出版社 : 新潮社
十代の終わりに、ストーカーと化した元恋人に刺された過去を持つカナ。29歳のいま、裕福な年上の夫と幼い息子、仕事での充足も手にし、満たされた日々を送っていた。そこに、アメリカから姉一家が帰国。未成年の甥から、烈しい思いを寄せられる。危うさを秘めた甥との破滅的な関係は、彼らと、彼らを取り巻く人々をどこに運ぶのか。-空虚への抗いと、その果てにある一筋の希望を描く渾身の長篇小説。
最大の悲劇は、良心的な愚かさによってもたらされる。ベストセラー作家が全力で挑んだ、衝撃の問題作。平和な地を求め旅に出たアマガエルのソクラテスとロベルトは、理想的な国「ナパージュ」に辿り着く。そこでは心優しいツチガエルたちが、奇妙な戒律を守って暮らしていた。だがある日、平穏な国を揺るがす大事件が起こるーー。著者自らが「私の最高傑作」と断言。大衆社会の本質を衝いた、G・オーウェル以来の寓話的「警世の書」。
正しいことを正しいと言って、何が悪いんですか! 史上最高に鬱陶しい主人公、誕生! 一流私大の法学部に在籍する女子大生「田嶋春」、通称タージ。曲がったことが大嫌いで、ルールを守らない人間のことは許せない。そのうえ空気は、まったく読まない。もちろん、友達もいない。そんなタージが突撃した「青春の謎」には、清冽で切ない真実が隠されていてーー。読めば読むほど、不思議とタージが好きになるかも! ?
自分の葬儀が、絶望と悲しみに染まることのないように。そして、愛で満たされるようにーー。舞台は1991年夏、猛暑のニューヨーク。亡命ロシア人で画家のアーリクの病床に集まる五人の女たち、友人たち。ウォッカを飲み祖国のクーデターの様子をテレビで観ながら決して平坦では なかった人生を追想する。そして、皆に渡されたアーリクの最期の贈り物が、生きることに疲れた皆の虚無感を埋めていく……。不思議な祝祭感と幸福感に包まれる中篇小説。
平凡だけど心優しい、キラキラネームの上原ライト。首席の女警でいつも能面、歩くパソコンこと内田アキラ。警察学校で大きな差のついた新任巡査ふたりは、ターミナル駅の東と西で、人生初の交番勤務を始めるー朝から次の朝まで、24時間の泊まり勤務。ライトは生き残ることができるのか。アキラはやっぱり優秀なのか。ふたりを襲う、あまりにも過酷な試練と陰謀とは?
いよいよお台場に建設されるカジノ場の企画運営を任されたチームは、政府の楽観的な計画を信用せず、世界のどこにもない「おもてなし」カジノを実現すべく奔走する。キーワードは「飲む・打つ・買う」。ニッポンが世界に誇る美食と、エキゾチシズム満点の賭場、そして極上の風俗サービスである。前例主義と省益を振りかざす官僚どもを打ち負かし、夢のカジノは果たして誕生するのか?
金で買われた愛人関係から晴れて恋人同士になった誠二と椿。ラブラブなふたりの前に誠二の元カノが登場!優柔不断な誠二の態度を見た椿は人生初のアルバイト&自立を目指すがそれがまた誠二の心を刺激して…。不器用すぎる男と素直になれない女の濃密ラブストーリー。
ねえ、神様。あんたにやってもらいたいことがある。世界を正しいあり方に戻すんだ。阪神大震災を予言し、信者を増やす淡路島の新興宗教。教祖Sはイザナキ、イザナミの国生みの地で、新たな世界創世を説いていた。ある日、アメリカ西海岸の秘密組織から男たちが訪ねてくる。彼らは何を企んでいるのか。すべてを見通す僕とは、いったい何者か? 世界のひずみが臨界点に達したとき、それは起きたーー。大注目の芥川賞候補作。
ここではないどこか、誰も書いたことがない世界を書きたいーー気鋭の作家の新感覚小説! 失踪した音楽家の父を捜すため、西海岸の難関音楽学校を受験する脩。そこで遭遇する連鎖殺人ーー「アメリカ最初の実験」とは? ピアニストの脩が体感する〈音楽の神秘〉。才能に、理想に、家族に、愛にーー傷ついた者たちが荒野の果てで摑むものはーー西海岸の風をまとって、音楽が響き渡る……著者新境地のサスペンス長編。
