出版社 : 新潮社
「完璧に美しい小説」があった。もう一度見せて欲しい、あの不敵な美しさを。南洋パラオの出会い、書評家と円熟期の作家、傍らにカクテルグラス。文芸の極みと女の旅。成熟の世界を描く記念碑的長篇。
アロマオイルを纏った肌をぶつけ合い、のぼり立つ匂い。調香師との情事は、私に長い愛人生活を終わらせる予感を抱かせた。あの光景を目にするまではー(「アンビバレンス」)。年上の人妻経営者に持ちかけられた三か月間の恋人契約。俺に抱かれ、女の喜びを感じると話していた彼女は、なぜ突然いなくなったのだろう(「バタフライ」)。記憶と熱を一瞬で呼び覚ます特別な香り。五編の恋愛小説集。
“幻の名峰”として人気の新羅山。その日も登山客で賑わうなか突如、群発地震が襲う。不穏な空気が漂い火山学者は警告を発するが、行政に黙殺される。やがて噴火が始まり、逃げ遅れた人々を救うべく、救助隊員の静奈と夏実は相棒の犬と共に山頂へ向う。だが山中には凶悪な殺人者も潜んでいた。荒れ狂う山、襲いかかる魔手。決死の救出に挑む彼女たちにタイムリミットが…。
覆面の女性歌手の人気で沸く東都劇場に脅迫状が届いた。彼女を出演中に誘拐するという。支配人の息子榊山宗一は前夜の帝国座での女優誘拐事件をヒントにトリックに挑む(「覆面の歌姫」)。殺人光線の研究所所内親睦の園遊会で起きた惨劇と背後にあった諜報戦を描く表題作。巧妙なトリックと乱麻を断つ名推理が光る探偵小説18編。
妻が死んだ。久方ぶりにその手を握り、はっとする。酷く荒れていた。金銭で困らせたことはなく、優雅な生活を送っているとばかり思っていたのに、その手は正に働く女の手であったー(「松の花」)。厳しい武家社会の中で家族のために生き抜いた女性たちの、清々しいまでの強靭さと、凛然たる美しさや哀しさが溢れる三十一の名編。
命の危険はなかった。けれどいちばん恐ろしい場所は“我が家”でしたー。母の一周忌があった週末、光世は数十年ぶりに文容堂書店を訪れた。大学時代に通ったその書店には、当時と同じ店番の男性が。帰宅後、光世は店にいつも貼られていた「城北新報」宛に手紙を書く。幼い頃から繰り返された、両親の理解不能な罵倒、無視、接触についてー。親という難題を抱える全ての人へ贈る相談小説。
クリスマスイヴの朝、午前九時。歯科医一家殺害の第一報。警視庁捜査一課の合田雄一郎は、北区の現場に臨場する。容疑者として浮上してきたのは、井上克美と戸田吉生。彼らは一体何者なのか。その関係性とは?高梨亨、優子、歩、渉ーなぜ、罪なき四人は生を奪われなければならなかったのか。社会の暗渠を流れる中で軌跡を交え、罪を重ねた男ふたり。合田は新たなる荒野に足を踏み入れる。
井上克美、戸田吉生。逮捕された両名は犯行を認めた。だが、その供述は捜査員を困惑させる。彼らの言葉が事案の重大性とまるで釣り合わないのだ。闇の求人サイトで知り合った男たちが視線を合わせて数日で起こした、歯科医一家強盗殺害事件。最終決着に向けて突き進む群れに逆らうかのように、合田雄一郎はふたりを理解しようと手を伸ばすー。生と死、罪と罰を問い直す、渾身の長篇小説。
軽井沢にほど近い、別荘と住宅が混在する静かな森の一画。 2 匹の猫と暮らす59歳の幸村鏡子は、夫を亡くして以来、心身の不調に悩んでいた。意を決してクリニックを受診し、独身で年下の精神科医、高橋と出会う。少しずつ距離を縮め合い、幸福な時を紡ごうとしていた矢先、突然、高橋は鏡子の前から姿を消してしまった……。それぞれの孤独を生きる男女の心の揺れを描いた濃密な心理サスペンス。
家庭で居場所を失ったキャリアウーマンが年下の男と出会って…。意外な成り行きに大人の孤独がにじむ表題作の他、未体験の快感と美容効果を保証する、謎の無脊椎動物が巻き起こす騒動を描く「ヒーラー」、借金まみれのカメラマンが山奥で雌犬の“ヒモ”となる「クラウディア」など。濃厚な物語世界に、動物たちの凛々しさや人間の愚かさを凝縮した絶品の五篇。
高校のスクールカースト上位にいた男女七人は卒業後もそれなりの日々を送っていた。同級生を笑いながらイジメ殺した、そんな過去なんて無かったかのように。だが彼らの元に突然、死者からの同窓会案内状が届く。誰が秘密をばらしたか。疑心暗鬼の中、次々に殺されていく同級生達。そして事件は意外な方向へ…。登場人物全員クズのノンストップ・リベンジ・マーダー・サスペンス!
