出版社 : 新潮社
20年連れ添った夫婦とそれぞれの友人。50代の男女4人が海辺のセカンドハウスに集まってくる。海藻を拾ったり、夏みかんを齧ったり、あどけないような時間のなか、倦怠と淡い官能が交差して、やがて「決壊」の朝がやってくる-。川端賞受賞作「タタド」、海辺で夫を待つ女と、風、砂、水、光による侵食を描く「波を待って」、同級生夫婦の家での奇妙な住みこみの仕事を描く「45文字」。全3篇収録の傑作短篇集。川端康成文学賞受賞。
村内先生は中学の臨時講師。言葉がつっかえて、うまくしゃべれない。でも、先生は、授業よりもたいせつなことを教えてくれる。いじめ、自殺、学級崩壊、児童虐待…すべての孤独な魂にそっと寄り添う感動作。
崇史は、俺が十五ん時の子供だ。今は別々に暮らしている。奴がノートに殺害計画を記していると聞いた俺は、崇史に会いに中学校を訪れた。恐るべき学校襲撃事件から始まった暴力の伝染ー。ついにその波は、ここまでおし寄せてきたのだ(表題作)。混沌が支配する世界に捧げられた、書下ろし問題作「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」を併録したダーク&ポップな作品集。
三百勝目前のマウンドで、無死満塁のピンチに苦しむ老投手スタルヒンを救うため、南洋の秘術の封印を解いた男の物語。川端賞受賞作「枯れ葉の中の青い炎」をはじめ、唐突な夫の申し出に、妖しく変化する妻の日常を描く「ちょっと歪んだわたしのブローチ」、消えたラピスラズリをめぐる雪山小屋の対話劇「水いらず」など、虚実自在の語りで小説の愉しみを存分に味わえる名品六編。
少し遅れた時計を好んで使った恋人が、六年前に死んだ。いま、小さな広告代理店に勤める僕の時間は、あの日からずっと五分ズレたままだ。そんな僕の前に突然現れた、一卵性双生児のかすみ。彼女が秘密の恋を打ち明けたとき、現実は思いもよらぬ世界へ僕を押しやった。洒落た語りも魅力的な、side-Aから始まる新感覚の恋愛小説。偶然の出会いが運命の環を廻し、愛の奇蹟を奏で出す。
かすみとの偶然の出会いは、過去の恋に縛られていた僕の人生を大きく動かした。あれから二年、転職した僕の前にひとりの男が訪ねてきた。そして、かすみとその妹ゆかりを思い出させずにはおかぬこの男が、信じられない話を切り出した。物語は、驚愕のエンディングが待つside-Bへ。今日と明日をつなぐ五分間の隙間を破り、魂震わす極限の愛が生まれる。
「そうーここは黒祠なのですよ」近代国家が存在を許さなかった“邪教”が伝わる、夜叉島。式部剛は失踪した作家・葛木志保の姿を追い求め、その地に足を踏み入れた。だが余所者を忌み嫌う住民は口を閉ざし、調査を妨害するのだった。惨事の名残を留める廃屋。神域で磔にされていた女。島は、死の匂いに満ちていた。闇を統べるのは何者なのか?式部が最後に辿り着いた真実とは。
19歳で途中失明して夢を失った凛子。向日葵のようだった母の死に続き、寡黙だけど優しい漫画家の父までいきなり「消えて」しまった。残ったのは、自分のことに精一杯で気配りの足りない兄・真司だけ。その日から「世界中の誰よりも気が合わない二人」だけの生活が始まった!一番近くにいても誰より遠い二人の未来に待っているのは…。家族の愛がぎっしり詰まったハートフルな長編小説。
洋服を脱ぐのも、脱がされるのも、キスするのも、されるのも、もどかしかった。会いたかった。好きだった。好きで好きでたまらなかった。別れたあとも、片時も、忘れたことはなかった。だがら…、だからこそ。言えないことがある。二度と会えない人がいる。守らなければならないことがある-。抑えきれぬ想いとすべてを捧げる愛。涙なしに読めない本物の大人の愛のかたち。静かに、そして激しく本物の恋愛堪能小説。
大火や洪水、旱魃に見舞われ、藩の財政は常に逼迫していた。国を思いながら一度の過ちで追放の身となった忠臣の決意、子宝に恵まれずに離縁された主家の女を見舞う下僕の情。困難に立ち向かう者もいれば、押しつぶされる者もいた…。儚い家臣の運命と武家社会の実像を描く連作短篇集。
