出版社 : 文藝春秋
山上悟はギリシャに赴任するが、妻の奈美子は日本に留まり一方的に離婚を切り出した。真意を問いただす悟に、奈美子は自分の祖父母の間で交わされた手紙のコピーを送る。50年前、祖母は殺人の容疑で逮捕され、手紙には夫婦のみが知る真実が語られていたー。人間が隠し持つ秘密を手紙が暴き出すミステリー。
昭和19年、戦争の只中に暁星中学一年生となったフカダ少年。軍事教練にネを上げ、長刀姿の女学生に恋心をもやし、箱根のドイツ兵と共にB29と戦い、空襲下の下町で昏倒し…。時代は多感な少年をさんざんもてあそぶ。そして敗戦と破産。切なくて懐かしくて、そして抱腹絶倒の少年時代を描く初の自伝的小説。
明治2年、長崎・浦上村の隠れ切支丹たちが土佐の漁村・天浜へ流罪となった。志操堅固な信徒たちに手を焼く村の顔役たちは、遊郭の女郎たちをけしかけて戒律を破らせ、棄教に追い込もうとする。表題作など、宮本常一とおぼしき民俗学者が採集した回顧譚の体裁で語られる、濃密なエロスとグロテスクな哄笑に満ちた7つの物語。
渋谷のチーム「雅」の頭、アキは、チーム解散後、海外放浪を経て、裏金強奪のプロ、柿沢と桃井に誘われ、その一員に加わる。二人は、あらゆるテクニックをアキに教え込み、アキも持ち前の勘の良さで、課題をクリアしてゆく。はたして、アキのデビューはうまくゆくのか?「ヒートアイランド」の続篇となる痛快クライムノベル。
教え子エディが悪名高き殺人犯の息子だと知ったとき、悲劇の種はまかれたのだ。若き高校教師だった私はエディとともに、問題の殺人を調査しはじめた。それが痛ましい悲劇をもたらすとは夢にも思わずに。名匠が送り出した犯罪文学の新たなる傑作。あまりに悲しく、読む者の心を震わせる。巻末にクックへのインタビューを収録。
戦国の世、越後上杉家中の樋口与六は、若くして長尾喜平次の小姓となった。五歳の歳の差を超え、二人は肝胆相照らす名コンビとなる。後の直江兼続と上杉景勝である。二人は上杉謙信の許で薫陶を受け、精神を学び、謙信亡き後の越後の維持に努めていた頃、京より、織田信長が明智光秀に討たれたという本能寺の変の一報が届く。
光秀討滅後、着実に日本統一への歩みを進める秀吉の膝下に、上杉家も屈する。領国安堵された二人は、次第に豊臣政権でき大きな存在となる。石田三成と親交を結ぶ兼続だが、秀吉亡き後、徳川家康と対立し、遂に関ケ原の戦いを迎える…。信長、秀吉、家康と渡り合い上杉家を存続させた主従の姿を描いた大河小説。
「パッパッパッ」と点滅する三色のランプが付いた銀色の箱。点滅のパターンを組み合わせて、あらゆる物語が伝達可能になった。ならばこれを使ってとびきりの楽しい話を、一つ披露してやろうじゃないか。芥川賞候補作「点滅…」を含む、小説の可能性を極限まで押し広げる十六篇。野間文芸新人賞受賞作。
闇夜に遺伝子工学の研究所から姿を消した謎の生命体“ダンサー”。正体不明の男につきまとわれる美しき踊り子・志麻子。やがて彼女の周囲で猟奇的な連続殺人が起こる…。ベストセラー『TENGU』『KAPPA』で活躍したルポライター・有賀雄二郎が、現代の闇と対峙する著者渾身の長篇サイエンス・ミステリー。
宮廷文化が華ひらく平城宮。木っ端役人の葛木連戸主は、ひょんなことから夫婦となった和気広虫とともに粛々と日々を送っていた。ところが穏やかな日常の裏では魑魅魍魎が跋扈し、権謀術数が渦巻き、戸主も知らぬ間に政治抗争に巻き込まれ…。あの世とこの世、政界も俗界も入り乱れる痛快歴史ファンタジー。
高田馬場の竹林に棲む評判の美人尼。その庵の近くで、女好きの若旦那が死体で発見された。衣服には一筋の剃刀の跡。若旦那は、評判の尼に人生相談に行くと言い残して家を出たという。やがて尼の周囲で殺人が相次ぐ。はたして尼の正体とはー。根岸肥前守が、江戸の怪異を解き明かす、新「耳袋秘帖」シリーズ第二巻。
秋葉原で若い女性の不審死に遭遇した浅見光彦。事件の鍵は淡路島に?拝み屋、民間信仰、牛頭天王、新たな死体…やがて呪いは浅見にもふりかかる!?この殺人は、儀式なのか。妖しい陰謀うずまく淡路島を舞台に、信仰の意味を問う傑作ミステリー。
古事記の「国生み」神話、伊勢・奈良の遺跡、政治家と大企業の癒着、新興宗教…すべてがひとつにつながったとき、底知れぬ闇が浅見を戦慄させる!せまりくる危機、動機なき殺意。最もおそろしいのは人の心に棲む鬼。追い詰められた浅見の命をつないだものはー。
相談無料。地獄の沙汰も脳次第。いま注目の脳科学が楽しく学べるユーモア小説!遺伝子、進化、A.I.など最新トピックがこれでわかります。
紙芝居の慰問で赴いた南方から、命からがら引き上げてきた蒲生太郎、帰ってみれば東京の生家は丸焼けで、家族も全滅。傷心の太郎は戦地で世話になった軍医・金木令吉を頼り、秋田の山奥、仙北郡神代村へやってきた。そこで出会った戦争未亡人の敏子と深い仲になり、村で暮らしてゆく決意をするー。
決してスマートとはいえない風貌に「鈍牛」「アーウー」と渾名された訥弁。だが遺した言葉は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」など、21世紀の日本を見透していた。キリスト教に帰依した青年期から、大蔵官僚として戦後日本の復興に尽くした壮年期、そして“三角大福”の一人として党内抗争の渦中へー「政治家は倒れて後やむ」と言い総選挙の最中に壮絶な“戦死”を遂げるまでを、愛惜とともに描く。
スペインのダリの館で日本人画家が経験する怪異譚(「ポルト・リガトの館」)。アマゾンの大湿原帯で元夫婦が遭遇したものは?(「パンタナールへの道」)。カシミールの高原湖で性の秘儀を会得する芸術家(「スリナガルの蛇」)。異国を旅する三つの能仕掛けの物語が絡まりあい、現実と幻想のあわいへ誘う。
文化10年、富山の百姓一揆にまきこまれ、過って妻のおはまを刺殺してしまった岩松は、国を捨てて出家した。罪の償いに厳しい修行をみずから求めた彼を絶え間なく襲うのは、おはまへの未練と煩悩であった。妻殺しの呵責に苦しみつつ、未踏の岩峰・槍ヶ岳初登攀に成功した修行僧・播隆の生きざまを雄渾に描く、長篇伝記小説。
「探さないで」と置手紙を残し、忽然と消えてしまった幼馴染み弥惣吉の女房。健気で評判の女に何があったのか。行方を追って高崎、安中と中山道を辿る、鰻屋「十三川」の入聟で十手持ちの爽太。その探索行は、来し方を振り返る旅となるー。若き爽太たちの姿と江戸下町の哀歓を描く、情感あふれる傑作長篇。