大正二年、帝大講師・南辺田廣章と書生・山内真汐は南洋の孤島に上陸した。この島に伝わる“黄泉がえり”伝承と、奇怪な葬送儀礼を調査するために。亡骸の四肢の骨を抜く過酷な葬礼を担う「御骨子」と呼ばれる少女たちは皆、体に呪いの痣が現れ、十八歳になると忽然と姿を消す。その中でただひとり、痣が無い少女がいた。その名はアザカ。島と少女に秘められた謎を解く民俗学ミステリ。
将軍綱吉の世で鍼灸道を確立し御典医に名を連ねた検校・杉山和一。彼にはしかし、安眠を許さぬ三つの悪夢があった。仇敵と狙われての東海道。逃れても逃れても追手は迫る。そして辿りついたのは江の島弁天。この地が、ゆくりなくも鍼灸道の原点となった…。和一の夢に繰り返し現われる亡魂。その予言が一つまた一つと的中するたびに、和一は自らに問いかけた。お前はいったい何者なのだ、とー。
都内で発生した連続殺人事件。凶器が一致したものの被害者同士に接点がなく、捜査は難航する。警察への批判が高まる中、「ひまわり」と名乗る犯人がネットメディアに犯行声明を出したことにより、あらゆる人間を巻き込んで事件の熱狂は加速していくー。世界同時配信の「殺人リポート」に隠された犯人の真の目的とは。地道な捜査を続ける刑事たちの執念と、ネット社会に踏みにじられた人々の痛みが胸に迫る、傑作犯罪ミステリ。
死を覚悟した瞬間から“青春の繰り返し”が始まった。私は二十歳の女子大生で、SNS中毒で、アリアナ・グランデになりたくて。でも、いま目の前にあるのは、倒れたバイク。潰れたヘルメット。つまり、交通事故で死の瀬戸際。絶対、最強の恋愛小説。
『果しなき流れの果に』『復活の日』『日本沈没』-。日本SF史に輝く傑作の数々を遺した小松左京の原点は、戦中戦後の動乱期を過ごした旧制中学・高校時代にあった。また京大人文研とのつながりから、大阪万博にブレーンとして関わった顛末とは。幻の自伝的青春小説と手記によって、そのエネルギッシュな日々が甦る。若き日の漫画家デビューなど、新事実も踏まえた文庫オリジナル編集版。
春田龍介、中学二年。学業優秀、推理抜群。無燃料機関の実験当夜、妹が掠われ、機密をも盗まれた。龍介は二つの暗号文を解読し、犯人を追う(「危し!!潜水艦の秘密」)。超爆液の研究所で分析表が盗まれ、次々と所員が殺される。龍介は巧妙な方法で犯人を炙り出す(「黄色毒矢事件」)。若き日の周五郎が旺盛に執筆した血湧き肉躍る少年小説のうち春田龍介ものを七編厳選。
享保19年夏、旗本・根来長時の妻せつは、屋敷を突然訪れた町奉行、大岡越前守を出迎える。大岡は夫に『兼山秘策』を読んだかと問う。そこには二十余年前に勘定奉行・荻原重秀が幽閉されて死んだとあった。死の直前、せつは生家の庭で彼を見かけたのだった。殺めたのは、佐渡奉行に昇りつめた父なのか。真相を追い、せつは佐渡へ。重厚な構成で描く堂々の歴史ミステリー!