熱心に求婚する男の登場で、桂助への思いとの間で揺れ動く志保の女ごころも描かれている。
利休により、聚楽第の山里の郭とよばれる庭にふさわしい、紫の椿を探すよう命じられた又左。又左がただ一度見た紫の椿は、忘れることのできない女人との苦い記憶とともにあったー。表題作のほか、落語の祖といわれた安楽庵策伝がただひとり敵わないと思った男・曽呂利新左衛門を描いた「笑うて候」、醍醐の花見での料理勝負「包丁奥義」など、全七編。豪奢で華麗な文化が花開いた、桃山時代。秀吉の世に、ある時は権力をパトロンとし、ある時は反発しながらも、自らの世界を追い極めた変革者たちを描いた珠玉の作品集。