出版社 : 新潮社
十兵衛店の長屋に、一人の娘が太吉を訪ねてやって来た。料理人だった父親の形見の出刃庖丁を、供養として研いでほしいー快く引き受けた太吉に、かおりと名乗るその娘は、妙なことを口走る。おとっつあんは、殺されたんです…。一力節が冴えわたる傑作時代長編。
「お前の好物だから」と、どこででも買えるリンゴを抱えて田舎から訪ねてくる。「捨てられない」と、子どもの古着をときおり取り出しては眺めている。その母の心を、娘は親になって、初めて知った。その愛は、純朴ゆえに切なく、神々しくさえある。韓国の人々の魂をゆさぶり、涙をしぼりとった、No.1人気女性脚本家が母に捧げる感動のベストセラー・エッセイ集。
男の子には突破しなければならない関門がある。一人寝、おつかい、メンコ勝負、補助なし自転車、クロールでの25メートル、親友とのケンカ、淡すぎる恋…。宝物は秘密基地に隠していたあの頃、風の声が聞こえたあの時代、川も杜も空き地もみんな友達だった。同じ一瞬などない、日々、脱皮していく少年というはかなくも美しい季節を叙情豊かに紡ぐ感動の名品47編。
幾多の激戦の末にスペイン軍を撃破、植民地の軛から中南米諸国を解き放ち、ついに独立へと導いた輝ける将軍シモン・ボリーバル。ラテンアメリカ統合の理想実現に燃えてひた走った英雄は、なぜ失意の迷宮に踏み入らねばならなかったのか?“解放者”と称えられた男。その最後の七ヵ月、コロンビアの大河を暗然と下りゆく死への旅路は。-栄光という闇の深さを巨細に描き切る。
27歳の亜紀は、大手出版社の編集者と結婚して幸せいっぱい、仕事も楽しくてたまらない。文芸書はもちろん、コミック、ライトノベル、ボーイズラブにも気を配り、売り場改革案や人気漫画家のサイン会など、ユニークな企画を次々打ち出している。ところが、40歳の独身副店長・理子とは、ことごとく衝突続きの日々。その理子が店長に昇進した直後、6ヵ月後に店が閉鎖されると知った二人は…。恋愛、失恋、結婚、離婚、たまには嫉妬や喧嘩だってある。ワーキングガールズの世界は、幸せ色のピンクや涙色のブルーで彩られたビックリ箱。この本は、働く女性たちへのリアルな応援歌。
お昼のそうめんでお腹がくちくなり、センセイとてのひらを重ねまどろむうちに、ツキコさんの心にぽっかり浮かび上がる少女の日々。ある日突然あらわれた「モノ」たちとの交わりと、胸の奥が小さく波立った教室でのあのこと。忘れかけていたけれど、ずっと心の底に残っていた不思議な出来事を、愛らしいイラストとともに描く、名作「センセイの鞄」から生まれ出たもうひとつの物語。
そう、そろそろ桜が満開という頃だった。大学受験に失敗した僕は、予備校の特待生試験にはなぜか合格し、桜花寮に住むことになった。入寮式の日、これから共に勉強漬けの一年を過ごす(はずの)リュータやヨージと出会った。そして十年後、「リュータが死んだ」という噂を聞いた僕はー。青春の背中を追いかけていた浪人時代と現実を懸命に生きる今を重ねて描く、永遠の友情小説。
ひとり通いの居酒屋で37歳のツキコさんがたまさか隣りあったご老体は、学生時代の国語の恩師だった。カウンターでぽつりぽつりと交わす世間話から始まったセンセイとの日々は、露店めぐりやお花見、ときにささいな喧嘩もはさみながら、ゆたかに四季をめぐる。年齢のはなれた男女の、飄々として、やがて切々と慈しみあう恋情を描き、あらゆる世代をとりこにした谷崎賞受賞の名作。
夜中眼覚め脳裏に浮かぶのは、新婚時代のポニーテールの妻と若い自分、毎日オムツを取り替え自宅で見取った97歳の父。そして自分の葬式の死顔まで見えて…。老人の無明長夜(「長きこの夜」)。「赤い珠が出たらもう終わりらしい」-「不能」をめぐる男たちの侃々諤々。滑稽な会話で描く老年の性(「赤い珠」)。仕事をリタイアした4人の老年の男たちが始めた料理教室。その若い女講師を囲む奇妙な華やぎとほろ苦さ(「おにんどん」)。不気味な老男女は、学童疎開で私に煎餅を「献納」したコモリ姉弟なのか。(「死者たち」より「ズルズル・バッタン・チェッ」)。隅田川の橋の上、昭和初期の若き日の父・質屋の小僧信どんは語った。戦火のなか生き延びた父の描いた夢の真相(「橋の声」)。『黄落』から十二年、さびしくおかしい老年の一瞬の輝きを円熟の筆で描く七篇。最新短篇集。
