出版社 : 新潮社
あたしは絵師だ。筆さえ握れば、どこでだって生きていけるー。北斎の娘・お栄は、偉大な父の背中を追い、絵の道を志す。好きでもない夫との別れ、病に倒れた父の看病、厄介な甥の尻拭い、そして兄弟子・善次郎へのままならぬ恋情。日々に翻弄され、己の才に歯がゆさを覚えながらも、彼女は自分だけの光と影を見出していく。「江戸のレンブラント」こと葛飾応為、絵に命を燃やした熱き生涯。
祇園の名店『和食ZEN』の奥にある秘密の扉。『小堀商店』の入り口だ。ZEN店長の淳、売れっ子の芸妓ふく梅、市役所勤務の伊達男木原の三人は、食通として名高い百貨店相談役、小堀善次郎の命を受け、とびきりのレシピを買い取るため、情報収集に努めている。そして今日も腕利きワケありの料理人が現れてー。京都と食を知り尽くす著者が描く、最高に美味しくてドラマチックなグルメ小説。
動物レプリカ工場に勤める往本がシロクマを目撃したのは、夜中の十二時すぎだった。絶滅したはずの本物か、産業スパイか。「シロクマを殺せ」と工場長に命じられた往本は、混沌と不条理の世界に迷い込む。卓越したユーモアと圧倒的筆力で描き出すデヴィッド・リンチ的世界観。選考会を騒然とさせた新潮ミステリー大賞受賞作。「わかりませんよ。何があってもおかしくはない世の中ですから」。
「わが主君に謀反の疑いあり」。筑前黒田藩家老・栗山大膳は、自藩が幕府の大名家取り潰しの標的となったことを悟りながら、あえて主君の黒田忠之を幕府に訴え出た。九州の覇権を求める細川家、海外出兵を目指す将軍家光、そして忠之ー。様々な思惑のもと、藩主に疎まれながらも鬼となり幕府と戦う大膳を狙い刺客が押し寄せる。本当の忠義とは何かを描く著者会心の歴史小説。司馬遼太郎賞受賞。
昭和38年、松坂熊吾は会社の金を横領され金策に奔走していた。大阪中古車センターのオープンにこぎ着けるのだが、別れたはずの女との関係を復活させてしまう。それは房江の知るところとなり、彼女は烈しく憤り、深く傷つく。伸仁は熊吾と距離を置き、老犬ムクは車にはねられて死ぬ。房江はある決意を胸に秘め城崎へと向かった…。宿運の軸は茫洋たる暗闇へと大きく急速に傾斜していく。
指物師の職人の家に後添いとして入ったおしなだったが、なつかぬ継子と姑の苛烈な虐めに、耐えきれず家を出た。二年後、ばったり、夫に出遭ってしまう(「蝋梅」)。こっそり組織的に藩士に内職をさせていた貧乏藩。足軽勘七の透かし彫の柘植櫛が大店の跡取り娘の手に渡り、娘は「この職人に会いたい」と言い出した(「恋の櫛」)。江戸の各所で職人の技と意地と優しさが交差する。心温まる傑作四編。
少年の日、健志は恋をした。桜の咲く頃だけ春待岬の洋館で会える、美しい少女・杏奈に。なぜ、彼女が現れるのは一年のうち数日だけなのか。なぜ、館に暮らす老人を「兄さん」と呼ぶのか。杏奈の秘密を知った健志は、彼女をいつか救い出そうと決意する。月日は流れ健志は年を重ねていくが、杏奈はずっと少女の姿のまま…。幼い初恋はやがて究極の純愛へ。切なすぎるタイムトラベルロマンス。
男子大学生のふりをして気ままに生きるオスの三毛猫・谷中千歳は恋に落ちた。人間(ドーナツ屋さん)の女の子・愛宕椿と。正体を明かせず悩む千歳…けれども椿の秘密の方がもっとすごかった。なんと彼女は歌舞伎町の任侠団体の組長の娘、しかも…!?お互いに秘密を抱えた奇妙なカップルが、運命に翻弄されながらも、自分らしい生き方を選びとる。恋人たちの青春ストーリー。
没落した明治の貿易商、宇江神家。令嬢の華煉は目覚めると記憶を失っていた。家族がいて謎の使用人が現われた。館は閉されており、出入り困難な中庭があった。そして幽閉塔。濃霧たちこめる夜、異様な連続首無事件が始まる。奇妙な時間差で移動する首、不思議な琴の音、首を抱く首無死体。猟奇か怨恨か、戦慄の死体が意味するものは何か。首に秘められた目的とは。本格ミステリー。
天才絵師「写楽」を売り出すー。それは知られざる“絵師”を中心にした空前のプロデュースだった。関わる者をわずかにとどめ、世間を欺く大仕掛け。正体不明の絵師は、噂が噂を呼んで大評判に。だが、気づいた者がいた…。思わぬ窮地に陥った仕掛人は、まさかの“禁じ手”を打つ。写楽は、なぜ謎のまま姿を消したのか。それが「写楽事件」を解く鍵だー。傑作時代小説。
はじまりは一九六七年のニューヨーク。文学を志す二十歳の青年の人生は、突然の暴力と禁断の愛に翻弄され、思わぬ道のりを辿る。フランスへ、再びアメリカへ、そしてカリブ海の小島へ。章ごとに異なる声で語られる物語は、彼の人生の新たな側面を掘り起こしながら、不可視の領域の存在を読む者に突きつけるー。新境地を拓く長篇小説。
15世紀イタリアに生きたルネサンスの画家と、母を失ったばかりの21世紀のイギリスの少女。二人の物語は時空を超えて響き合い、男と女、絵と下絵、事実と虚構の境界をも鮮やかに塗り替えていく。そして再読したとき、物語はまったく別の顔を見せるー。未だかつてない楽しさと驚きに満ちた長篇小説。コスタ賞、ベイリーズ賞、ゴールドスミス賞受賞作。
大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば…。さらに、赤石が論文データを捏造したと告発する怪文書が出回り、祐介は「犯人探し」を命じられる。個性的な研修医達の指導をし、告発の真相を探るなか、怪文書が巻き起こした騒動は、やがて予想もしなかった事態へと発展していくー。
ひとりで商いを切り盛りすることになったお瑛は、兄・長太郎が残した仕入帖を開き、小間物屋や工房を訪ね歩く。頑固な指物職人の親方につめたくあしらわれながらも、なんとか品を仕入れようと再訪したお瑛は、長太郎のある願いを知ることに…。すべて三十八文の商品に秘められた謎を解く、江戸の“百均”よろず屋繁盛記。江戸下町の陰影あふれる人情を描く、好評時代シリーズ第三弾。
「死者の丘」と呼ばれるモヘンジョダロを擁する都・パキスタンで人工知能学者のヒュウガ博士が謎の死を遂げる。調査を進めるうちに、同時期に世界各地で四人の博士の怪死体が発見された事実が判明。ヒュウガ博士の死と不可解な連続死の関係、そして、博士が遺した「アトラスの謎」の真相とは?京都・シンガポール・イタリア・インドを舞台に、完全記憶を持つ天才数学者、一石豊が人類最大の秘密を暴く!
「勤、大和の誇り忘れるべからず」師は13歳の今村勤三にそう書き遺し、天誅組と共に散った。やがて明治。維新を先駆けたはずの奈良県は廃藩置県を経たのち大阪府へと吸収され、災害復興も後回しの屈辱的地位に置かれた。議員となった勤三は師の無念と民の怒りを受け、大和の再独立のために立ち上がる。