出版社 : 新潮社
宗像時子は父が遺した古アパート、扇荘の管理人をしている。扇荘には様々な事情を抱えた人たちが住んでおり、彼女はときに厳しく、ときには優しく、彼らと接していた。ある日、新たな入居者が現れた。その名は有馬生馬。ちょっと古風な好青年だった。二度の辛い別離を経験し、恋をあきらめていた時子は、有馬のまっすぐな性格にひかれてゆく。暖かで、どこか懐かしい恋愛長篇。
保育士を辞めてしまった29歳の由真の遊び友達は、フリーカメラマンのハツモ。はっきりいってイケてない。でも一緒にいると心が騒ぎ、女だてらに「すげえ!」と叫びたくなることに出会う。牛の撮影会、大声コンテスト、独りオペラの男…。お金も仕事もないけれど、ゆるくて確かな関係と笑いのジャブが、こころのコリをほぐす長編小説。
ホリーは朝のシリアルのように健康で、石鹸やレモンのように清潔、そして少しあやしい、16歳にも30歳にも見える、自由奔放で不思議なヒロイン。-第二次世界大戦下のニューヨークを舞台に、神童・カポーティが精魂を傾け、無垢の世界との訣別を果たした名作。
東京近郊のフィットネスクラブに集まる、一癖も二癖もある男と女…。平気で女を乗りかえる若い男。その男の美しい肉体を思い浮かべ自慰に耽る女。水泳コーチの妻は失踪し、団地の主婦は、昔の恋人の名前をつい呟いてしまう。脱サラした古本屋は、妄想癖のある受付嬢の虜となるー。誰もが世界からはぐれ、行先もわからずさまよっている。不穏な恋の罠に翻弄される男女を描く連作短編集。
仙台駅駅裏へと続くX橋。その路地にいつも立つ街娼がいた。あと数カ月で米軍基地が消える。数え切れない米兵と寝た淑子が見つけた、たったひとつの恋ー「X橋にガール」。海で命を落とした仲間の海女の夫と再婚した妙子。ロープが岩に絡まり、海底で身動きができなくなった時に聴こえた磯笛の音色はー「磯笛の島」。昭和三十年代をひたむきに生きた女性たち。珠玉の短編七編。
美世と小学一年生の息子・太朗はふたり暮らし。周囲の人々に支えられ、懸命に明るく生きる日々。ところが、思いがけない出来事がー。傷心の美世を迎えてくれたのは、同じマンションに住む女の子とその父親。いちぶを欠いた二つの家族の出会いは、新たな物語の予感へとつながる。喪失の悲しみと傷みを、魂が受容し昇華するまでを、透明感に満ちた筆致で描き、温かな幸福感と希望を呼ぶ。
マンダレーで開かれた豪華な仮装舞踏会の翌日、海底から発見されたレベッカのヨット。キャビンには、一年以上前に葬られたはずの彼女の死体があったー。混乱するわたしにマキシムが告げた、恐ろしい真実。変わらぬ愛を確信し、彼を守る決意を固めるわたし。だが、検死審問ののちに、マキシムすら知らなかったレベッカの秘密が明らかになっていく。魅惑のサスペンス、衝撃の結末。
海峡を目の前に見る街に代々続く旧家・桜井家の一人娘梅代は、出戻ってきた娘の美佐子と、幼稚園児の孫娘の三人で暮らしている。古びた屋敷の裏にある在日朝鮮人の教会に、梅代とその母はある憎悪を抱え、烈しく嫌ってきたー。注目の新鋭が圧倒的な筆力で描く表題作ほか「不意の償い」「蛹」を収録。
映画館、試写室、ロケ先&セットの撮影現場etc.で発生する、奇怪な事件の数々。密室、透明人間、斬首魔、建物消失などVFX級の謎に酩探偵・紅門福助が挑む!単行本特典として書き下ろし三本を収録したスペシャル・エディション。
昭和十九年、福岡県知事の屋敷に奉公にきた千恵子。華やかな博多の街、美しい令嬢・和江との友情、そして初めての恋。しかし戦争の足音は、千恵子のすぐ背後に迫っていた…千恵子の波乱に満ちた人生を縦糸として、激動の時代にそれぞれの愛を貫き通した五人の女たちが織りなす恋模様。戦前・戦中・戦後の日本で、恋に命をかけた女たちを描く純愛官能ロマン。第五回R-18文学賞大賞受賞『花宵道中』の宮木あや子最新作。
