出版社 : 文藝春秋
トラウマ、秘密、恋に潜む「罪」は、時に人の心を狂わせてしまう。秘密を守るため、年老いた母親がひとり娘に託したある周到な計画。高級ブランドバッグの万引犯とそれを追う店員が結んだ女同士のある協約。父への復讐を企む女が、恋人に残した「真実」の手紙。罪深いからこそ生まれる妖しさを描く、恐ろしくも美しい六篇の物語。
食べることは色っぽい。味わうという言葉も、口に合わないという言い方も、考えてみれば男と女の味がする…。湯豆腐、苺ジャム、蕎麦、桃、とろろ芋、お汁粉、煮凝、ビスケット、無花果、おでん。食べもののある風景からたちのぼる、遠い日の女たちの記憶。ひたむきで、みだらで、どこか切ない19の掌篇集。
六本木のディスコで黒服のバイトをしながら満ち足りぬ日々を送っていた彰洋は、偶然出会った幼馴染の麻美に不動産屋の美千隆を紹介される。時はバブル真っ盛りの八〇年代後半。おれはおれの王国を作りたいんだー若くして成り上がった彼の言葉に魅せられた彰洋は、二十歳そこそこで大金を動かす快感に酔いしれていく。
土地の値上がりは続く。限りなく体温が上昇する感覚に中毒した彰洋らは、嘘を塗り重ねてマネーゲームに奔走するとともに、コカインにも溺れていく。「嘘をついてはいかん。人を騙してはいかん。人の物を盗んではいかん」という熱心なクリスチャンだった祖父の教えに唾をかけて…。もう後戻りはできなかった。
三度笠、縞の合羽に柳の葛篭、百両の大金を懐にー。今戸の貸元、恵比須の芳三郎の名代として成田、佐原へ旅する音次郎。待ち受ける試練と、器量ある大人たちが、世の中に疎い未熟者を磨き上げる。仁義もろくにきれなかった若者が、旅を重ねて一人前の男へと成長してゆく姿をさわやかに描いた股旅ものの新境地。
室町時代の末。近江の湖北地方。隣村との土地をめぐる争いに公事(裁判)で決着をつけるべく京に上った月ノ浦惣庄の村民たち。領主や山門に足繁く通い、袖の下に銭をばらまき、勝訴に持ち込んだはずが思わぬ横やりが。背後には幼くして村を逐われた男の怨念が渦巻いていたー第十回松本清張賞受賞作。
先頃、業者の紹介で「かわせみ」にやって来た女中のおつまは二十五歳、無口だが気がきき、勤めぶりにかげひなたがなかった。盆休みに故郷へ帰ったはずのおつまだったが、浅草界隈で男と一緒のところを目撃されてしまう。流されるように生きていく女の哀感を江戸の風物詩とともに描いた表題作ほか全八編。不朽の人気シリーズ。
人間界に紛れ込んだフクロウの化身に出会ったら、同じ鳴き真似を返さないといけないー“都市伝説”に憑かれた男の狂気を描いたオール讀物推理小説新人賞受賞作「フクロウ男」をはじめ、親友を事故で失った少年が時間を巻き戻そうとする「昨日公園」など、人間の心の怖さ、哀しさを描いた著者のデビュー作。
幻い花売り娘が人殺しの咎で奉行所に捕えられた。娘はなぜ口を閉ざすのか(「願い鈴」)。北町奉行所筆頭与力の妻にして元柳橋芸者のおこうが、嫁に優しい舅の左門と力をあわせ、江戸の巷を騒がせる難事件に挑む。巧みなプロットと心あたたまる読後感は、まさに捕物帖の真骨頂。大好評『だましゑ歌麿』の姉妹篇。
安倍晴明の屋敷で、いつものように源博雅が杯を傾けている所へ、橘実之の娘、虫が大好きな露子姫がやってきた。何でも晴明に相談があるというのだ。広沢の遍照寺にいる僧が、眠る前に読経していると、黄金色をした虫が現われるが、朝には消えてしまうらしい。この虫の正体はー。「二百六十二匹の黄金虫」他、全六篇収録。
第五代将軍・徳川綱吉が貞享二年(1685)に発した「生類憐れみの令」から十年。巷に犬があふれ、ついに幕府は野良犬を収容する「御囲」を作った。赤穂浪士が討入りを果たした朝、中野村の「御囲」で犬の世話をする娘・犬吉は一人の侍と出合う。討入りの興奮冷めやらぬ狂気の一夜の事件と恋を描く長編。
オカマの蘭子とともに福岡に流れてきた消し屋の幸三。久々に訪れた博多のヤクザから依頼された今回のターゲットは、ホークスの名捕手・真壁。内容は、殺しはナシで、彼を一試合の間だけ消すという奇妙なものだった。野球一筋で真面目な真壁には、スキャンダルなど付け入る弱味がない。幸三が取った手段とは。
「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は、伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖……訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か? 名医か、ヤブ医者か?