私は母国より、あなたを選んだ……大ヒット「あん」の著者が描く日韓のロミオとジュリエット! 孤独の街で、二人は出逢った。ミュージシャンとして成功を夢見る拓人と脚本家となり夢の物語を紡ごうとするユナ。互いの心の隙間を埋め合った二人は、日本人と韓国人の障壁も乗り越え世界を共有していく。だが拓人の道が開けかけた時、運命の日が訪れたーー9・11 を体験した作家が描く、心がちぎれるほど切ないラブストーリー。
古い絵はがきに綴られた十行の詩。細くながく結ばれてゆく幻の「詩人」との縁を描く待望の長篇。留学生時代、古物市で見つけた一九三八年の消印のある古い絵はがき。廃屋としか見えない建物と朽ち果てた四輪馬車の写真の裏には、流麗な筆記体による一篇の詩が記されていた。やがて、一枚また一枚と、この会計検査官にして「詩人」であった人物の絵はがきが手元に舞い込んでくるーー。二十数年にわたる縁を描く待望の長篇。
内戦終結後、出所した劇作家を迎えて十数年ぶりに再結成された小劇団は、山あいの町をまわる公演旅行に出発する。しかし、役者たちの胸にくすぶる失われた家族、叶わぬ夢、愛しい人をめぐる痛みの記憶は、小さな嘘をきっかけに波紋が広がるように彼らの人生を狂わせ、次第に追いつめていくー。鮮やかな語りと、息をのむ意外な展開。ペルー系の俊英がさらなる飛躍を見せる、渾身の長篇小説。
貧しさゆえ硫黄島から熊本の廓に売らた海女の娘イチ。郭の学校〈女紅場〉で読み書きを学び、娼妓としての鍛錬を詰みながら、女たちの悲哀を目の当たりにする。妊娠する者、逃亡する者、刃傷沙汰で命を落とす者や親のさらなる借金のため転売される者もいた。しかし、明治の改革の風を受け、ついに彼女たちはストライキを決意するーー過酷な運命を逞しく生きぬく遊女を描いた、読売文学賞受賞作。
日本最大のメガバンクであるTEFG銀行。ディーラーとして名を馳せた桂光義は専務の地位にいた。ある日、盤石なはずの銀行は国債暴落を機に巨大負債を抱え、一夜にして機能不全に。暴落した株に群がるハイエナの如き外資ファンドや混乱に乗じて巨利を貪ろうと暗躍する政財官の大物たちー。桂は総務部の二瓶正平と共に生き残りを懸けた死闘に挑む。
在日の縁談を取り仕切る辣腕「お見合いおばさん」金江福。斡旋料でがめつく稼ぐのになぜか生活は質素だ。日々必死に同胞の縁を繋ぐ、彼女の事情とは(「金江のおばさん」)。妊娠を盾に、在日韓国人の彼と結婚した恵理香。待ち受けたのは、大量のごま油とスパルタな義母で……(「日本人」)。婚活から介護まで、切なく可笑しく温かく家族を描く連作短編集。『ハンサラン 愛する人びと』改題。
実体がないような男との、演技めいた快楽。結婚を控え“変化”を恐れる私に、男が遺したもの(「ほむら」)。傷だらけの女友達が僕の家に住みついた。僕は他の男とは違う。彼女とは絶対に体の関係は持たない(「うろこ」)。死んだ男を近くに感じる。彼はどれほどの孤独に蝕まれていたのだろう。そして、わたしは(「ねいろ」)。昏(くら)い影の欠片が温かな光を放つ、島清恋愛文学賞受賞の恋愛連作短編集。
初対面で彼女は、ぼくの頬をなめた。29歳の営業マン・伊藤俊也は、ネットで知り合った「ナギ」と会う。5歳年上のナギは、奔放で謎めいた女性だった。雑居ビルの非常階段で、秘密のクラブで、デパートのトイレで、過激な行為を共にするが、決して俊也と寝ようとはしない。だがある日、ナギと別れろと差出人不明の手紙が届き…。石田衣良史上もっとも危険でもっとも淫らな純愛小説。
道東釧路で図書館長を務める林原を頼りに、25歳の妹純香が移住してきた。生活能力に欠ける彼女は、書道の天才だった。野心的な書道家秋津は、養護教諭の妻玲子に家計と母の介護を依存していた。彼は純香の才能に惚れ込み、書道教室の助手に雇う。その縁で林原と玲子の関係が深まり……無垢な存在が男と女の欲望と嫉妬を炙り出し、驚きの結末へと向かう。濃密な長編心理サスペンス。