出版社 : 文藝春秋
この感覚は、決して悟られてはならない。人には言えない歪みを抱きながら戦前〜戦後の日本をひとり生きた女性を描く表題作のほか、ラスト一頁で彼岸と此岸の境を鮮やかに越える「巻鶴トサカの一週間」など、名手・皆川博子の傑作短篇七篇を収録。
警視庁捜査一課勤務の刑事・黒田岳彦は、ある事件の捜査でI県警上野山署捜査課係長・小倉日菜子と出会う。過疎の村で働く日菜子は警官の夫を職務中に亡くしている未亡人で、東京に対して複雑な思いを抱いていた。捜査が進むなか岳彦と日菜子は少しずつ心を通わせてゆくが、あらたに起きるさまざまな事件が、ふたりの距離を微妙に変えていって…。異色の連作短編集。
プロテスタント系の私立女子高校の入学式。中等部から進学した希代子と森ちゃんは、通学の途中で見知らぬ女の子から声をかけられた。高校から入学してきた奥沢朱里だった。父は有名カメラマン、海外で暮らしてきた彼女が希代子は気になって仕方がない。一緒にお弁当を食べる仲になり、「親友」になったと思っていた矢先…。第88回オール讀物新人賞受賞作「フャーゲットミー、ノットブルー」ほか全4編収録。
三十七年の短い生涯を旅と作歌に捧げ、妻子をもつことなく逝った長塚節。清潔な風貌とこわれやすい身体をもつ彼は、みずから好んでうたった白埴の瓶に似ていたかもしれない。この歌人の生の輝きを、清冽な文章で辿った会心の鎮魂賦。新装版刊行にあたり、作品の細部をめぐって著者が清水房雄氏と交わした書簡の一部を掲載した。
亡き父の借財を抱えた大学生、井領哲之。大阪にあるホテルでのアルバイトに勤しむ彼の部屋には、釘で柱に打ちつけられても生きている蜥蜴の「キン」がいるー。可憐な恋人とともに、人生を真摯に生きようとする哲之の憂鬱や苦悩、そして情熱を一年の移ろいのなかにえがく、青春文学の輝かしい収穫。
火事の怪我で視力を失った呉服太物店「美濃屋」の主・信太郎と、その身を案じるおぬい。眼も回復しないまま、美濃屋では手代頭の助四郎が店を飛び出し、別家・菱屋とも義絶するなど揉め事が続く。そんなある日、江戸を大きな揺れが襲うー。崩れゆく町と揺るがぬ家族を描く、静かな迫力に満ちた好評シリーズ。
夜鷹の女に産み落とされ、浅草の侠客・浜嶋辰三に育てられた神崎武美は、辰三をただひとりの親とあがめ、生涯の忠誠を誓う。親の望むがままに敵を葬り、闇社会を震撼させる暗殺者となった武美に、神は、キリストは、救いの手をさしのべるのかー。稀代の殺人者の生涯を描き、なお清々しい余韻を残す大河長篇。
奇策で人心を掴み、壊滅状態の会津藩財政を、数々の殖産興業で立て直した田中玄宰をはじめ、名家ゆえに責任を取ることになった悲劇、才気ゆえ主君から遠ざけられた者など、戦国期から幕末にかけて、幕藩体制が確立する過程で、家中の舵取りを任されることになった六人の家老たちの人生を記した歴史小説短篇集。
「池波さんのことを語れるのは生涯の誉れ」と言い切り、青年時代から愛読していたほど池波ファンの山本一力氏。その氏が、なによりも愛する「鬼平犯科帳」の中から悩みぬいて選んだ傑作六篇と、鬼平作品の素晴しさを綴ったオリジナルエッセイ、池波正太郎記念文庫での講演を収録した、山本一力版「ベスト・オブ・鬼平」。
父が痴呆症で徘徊をするようになった。ミサコという人を探しているらしい。記憶が断片になり、ある時は小学生、ある時は福祉課の課長にと次々変身する父に困惑する幹夫。だが介護のプロの佳代子に助けられ、やがて父に寄り添うようになり、ともに変化してゆく。無限の自由と人の絆を、美しい町を背景に描く。
ある日、あなたのもとに届いた一通の呼出状。それはあなたが裁判員候補者として選ばれたという通知だった。もちろん裁判など初めての体験。芒洋とした弁護士、森江春策と女性敏腕検事、菊園綾子が火花を散らす法廷で、あなたは無事評決を下すことができるのか。本邦初の“裁判員”ミステリー、ここに開廷。
後醍醐天皇から錦旗を賜った祖先を持つ三宅弥平次はその出自を隠すべく、明智家の養子となって左馬助を名乗り、信長方についた主君とともに参謀として頭角を現すようになる。秀吉との出世争い、信長の横暴に耐える光秀を支える忠臣には、胸に秘めたある一途な決意があった。『信長の棺』『秀吉の枷』に続く本能寺三部作完結編。
「愛宕山に詣でて、戦勝祈願のために一夜参篭する」。朝廷との密会を重ねる光秀の暴走を止められない左馬助。そして本能寺の変ー。大ベストセラーとなった本格歴史ミステリー長編は、すべての謎を解き明かしながら、明智家の壮絶な「死の門出」で終局を迎える。宴を彩る「落城の譜」の調べ、そして左馬助と綸が貫いた真実の愛とは。
モトクロスに人生の全てを賭ける貞二は、思うような結果が出せず、また、若い天才の出現に焦りを覚える。やがて、愛する洋子のため引退を決意し、最後の戦いに挑むが…。オール讀物新人賞受賞の表題作をはじめ、逡巡する青春の終わりの日々を瑞々しく描いた、作家・佐々木譲の原点である初期短篇五篇を収録。
渋谷でのあの事件から3年。チームを解散し、別の道を歩み始めていたアキとカオル。ところがある日、カオルは級友の慎一郎が見に行ったイベントの話を聞いて愕然とする。それはファイトパーティーを模したもので、あろうことか主催者は“雅”の名を騙っていたのだ。自分たちの過去が暴かれることを恐れ、カオルはアキに接触するがー。
太平洋戦争末期、北ボルネオで気鋭の民族学者・三上隆が忽然と姿を消した。彼はジャングルの奥地に隠れ住むという倭人族を追っていたという。三上の生存を信じる者たちによって結成された探索隊は調査をすすめるうち、和歌山からボルネオ、チベットへと運命の糸に導かれていく。
中国奥地で発生した謎の疫病。それがすべてのはじまりだった。高熱を発し、死亡したのちに甦る死者たち。中央アジア、ブラジル、南アフリカ…疫病は拡散し、やがてアウトブレイクする。アメリカ、ロシア、ドイツ、日本…死者の群れに世界は覆われてゆく。パニックが陸を覆い、海にあふれる。兵士、政治家、実業家、主婦、オタク、スパイ。文明が崩壊し、街が炎に包まれるなか、彼らはこの未曾有の危機をいかに戦ったのか?辛口で鳴るアメリカの出版業界紙「カーカス・レヴューズ」が星つきで絶賛、ニューヨークタイムズ・ベストセラー・リストにランクインしたフルスケールのパニック・スペクタクル。