歴史に不滅の名を刻みつつも、いまだヴェールに厚く覆われたままの、東洲斎写楽。蓮丈那智は、古文書の調査の訪れたはずの四国で、その浮世絵の知られざる秘密へ足を踏み入れることに(表題作)。憑代、湖底遺跡、奇怪な祭祀。異端の民俗学者は、堆積する時代に埋没してしまった死者の囁きに、今日も耳を傾け続けるー。あなたの知らぬもう一つのニッポンを描く、本格ミステリ集。
ベサニーは、フェレット海難救助隊の女性キャプテン。オウムやシープドッグやネズミ捕りの猫など、船をねぐらとする小さな生き物たちを、難破寸前の船から救出すべく懸命に働いています。なぜって、人間は彼らを捨て置いて、自分たちだけいち早く安全な場所へ逃げてしまうから。あなたには聞こえますか?荒れ狂う大海原で、小さな動物たちが、命の尊厳を高らかに謳いあげる声が。
ストーミィは、貨物機の女性操縦士。北米大陸のあちこちに住むフェレットたちに物資を届けるため、いつでもどこでも飛んでいきます。ある夜、激しい嵐に巻き込まれた彼女は、墜落寸前の機体をなんとか立て直し、緊急着陸。一息ついた空港のカフェテリアで出会ったパイロットの彼に、運命の糸を感じて恋に落ち…。この物語を読めば、あなたも独りぼっちじゃないことがわかります。
インディアンに育てられた少女、ジェニファ。クールな賞金稼ぎ、トム・B・ストーン。白刃一閃で相手を倒す日本人、サグワロー。舞台は開拓時代の大西部。『アリゾナ無宿』で誕生した、あの奇跡のチームが帰ってきた。コマンチが攫った娘を探し、ロッキーを望む荒野を三人が駆ける。月夜に轟く銃声、風を切り裂いて迫るトマホーク…。至福のウエスタン・ハードボイルド。
交通事故で同乗の愛する妻を亡くして以来、なぜか私には人の背後霊が見えるようになってしまった。特殊な能力を見込まれて、人捜しを依頼された私は、どこかで妻の霊に会えることを期待して探偵のまねごとを始める。だが、手がかりの奇妙なカードをめぐり、不穏な出来事が次々と起こりー。驚きのラストが待ちうける、ちょっと不思議でほんわか切ないスピリチュアル・ミステリー。
高校一年生の甲町源太郎が拾った一匹の子犬。ワンダーと名づけられたその犬を学校で飼うために、甲町はワンゲル部に入り、頭の固い先生たちを相手に大奮闘を演じる。三年後、千草由貴はワンダーの自由のために初めてのクライミングに挑んだ。六年後、教育実習生として高校に帰ってきた甲町。彼らのそばにはいつも、茶色くて人懐っこい犬がいた。少年と少女と犬の十年間を描いた極上の成長小説。
生温い水のようなホーチミンの男。乾いた風のようなソウルの男。夜のネオンのような東京の男。三つの都市で私を待つ、三人の愛人。それぞれに異なる性愛の味。果てしない快楽の三重奏に溺れていく私。そして、可愛がられることに慣れた男たちが、もっと多くを望むようになってー。男という触媒によって高まる、灼けるような欲望と甘やかな母性。女のエロスの表裏を濃密に描く官能小説。
金と力のある男の欲望を受け止めてやるのは、若く美しい女の義務なのだ。私はそれに忠実だっただけー。「地上げの帝王」と呼ばれた不動産会社社長の愛人を経て、女優を妻に持つ有名レストランの御曹司を虜にし、狂乱のバブル期の伝説となった女性、アッコ。彼女は本当に「魔性の女」だったのか。時代を大胆に謳歌し、また時代に翻弄された女性を描く、煌びやかで蠱惑的な恋愛長編。
永遠に私の前から姿を消してしまった洋一のことを、結婚を控えた今、しきりに思い出すのはなぜだろう。大学時代、決定的な関係を避けて、あやふやに別れた彼との木漏れ日のように温かな記憶(「ドイツイエロー」)。孤独な魂が響き合い、その一夜だけを共にした男が私に刻印した言葉の響き(「いつか、マヨール広場で」)。今でも忘れられない追憶の中で、密やかな調べを奏でる四つの恋愛短編。