出版社 : 文藝春秋
ドナウ川で邦人男女が心中…その小さな新聞記事が頭から離れなくなった私は、二人の足跡を追ってウィーンへと向かった。もはやこの世にいない19歳の少女、日実は、異国の地でどんな恋をし、何を思い、そして何ゆえに追いつめられていったのか?悲劇的な愛の軌跡を辿る、哀切さにみちたノンフィクション。
深く刺さった、小さな棘のような悪意が、平和なオフィスに8つの事件をひきおこす。社会人一年生の大介にはさっぱり犯人の見当がつかないのだがー「歩いたあとには、1ミクロンの塵も落ちていない」という掃除の天才、そして、とても掃除スタッフには見えないほどお洒落な女の子・キリコが鋭い洞察力で真相をぴたりと当てる。
十年前、留美子は見知らぬ少年から手紙を渡される。「十年後、地図の場所でお待ちしています。ぼくはその時、あなたに結婚を申し込むつもりです」。いったいなぜこんな身勝手なことを?東京、軽井沢、総社、北海道…。さまざまな出会いと別れ、運命の転変の中で、はたして約束は果たされるのか。
壊されたパテックの懐中時計の持ち主を探す桂二郎の前に、妖艶な中国女性が現われる。そしてもう一人、桂二郎を訪ねてきた若い女性は、昔別れた恋人の娘だった。一方、留美子は謎の手紙の主について、次第に手がかりを得ていくー。人は何を拠り所にして生きていくのかを問う、宮本文学の新しい傑作。
昭和七年、士族出身の上流家庭・花村家にやってきた女性運転手別宮みつ子。令嬢の英子はサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなみ、彼女をベッキーさんと呼ぶ。新聞に載った変死事件の謎を解く「虚栄の市」、英子の兄を悩ませる暗号の謎「銀座八丁」、映写会上映中の同席者の死を推理する「街の灯」の三篇を収録。
僕は大学を辞め、塾講師をする傍ら、バンドのメンバーを募集した。“熱くてクール、馬鹿でクレバー。最高にして最低なメンバーを大募集”そんなうたい文句に集まったロックな面々。ボーカル志望の中浜に自らの分身を見た瞬間、僕の中で新たな物語が始まった。カップリング作「月に吠える」も収録。
スペインでのプロ生活にも慣れたリュウジはアテネ五輪代表に招集される。彼を選んだ監督の意図は何か?谷間の世代と言われながらも予選を突破したリュウジたちは、世界各国の代表らと熱き闘いを繰り広げていくー。大好きなサッカーをテーマに著者が魂をこめて書き続けたシリーズ、遺作とも言うべき最終巻。
丘の上の家でひっそり暮らす不思議な女性・さとるに惹かれていく大学生の鉄男。しかし次第に、母親に怯え、他人とうまくつきあえない不安定な彼女の姿に疑問を募らせていく。母娘三人の憎悪が噴出するときに見えてくる、戦慄の情景とはー。恋愛の先にある家族の濃い闇を描いて、読者の熱狂的支持を受け続ける傑作長編小説。
引っ越しの朝、男に振られた。やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候ー遠い点と点とが形づくる星座のような関係。ひと夏の出会いと別れを、キング・クリムゾンに乗せて「ムダ話さ」と歌いとばすデビュー作。高崎での乗馬仲間との再会を描く「第七障害」併録。
浅見が五島列島で知り合った親切な初老の元刑事。娘夫婦との同居を前に、彼は静岡の海岸で死体となって発見された。清貧の元刑事のささやかな人生を、突然断ち切ったのは誰か。怒れる浅見に突きつけられる、過去最大の難問。百番目の事件に、大団円はあるのか。
「あいつが浮かれ蝶々なんぞにひっかかるものか」麻生家に通う途中で感じた熱い視線。新内流しの娘、お蝶の思惑を量りかねる麻太郎だったが…。大人の入り口に差しかかった麻太郎、花世、源太郎たちが大活躍。
一族の面汚しとして死んだ放蕩者の兄のため、理不尽ともいえる仇討ちを甥に挑む又蔵。鮮烈かつ哀切極まる決闘場面の感動が語り継がれる表題作の他、島帰りの男と彼を慕う娘との束の間の幸せを描いた「割れた月」など「主人公たちは、いずれも暗い宿命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ」と作者が語った初期の名品集。
三巻からなる「柳生武芸帳」。この行方を追い求める大目付の柳生但馬守宗矩を筆頭とする江戸柳生の門弟たち。そして柳生とは長年対立していた陰流・山田浮月斎一派が同じく武芸帳を追う。佐賀の竜造寺家再興を企てる夕姫たちも複雑に絡んでいく。一体、武芸帳に記されている秘密とは?五味康祐の最高傑作が遂に文春文庫に登場。
武芸帳に隠された秘密とは、どうやら、宮中に於ける某重大事件に係わるものらしい。事が公になれば柳生宗矩の破滅はむろんのこと、徳川幕府も無傷ではない。次々と仆れる柳生の高弟たち。大久保彦左衛門や松平伊豆守信綱も加わり、複雑怪奇の様相を帯びてくる。そして遂に宗矩と浮月斎の直接対決を迎える…。
トラウマ、秘密、恋に潜む「罪」は、時に人の心を狂わせてしまう。秘密を守るため、年老いた母親がひとり娘に託したある周到な計画。高級ブランドバッグの万引犯とそれを追う店員が結んだ女同士のある協約。父への復讐を企む女が、恋人に残した「真実」の手紙。罪深いからこそ生まれる妖しさを描く、恐ろしくも美しい六篇の物語。