出版社 : 新潮社
ある寒い日、雪のひとひらは生まれた。地上に舞いおりたときから、彼女の長い旅がはじまった。伴侶となる雨のしずくとの出会い、新たな命の誕生。幸福なときも試練のときも、彼女は愛する者のために生きた。やがて訪れた、夫との永遠の別れ、子どもたちの門出。雪のひとひらは、その最期の瞬間、自らの生の意味を深く悟るー。自然の姿に託して女性の人生を綴る、優しく美しい物語。
あまたの橋が架かる町。眠るように流れる泥の川。太古から岸辺に住みつく「うなぎ女」たちを母として、ポーは生まれた。やがて稀代の盗人「メリーゴーランド」と知りあい、夜な夜な悪事を働くようになる。だがある夏、500年ぶりの土砂降りが町を襲い、敵意に荒んだ遠い下流へとポーを押し流す…。いしいしんじが到達した深く遥かな物語世界。驚愕と感動に胸をゆすぶられる最高傑作。
近未来の日本に、鎖国状態の「江戸国」が出現。競争率三百倍の難関を潜り抜け、入国を許可された大学二年生の辰次郎。身請け先は、身の丈六尺六寸、目方四十六貫、極悪非道、無慈悲で鳴らした「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守だった!ゴメスに致死率100%の流行病「鬼赤病」の正体を突き止めることを命じられた辰次郎はー。「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作。
慶長十一年、死の床にあった柳生石舟斎が言い遺した言葉。それは、枕頭に侍っていた新陰流の達人にして、陰陽道の術客でもある柳生友景に、朝鮮妖術師との新たな死闘を覚悟させた。古代よりの怨讐をこえて魔界の王を味方にし、魑魅魍魎をも従えた友景は、後水尾帝の陰陽頭となり、この国を陰謀に陥れようとする者どもと対峙する。痛快無比、奇想天外の歴史大活劇。
生後間もない綾のために、育児休暇を進んで取った前向きパパの洋介は、職場復帰した妻に代わり奮闘する毎日。食事づくりも洗濯も体当たりの洋介が、娘の夜泣きに根負けした日、妻に勝てない一線に気づいた。それはおっぱい。そこで考えた秘策とは…。驚きの育児小説「ふにゅう」をはじめ、子育てに真っ向からぶつかるいまどきパパを描いた共感と愛情あふれる作品集。
食べものも男も、おいしく有り難くいただきませんとねー。失恋を忘れるため、冴えない男の誘いを受けた沙織。だがつれていかれた店で出てきた料理はゲテモノばかりで…。大のタマネギ嫌いの志奈は、それを直したがる彼と険悪に。20代のロミが50代の高村とデキてしまったのは、バターご飯のフェロモンのせい!?恋も食も、スパイスが肝心。ウィットたっぷりの美味なる恋愛小説6編。
あの夏の夜のことは忘れられない。挑発され、怒りに駆られてナイフを握った。そして一人の命を奪ってしまった。少年刑務所から仮釈放された、中道隆太。彼は人間味溢れる保護司に見守られ、不器用ながらも新たな道を歩みだしていた。その矢先、殺人の罪を告発するビラが撒かれた。誰が?何のために?真相を求め隆太は孤独な旅を始めたのだがー。深い感動を呼ぶ、著者の代表作。
大好きなのに、いつまでも一緒にいたいと思ったのに、ぼくの心を一瞬で奪った君は“消えてしまった”。君の存在を証明するのはたった数分のビデオテープだけ。それが無ければ、君の顔さえ思い出せない。世界中の人が忘れても、ぼくだけは忘れないと誓ったのにー。避けられない運命に向かって必死にもがくふたり。日本ファンタジーノベル大賞受賞作家による、切ない恋の物語。
小学校を卒業した春休み、私は弟のテツと川原に放置されたバスで眠ったー。大人たちのトラブル、自分もまた子供から大人に変わってゆくことへの戸惑いの中で、トモミは少しずつまだ見ぬ世界に足を踏み出してゆく。ガラクタ、野良猫たち、雷の音…ばらばらだったすべてが、いつかひとつでも欠けてはならないものになっていた。少女の揺れ動く季節を瑞々しく描いた珠玉の物語。