帝銀事件が世を騒がせた昭和23年。希望に満ちた安城清二の警察官人生が始まった。配属は上野警察署。戦災孤児、愚連隊、浮浪者、ヒロポン中毒。不可解な「男娼殺害事件」と「国鉄職員殺害事件」。ある夜、谷中の天王寺駐在所長だった清二は、跨線橋から転落死する。父の志を胸に、息子民雄も警察官の道を選ぶ。だが、命じられたのは北大過激派への潜入捜査だった。ブント、赤軍派、佐藤首相訪米阻止闘争、そして大菩薩峠事件ー。騒然たる世相と警察官人生の陰影を描く、大河小説の力作。
過激派潜入の任務を果たした民雄は、念願の制服警官となる。勤務は、父と同じ谷中の天王寺駐在所。折にふれ、胸に浮かんでくる父の死の謎。迷宮入りになった二つの事件。遺されたのは、十冊の手帳と、錆びの浮いたホイッスル。真相を掴みかけた民雄に、銃口が向けられる…。殉職、二階級特進。そして、三代目警視庁警察官、和也もまた特命を受ける。疑惑の剛腕刑事加賀谷との緊迫した捜査、追込み、取引、裏切り、摘発。半世紀を経て、和也が辿りついた祖父と父の、死の真実とはー。
デキる女ほど、なぜ辞めたがる??リストラ請負人・村上真介の悩みは今日も深い。デパート、生保、金融、ホテル…次の標的は、あなたかも!?恋と仕事の傑作エンタテインメント、ますますパワーアップ。
舞踏家の父と暮らす12歳の少女、野宮朔。夢は、作家になること。一歩一歩、大人に近づいていく彼女を襲った、突然の暴力。そして、少女が選んだたった一つの復讐のかたち。
「定年になったら、一緒にこの曲を合奏しよう」妻と交わした約束だった。そのために、ピアノを習った。二人の楽しみのはずだった…。突然の訃報、独りきりの家、人生設計の破綻。それでも「大人のピアノ教室」に通い続ける証券マンに、光はさすのか。混乱の中で立ちすくむ時、懐かしい妻の声がよみがえる-。夫婦の愛の物語。
私、高遠寧々、28歳。実はコネ入社だけど、いちおう大手出版社経理部勤務。彼氏なんていなくても、気の合う同僚もいるし、お気楽な一人暮らしを満喫中。でも、そんな平凡な日々にも、不倫、パワハラ、社内イジメなどなど、いろんな事件は潜んでてー。「やってられない」本音満載のワーキングガール・ストーリー。
愛ー、それは気高く美しきもの。そして、この世で最も恐ろしいもの。毒島半蔵の歪んだ妄想が、この世を地獄へと塗り替える。虚ろな心を抱える吉美が、浮気を続ける亭主に狂気をぶつける。傷を負い言葉を失った、薄幸の美少女・まゆか。実の娘に虐待され続けている、寝たきり老人・英吉。暴風のような愛情が、人びとを壊してゆく!新堂冬樹にしか描けなかった、暗黒純愛小説集。
「世界の果てにある食堂」を舞台にした物語を書きあぐねる吉田君は、奇妙な連作小説を予告して消息不明となった謎の作家=ジュールズ・バーンを知る。「物語」の入り口を探し求める吉田君がいつしか迷い込んでいたのは、バーンが企んだ連作の世界なのかー。ビートルズの“ホワイト・アルバム”を軸にしてシンクロする過去と現在。16+1の短篇のリンクが「物語」の不思議を奏でる。
父と娘のあいだに横たわる秘密と、人生の黄昏にある男女の濁りない情愛。ミス・カサブランカとよばれる独身教師の埋めようのない心の穴。反対を押し切って結婚した従兄妹同士の、平らかではない歳月とその果ての絆。-人生の細部にあらわれる普遍的真実を、驚くべき技量で掬いとる。北京生まれの新人女性作家による、各賞独占の鮮烈なデビュー短篇集。第1回フランク・オコナー国際短篇賞受賞!PEN/ヘミングウェイ賞受賞。ガーディアン新人賞・プッシュカート賞受賞。New York Times Book Reviewエディターズ・チョイス賞受賞。The Best American Short Stories2006収録。グランタ「もっとも有望な若手アメリカ作家」2007選出。