もしあなたが21歳で、いきなり貴族社会に紛れ込んだら…。下着からゴミ箱の中身までチェックされる生活になったら…。夫は「愛している」とひとことも言ってくれなかったら…。ヒッチコックが自身の映画(アカデミー作品賞、撮影賞受賞)でも描けなかった、ミステリアスでスキャンダラスな真実、ひたむきな愛の物語。
地味で目立たぬOL本田小百合は、港が見える自分の町をリスボンに見立てるのがひそかな愉しみ。異国気分で「7月24日通り」をバス通勤し、退屈な毎日をやり過ごしている。そんな折聞いた同窓会の知らせ、高校時代一番人気だった聡史も東京から帰ってくるらしい。昔の片思いの相手に会いに、さしたる期待もなく出かけた小百合に聡史は…。もう一度恋する勇気がわく傑作恋愛長編。
沖縄には、神様が静かに降りてくる場所があるー。心ここにあらずの母。不慮の事故で逝った忘れえぬ人。離婚の傷がいえない私。野生の少女に翻弄される僕。沖縄のきらめく光と波音が、心に刻まれたつらい思い出を、やさしく削りとっていく…。なんてことないよ。どうにかなるさ。人が、言葉が、光景が、声ならぬ声をかけてくる。なにかに感謝したくなる滋味深い四つの物語の贈り物。
宴席に供されたのは、腹心だった将軍の丸焼き。荷船もろとも爆沈、厄介払いした子供は二千人。借金の形に、まるごと米国にくれてやったカリブ海。聖なる国母として、剥製にされ国内巡回中のお袋。だがお袋よ、ほんとにわしが望んだことなのか?二度死なねばならなかった孤独な独裁者が、純真無垢の娼婦が、年をとりすぎた天使が、正直者のぺてん師が、人好きのする死体が、運命という廻り舞台で演じる人生のあや模様。
時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった!とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。
不慮の死を遂げた夫のポケットベルへ、ひたすらメッセージを送信し続ける女。交通課事故係の秋葉は妖しい匂いに惑い、職務を逸脱してゆく(表題作)。鑑識係、泥棒刑事、少年係、会計課長…。三ツ鐘署に勤務する七人の男たちが遭遇した、人生でたった一度の事件。その日、彼らの眼に映る風景は確かに色を変えた。骨太な人間ドラマと美しい謎が胸を揺さぶる、不朽の警察小説集ー。
麻布の名家に生まれながら、それぞれに異なる生き方を選んだ敷島四兄弟。奉天日本領事館の参事館を務める長男・太郎、日本を捨てて満蒙の地で馬賊の長となった次郎、奉天独立守備隊員として愛国心ゆえに関東軍の策謀に関わってゆく三郎、学生という立場に甘んじながら無政府主義に傾倒していく四郎…ふくれあがった欲望は四兄弟のみならず日本を、そして世界を巻き込んでゆく。未曾有のスケールで描かれる、満州クロニクル第一巻。
高校生になった加那子は、幼なじみの栄順と再会。加那子の兄・セイリョウの「バンドやるどー」の一声で、太陽が照りつける牛小屋での練習が始まった。栄順が歌、マコトがギター、セイリョウがドラムで、加那子のパートは、恥ずかしがり屋でうまく歌えない栄順を励ますこと…「ずっと歌った方がいいさ、栄順の歌で幸せになる人がいるから」。四歳のときに「うた」を探しに奄美大島に行ったきり音沙汰のない父・セイイチと共に母・澄子がつくったバー“インタリュード”と、おばぁの美容室を手伝いながら、栄順との恋を育んでいく加那子。バンドには同級生の浩がキーボードに加わり、東京行きをかけたバンド大会で優勝を勝ち取るも、その夜セイリョウに思わぬ運命が降りかかる-。みんなの東京デビューの夢は?そして、ふたりの不器用な恋の行方は?ひとを恋しく想うきもちを知って、ひとつ大人になった加那子は、ある決意を秘めていた…。映画では語られることのなかった「セイイチと澄子の恋」を併録した中江監督初の書き下ろし小説。