出版社 : 新潮社
誰も私を知らない遠い場所へ-そして、そこで終わりにする。…はずだったけど、たどり着いた山奥の民宿で、自分の中の何かが変わった。あなたの心にじんわりしみる気鋭の作家の最新長篇。
前途有望な青年アドルフは自らの空虚な心を埋めるため、伯爵の美しい愛人エレノールに恋を仕掛け成就させる。しかし、彼女が贅沢な生活も、子供たちも、風評もすべてを捨てるという一途な愛情を示した時、彼はその関係からの脱出を願うようになる。耐えがたい重圧を感じながらも、どこにも逃れることが出来ない男性の虚しい心の動きを冷徹に分析し、精緻に描ききった自伝的心理小説。
青い左眼をした沙奈とのセックスのあと、気がつけば快速に乗り新宿に着いていた。慾望はすでに発散しつくしているのにー。幼い日に、私は性技を教えこまれた。無数の女と経験を重ねた。だが、作家として暮す現在は、いわば自分本位の性を貪っているのだった。歌舞伎町の覗き部屋を訪れた私は、どこまでも対照的な女たち、美和と奈々に出逢う。鬼才が、幻想と本能を描き尽くす。
海外で離婚し、故郷に帰るも乳飲み子を抱えて働き口がなく、生活保護を受けながら喫茶店の窓辺で書いた物語が大当たりー今や女王陛下よりも裕福と言われるローリング女史。初版500部で始まった魔法使いの少年のお話は、現在約60の言語で2億5000万部以上読まれていると言われる。世紀の変り目に起きた文学史上の一大奇蹟、もはや伝説となった超人気シリーズは、こうして生れた。
州に昇格して間もないワイオミングの刑務所から、3人の凶悪犯が逃亡した。しばらくしてー、近くのさびれた鉱山街に、ふらりと1人の若者が現れた。陽気で働き者の彼は、なぜか時代遅れの大きな銃を大事そうに抱えていた…。伝説の覆面作家が創り出す風変わりな隔絶空間。縦横無尽の文才を駆使して語られるのは、知性なのか、狂気なのか?15年の沈黙を破った待望の新作。
2004年4月11日、35歳で急逝した鷺沢萠が生前から構想していた、一つの主題に貫かれた三つの物語。最終篇はパソコンに遺され未完に終わった。また、自身の高校時代を描いたと思われる絶筆も未完ながら併録。18歳のデビューから、生きること、考えること、書くことに走り続けた作家が最後に遺した小説集。
ドイツ人彫刻家ブリックの母は母国オランダで死を受け容れようとしていた。無神論者の母に捧ぐ、天に到る「祈りの塔」。しかし、この現場を任せられるのは広大な拡大EUにはいなかった。粋でカッコはいいんだが、浮世から浮きまくっている極東の彼らに頼むしかない。死と鎮魂のテーマを空高く、彼らなら響かせ刻んでくれるにちがいない…。ひねりのきいた笑いとでっかい感動が静かに厳かに読者を包む名作。
三村の家では毎晩が酒盛りだった。若い男どもが、風呂上りのからだに下穿き一つで出入りする大家族。男たちの肌の火照り、女たちの熱い息。駿と悠太は幼い頃から、性と暴力の渦の中にいたー少年たちに深い印象を残してゆく幾人もの男たち。強い引力を感じながらも、少年たちは、彼らとは違う男に育ってゆく。
特殊消火降下部隊(スモーク・ジャンパー)に所属する二人の男、エドとコナー。二人は親友同士だった。だが、エドが恋人ジュリアを連れて現れたときから、三人の運命の歯車は回り始めた。ほのかな好意、尊敬と信頼。そして、すべてを変える山火事が起こった…。予想不可能な怒涛の展開が待ち受ける、感動の恋愛巨篇の幕開き、人生を賭けた愛の始まり。
精神の病を抱えた、突拍子もない父との越えがたい断絶。恋に恋し、もどかしくも切ない童貞喪失を迎える少年。愛する兄の死を予知したように感じ、その兆しに怯える弟…。知らず知らずに異端者となりながらも、人と人との間に横たわる溝を、なんとか埋めようとひそかにあがき、苦悩する人々を柔らかな声で描く全9篇。全米図書賞、ピュリッツァ賞最終候補。
伯母の家に預けられた村の子の眼に映る周囲の人びとの物狂いの世界を綴る「白痴群」。ともに五十歳近い初婚夫婦が、一匹の兜虫の生と性のすさまじさ、むごさを見ながらその死を看取る「武蔵丸」(第27回川端康成文学賞受賞)。他に「狂」「功徳」「一番寒い場所」など、「書くことは、私には悲しみであり、恐れである」という著者の、業曝しの精神史としての私小説6篇を収録。
病院の崩壊事故にともなう死傷事件の公判直前。手抜き工事の黒幕バラギュラは、証人を片端から消すよう部下に命じていた。ノンフィクション作家コーソは、彼の悪事を暴く本を執筆中だったが、元恋人が、バラギュラの証拠隠滅工作に巻き込まれ瀕死の重傷を負ったと知る。さらに自分の身辺にまで殺し屋を差し向けられ、ついにコーソの憤りが炸裂する!問答無用のサスペンス名編。
ミサイル防衛を凍結する条約に調印すべくロシアを訪問した合衆国大統領夫妻が、ロシア大統領夫妻とともに銃撃を受ける。取り押さえられた犯人は亡命イギリス人の息子。三国合同捜査が開始されることとなり、例によってチャーリーにお鉢が回ってくる。だが、高をくくっていた彼が調べを進めるうちに、尋常ならざる陰謀の構図が浮かび上がってきた…。好評シリーズ、注目の新展開。
ロシア国内にそびえる幾多の壁。入り乱れる各国捜査陣の思惑。相変わらず冷笑的な上司。困難な状況の中、チャーリーは自身のルールを堅持する。“作戦を立てるときは退路を確保し、必ず他人より先を行く”。だが、検証を進めれば進めるほど疑わしくなってゆく人物がいたーナターリアである。すでに冷えかけている関係をなんとか修復したいチャーリーは難しい判断を迫られた…。
クラスの人気者アンドリアが無惨な死を遂げて以来、7歳だったエリーは、姉との秘密を誰にも明かさなかったことを悔やみ続けてきた。犯罪調査記者となった今もー。憎むべき男は姉の命だけでなく、父も母も彼女から奪った。二人は痛手から立ち直れなかったのだ。魔物は近く仮釈放される。エリーは独自に再調査を進め、葬られた真実をネット公開し始める…。
北海道に単身赴任した検事・霞夕子。凶悪事件の少ない落ち着いた日々だったが、事件発生の急報が入った。現場で捜査に加わる夕子の勘が捉えた、かすかな違和感、些細な事実。「いったい、どういうことなのかしら…」。夫と妻、父と娘、姉と弟-北の断崖に渦巻く人間関係のあや。人生の危うさ、心の弱さを見つめてきた著者による出色の短編集。
他愛ない内容ばかりだった。特に近づいてこようとしない相手との、安心な、心地よいメールのやりとり。今、そこから踏み出したら、その先には何が待っているの?限りない成熟?それとも不安?もしかしたら…自由?放埒と純情が乱舞する情愛小説の頂点。