出版社 : 新潮社
東京荻窪の閑静な住宅街で、新婚夫婦が惨殺された。凶器は手斧。意味不明の遺留品が残され、血まみれの若妻は、結婚式場のパンフレットを口中に押し込まれていた。かつて吉祥寺で起きた類似事件と関係があるのか。謎めいた密告、捜査幹部と被害者の秘められた関係。捜査は泥沼化し、またも新婚夫婦が手斧で殺される……。苛酷な真相と重い衝撃が胸を抉る傑作ミステリー。『酷ハーシュ』改題。
その男の死体が発見されたのは 8月21日だった。「そうか、結局死んだのか」梨木刑事の記憶は少年時代に戻る。深い後悔が僕らのすべてを引き裂いた、あの夏の花火大会の夜に。僕らは置き去りにしたのだ──幼い少女を暗闇の山中に。刑事は故郷に戻り、かつての仲間と22年ぶりに再会し、事件の真相を解き明かす。胸を締め付ける瑞々しい情景描写が選考会で絶賛された新潮ミステリー大賞受賞作。
妻に離婚を切り出され取り乱す夫と、その心に甦る幼い日の記憶(「月が笑う」)。人気料理研究家になったかつての親友・春花が、訪れた火災現場跡で主婦の紀美子にした意外な頼みごと(「平凡」)。飼い猫探しに親身に付き添うおばさんが、庭子に語った息子とおにぎりの話(「どこかべつのところで」)。人生のわかれ道をゆき過ぎてなお、選ばなかった「もし」に心揺れる人々を見つめる六つの物語。
さよなら、一緒にいてくれてありがとう。軽音部室で殺された女の子、ミズ。それから五年、抜け殻のような日々を過ごしていた僕の前に、彼女は突然現れた。「同窓会を開きなよ」高校生の姿のまま、僕にしか見えない彼女に振り回されて、あの日から止まったままの時間が再び動き始める。痛みも後悔も乗り越えて、燦めく彼女の笑顔の側で、僕はその死の真相に辿り着く。大人になりきれないすべての人に贈る、恋と青春の物語。
ねえ先生、これがあなたの罪ですよ。本の中の世界を破壊する侵蝕者との戦いのため、アルケミストたる特務司書の手で転生した芥川龍之介は、仲間と共に侵蝕された自著・『地獄変』へ潜書することになった。歪に書き換えられた物語の文意を探り、小説世界を進む芥川達だが、敵の強力な攻撃で仲間は次々に倒れていく。たどり着いた最奥で彼に突きつけられる自身の“罪”とは。「文豪とアルケミスト」公式ノベライズ第一弾。
何が起こっているのか? そして彼女は何者か──旅人は彷徨い続ける。文明が衰退し、崩れ行く世界を風に吹かれるままに。訪れた六つの町で目にした、人々の不可思議な営みは一体何を意味するのか。終わりない旅路の果てに、彼女が辿り着く、ある「禁忌」とは。数多の断片が鮮やかに収斂し、運命に導かれるようにこの世界の真実と、彼女の驚愕の正体が明らかになる。注目の鬼才による、読者の認知の枠組みをも揺さぶる異形のミステリー。
マイアミに暮らす美貌のカリ・モーラは25歳。故国のコロンビアでの凄惨な過去を背負い、移民として働きながら、獣医になることを夢見ている。彼女は麻薬王の邸宅管理のバイトがきっかけで、屋敷に隠された金塊を狙う犯罪集団の作戦に巻き込まれ、彼らと対立する臓器密売商の猟奇殺人者シュナイダーの妄執の的にもなってしまい──。極彩色の恐怖と波乱の展開に震える傑作サイコ・スリラー。
僕は老犬バディ。この世での役目は終えて、永遠の眠りにつくはずだった。あの子と巡り合うまでは ──死別した飼い主イーサンの孫娘CJが僕の運命を変えた。何度生まれ変わっても彼女を守ろう。そう決めた僕は、癌探知犬からセラピードッグへと転生しながらCJに寄り添いつづける。試練に見舞われて傷ついた彼女の心を癒すために。犬と人間の幸福な関係を描く感涙のドッグ・ファンタジー。