本当に愛する人ができたら、絶対にその人の手を離してはいけない。なぜなら、離したとたんに誰よりも遠くへと行ってしまうからー。最初で最後の運命の恋、片思いの残酷な結末、薄れてゆく愛しい人の記憶。愛する者を失い、孤独に沈む者たちが語る切なくも希望に満ちたストーリーたち。真摯な対話を通して見出されてゆく真実の言葉の数々を描いた傑作中編集。
結婚式の夜、苦悩の果てに男が過去を打ち明けたときの新婦の反応は。上演中なのに大声で俳優を罵る、劇場勤めの老人の運命はー。あっと驚く皮肉な結末に導かれる愛すべき登場人物たちは、100年以上を経た今も生きている!1000編もの作品を残したロシア最高の短編作家チェーホフ。ユーモアたっぷり、洒脱で鮮やかなショートショート傑作集、本邦初訳を含め、すべて新訳の65編。
天下の直参、と言えば聞こえは良いが、勝小吉はお役に就くこともなく市井に生きる貧乏御家人。だが、人情に厚く腕も立つ小吉は、詐欺師や悪徳高利貸たちを懲らしめるため東奔西走し、町の人々に慕われている。そんな小吉の楽しみは、剣術と蘭学の修業に励む息子・麟太郎の成長だった。後の海舟の若き日を、貧しくとも鷹のように気高く清々しく生きる父子の物語として描いた傑作長編。
私塾を開いて妻も娶った麟太郎。貧しい生活をつづけながらも、蘭学や砲術研究にますます磨きをかけ、その力量は諸大名や幕閣の目に留まるまでになった。息子の立身に目を細める小吉は、市井の人々と喜怒哀楽をともにする日々をおくっていたが、いつしか病を得るようになり…。幕末という時代のうねりと、たくましく生きる江戸ッ子たちの姿を生き生きと描いた畢生の歴史時代小説。
ヒト型ロボットが実用化された社会。ロボット学者の祐輔と進化心理学者の玲奈は、ロボットのケンイチと共に暮らしている。三人が出席した人工知能のコンテストで起こった事件から、悪夢のようなできごとは始まった。連続する殺人と、その背後に見え隠れする怜悧な意思が、三人を異世界へ引き寄せるー。人間と機械の境界は何か、機械は心を持つのか。未来へ問いかける科学ミステリ。
いまこそすべてを明かします。もはや永遠に会えない貴方との日々を、密室で繰り広げられた、あの行為を。高校生の「僕」は、年上の従姉に誘惑されて官能にめざめるが、彼女は不幸な病を得て、人里離れた館へ身を隠す。従姉を追って館に向かった「僕」は、さらなるエロスの深淵へと引きずり込まれてー。生々しすぎる性愛と純粋すぎる恋情の、甘美なクライマックス。禁断の恋物語。
由紀哉は、今夜もイかなかった。せっかくひと晩3万円で買ったのに、22歳の彼は、29歳の私には発情しないのだろうかー。会社の同僚に振られ、恋することが怖くなった咲希。気に入った子を“お持ち帰り”できるウリセンバーで、由紀哉に出会う。甘い囁きとは裏腹に、つれない由紀哉の身体。やるせない想いに身を焦がす、咲希の恋の行方はー。「新潮ケータイ文庫」で共感の嵐。超リアルな恋愛小説。
徳川の中期、将軍綱吉の時代。零落した公家の娘染子は侍女として大奥に出仕する。綱吉に見初められてその寵愛を受けるが、大奥に囚われるのを拒んだ染子は、重臣柳沢吉保の側室となり、綱吉の子を生す。二人の男との三つ巴の関係のなかで激しい恋情に身を焦がす染子。絢爛な元禄の歴史を背景に、権謀術数の渦中でも、志に燃え恋に心解き放つ女と男の、強靱な恋愛を描く長編小説。
ぼくが転入してきたクラスで行われていた、ゲーム。それは異形の連続殺人者・牛男の次の犯行を予測しあうことだったー。最初は面白半分だった。でも、いつしか、ぼくたちは引き返せない地点まで来てしまったんだ(表題作)。災厄が露にした、きょうだいの秘密(「大洪水の小さな家」)。教室で突如火を噴く、恵子のサブマシンガン(「慾望」)。デッドエンドを突き抜ける、六つの短編。
地元の高校球児のスター・諸岡克彦が、謎の死を遂げた。それは、全身にガソリンをかけられ、火だるまになるという残忍で奇怪な事件だった。偶然その場に居合わせた、弟の進也、蓮見探偵事務所の加代子、そして“俺”は、その死の謎を解き明かすべく捜査を開始する。元警察犬“マサ”の視点で描く、宮部みゆきの単行本デビュー作。