一六三二年、英国に生れた船乗りロビンソンは、難破して絶海の孤島に漂着した。ここから二十八年に及ぶ無人島生活が始まった──。不屈の精神で鳥や亀を獲り、野生の山羊を飼い慣らしてバターやチ -ズを作り、パンまでこしらえてしまう。ところが驚天動地の事態が……。めげない男ロビンソンを通して人間の真の強さを描き、世界中に勇気と感動を与えてきた、冒険文学の金字塔。待望の新訳。
ラヴクラフトは不遇のままその生涯を閉じた。だが、彼の創造したクトゥルー神話は没後高く評価され、時代を越えて世界の読者を虜にしている──。頽廃した港町インスマスを訪れた私は、魚類を思わせる人々の容貌の恐るべき秘密を知る(表題作)。漂流船で唯一生き残った男が握りしめていた奇怪な石像とは(「クトゥルーの呼び声」)。英文学者にして小説家、南條竹則が選び抜いた、七篇の傑作小説。
勉強できなくても、お金がなくても、大丈夫! 『校閲ガール』著者が描く、最高にハッピーな青春小説。美容科・看護科・調理科など職業に関する学科が揃う「働くための高校」で、お母さんを癒すためエステティシャンを目指す二年生の友麻。家が貧乏で肝心の母は行方不明でも楽しい学園生活を満喫中! 世間の価値観に縛られず、自分のやり方で幸せを探す彼女がたどりついた場所とはーー。しあわせになれるヒント満載の青春長編。
あの夏、ぼくは「勇気」を手に入れた。稀代のストーリーテラーによる約3年ぶり、渾身の長編小説。人生で最も大切なもの。それは、勇気だ。ぼくが今もどうにか人生の荒波を渡っていけるのは、31年前の出来事のおかげかもしれないーー。昭和最後の夏、ぼくは仲の良い友人2人と騎士団を結成する。待ち受けていたのは、謎をめぐる冒険、友情、そして小さな恋。新たなる感動を呼び起こす百田版「スタンド・バイ・ミー」、遂に刊行。
秀吉の配下となった八人の若者。武勲を上げた七人は「賎ケ岳の七本槍」とよばれるようになる。「出世」だけを願う者、「愛」だけを欲する者、「裏切り」だけを求められる者ー。己の望みに正直な男たちは、迷いながらも、別々の道を進んだ。残りのひとりは、時代に抗い、関ケ原で散る。この小説を読み終えたとき、その男、石田三成のことを、あなたは好きになるだろう。共に生き、戦った「賎ケ岳の七本槍」だけが知る石田三成の本当の姿。そこに「戦国」の答えがある!
男として生まれた。でも、あのおねえさんみたいな、きれいな女の人になりたいなーー。蔑みの視線も、親も先生も、誰に何を言われても関係ない。「どうせなるのなら、この世にないものにおなりよ」。その言葉が、生きる糧になった。カルーセル麻紀さんのことを、いつか絶対に書きたかった、という熱い思いが物語から溢れ出る。
大阪南部のある一族に持ち上がった縁談を軸に、わがままな母を甘やかす本家の祖父母、学生運動をしていた婿養子の父、穏やかで優しい精神を病んだ叔母、因襲的な親戚の姿を、河内弁で幼女の視点から鮮やかに描き出す。三島由紀夫賞受賞作にして新潮新人賞受賞の驚くべきデビュー作。
吹雪の白い静寂のなかに消えていった、あの光景。アルプスの山とともに生きた、名もなき男の生涯。雪山で遭難したヤギ飼いとの邂逅に導かれるように、20世紀の時代の荒波にもまれながら、誰に知られるともなく生きたある男の生涯。その人生を織りなす、瞬くような忘れがたき時間が、なぜこんなにも胸に迫るのだろう。80万部を超えるベストセラー、英語圏でも絶賛! 現代オーストリア文学の名手が紡ぐ恩寵に満ちた物語。
この街の住人たちには、自分を偽る暇も金もない。他人には見えない電車を毎日運行する六ちゃん。夫を交換し合って暮らす勝子と良江。血の繋がらない子供を五人も養う沢上良太郎に、自宅に忍び込んだ泥棒をかばうたんば老人──。誰もがその日の暮らしに追われる貧しい街で、弱さや狡さを隠せずに生きる個性豊かな住人たちの悲喜を紡いだ「人生派・山本周五郎」の不朽の名作。