出版社 : 新潮社
新人社員くんの何気ない仕草が不思議に気になる、先輩女子今井さんの心の揺れ動き(「日々の春」)。同棲女性に軽んじられながら、連れ子の子守りを惰性で続ける工員青年に降った小さな出来事(「乳歯」)。故郷の長崎から転がり込んだ無職の兄が、弟の心に蘇らせたうち捨てられた離島の光景(表題作)などーー、流れては消える人生の一瞬を鮮やかに刻む10の忘れられない物語。
目の前を悠然と流れる筑後川。だが台地に住む百姓にその恵みは届かず、人力で愚直に汲み続けるしかない。助左衛門は歳月をかけて地形を足で確かめながら、この大河を堰止め、稲田の渇水に苦しむ村に水を分配する大工事を構想した。その案に、類似した事情を抱える四ヵ村の庄屋たちも同心する。彼ら五庄屋の悲願は、久留米藩と周囲の村々に容れられるのか。新田次郎文学賞受賞作。
遂に工事が始まった。大石を沈めては水門を作り、水路を切りひらいてゆく。百姓たちは汗水を拭う暇もなく働いた。「水が来たぞ」。苦難の果てに叫び声は上がった。子々孫々にまで筑後川の恵みがもたらされた瞬間だ。そして、この大事業は、領民の幸せをひたすらに願った老武士の、命を懸けたある行為なくしては、決して成されなかった。故郷の大地に捧げられた、熱涙溢れる歴史長篇。
昭和二十七年。何の前触れもなく姿を消した恋人…末期ガンの母に代わって消えた男を捜す娘は、いつしか母の想いに自分の恋を重ねはじめる。函館の街を舞台に、時代を挟んで向き合う二組の恋人たちの行き着く先はー衝撃の結末が胸を揺さぶる渾身の恋愛長編。
満開の美しさも散りゆく儚さも、一緒に眺めたいと願うのはいつだってただ一人、おまいさんだけだった。幾年もの時を重ね、季節の終わりを迎えた夫婦が愛でる花。あるいは、苦楽をともにした旧友と眺める景色。桔梗、女郎花、菖蒲、小梅、桜…移ろいゆく花に、ゆっくりと熟した想いを重ね綴られる、八つの絆。江戸市井に生きる人々の、ゆかしい人情が深く心に泌み渡る、傑作短編集。
高級すきやき屋でアルバイトをはじめた中国人留学生・虹智(ココちゃん)は、何本もの紐で縛られた着物姿の我が身を「束ねられた長ネギ」に準える。「いらーっしゃいっまーせ」「かしむかりました」…慣れない習慣や日本語と格闘しながら観察する老若男女の人間模様。あこがれの店長と留学生仲間・柳賢哲との間で揺れる気持ちも描かれる、比較文化的笑いに満ちた、やさしい物語。
目覚めればそこに死体。LAPDの警官の群れ。顔見知りの刑事。んでーおいおいオレが逮捕なの?60年代も終わった直後、街にサーフ・ロックが鳴り響くなか、ロスのラリッ放し私立探偵ドックが巻き込まれた殺人事件。かつて愛した女の面影を胸に、調査を進めるドックが彷徨うは怪しげな土地開発の闇に拉致とドラッグ、洗脳の影。しかも、えーと、“黄金の牙”って?なに?ドックが辿り着いた真実とはー。
過去を隠して孤児を育てる元「捜宝人」の宋格之。父の命を奪った彼と生きる美しい紫蘭。ささやかな希望が芽生えた町を、ある日、皇帝の陰謀が襲った。美少女仙人・僕僕先生と王弁は、鋼の手で敵を滅ぼす伝説の神を求めて湖の底へー。シリーズ第6弾。
漫画界の巨匠が遺した未発表原稿。発見された50枚の原稿には、若い女性を誘拐・監禁し、苦悶する姿をデッサンして殺害する“漫画家”なる人物が描かれ、さらには、作中の被害者の顔は、35年前の連続女性失踪事件で消えた女性に酷似していた。果たしてこれは巨匠本人が描いたものなのか?別人だとすれば誰が、何のために?作者は現実に女性を次々に誘拐し殺した犯人なのかー原稿に遺された痕跡が新たな猟奇事件を招き、驚くべき犯人像が浮かび上がるが…。二転三転から、ありえない結末へ。伝説的名作『MASTERキートン』原作者の一人。漫画界のカリスマだからこそ書けた驚愕のミステリー長編。
瀬戸内の基地で「回天」特攻隊員として出撃を待つ兄善一郎は、たぎる想いと葛藤の日々を、日記と弟への手紙に綴った。学童疎開先から返事を書き続ける弟昭二。だが東京大空襲の戦火で父と母を亡くし妹をも失ってしまうー。戦争に引き裂かれ、生と死の極限に生きた兄弟の魂の交流が照らし出す戦争の悲劇。書下ろし長編小説。
自分の子どもを愛せない母親のもとで育った少女は、湧き出る家族欲を満たすため、「カゾクヨナニー」という秘密の行為に没頭する。高校に入り年上の学生と同棲を始めるが、「理想の家族」を求める心の渇きは止まない。その彼女の世界が、ある日一変したー。少女の視点から根源的な問いを投げかける著者が挑んだ、「家族」の世界。驚愕の結末が話題を呼ぶ衝撃の長篇。
豪雨で帰宅困難になった人たちの心模様を描く表題作はじめ、それぞれの日々の悲哀と小さな誇り、職場の人たちとのすれ違いや結びつきを丹念に描き出す6篇。働き、悩み、歩き続ける人たちのための物語集。
あたらしい生のほうへーひとつの命の誕生という奇跡をのせて、天体は回転しつづける。焼きまつたけとはもしゃぶ。西マリアナ海嶺のうなぎの稚魚。裏のお地蔵さん。石のうさぎ。園子と慎二。みんなのせて。赤ん坊の誕生という人生最大の一日。
御側衆本郷康秀が将軍家斉の代参として日光に向かった。極秘の出立、余りにも少ない従者の数、かげまの同行等、不審な点が目に付き、総兵衛は百蔵と天松を伴って一行を追う。一方、この代参に関わる秘密を掴んだおこものちゅう吉も後を追った。御庭番、傭兵たちとの激闘を経て、本郷の恐るべき野望が明らかとなるのだが…。東照宮を舞台に十代目総兵衛の胸のすく活躍を描く第三巻。
末っ子は損だ。いつまでも姉にいたぶられ、ホント腹立たしい──。元は貧乏男大好きの長女・亜矢は見合いの果てに結婚、転んでもただでは起きない毒舌家の次女・真矢は奇病を克服し、華麗に転職。三女の水絵は大学を出たものの、フリーターの実家暮らしで、恋に一喜一憂の日々。それぞれの恋愛、人間関係を時に優しく時に厳しく見守る家族の日々を描く長編小説。
女は素知らぬ振りをして、いつも抜かりなくすべてを整えているー。仕事を辞め、失意のうちに東京を引き払って田舎で暮らすことに決めた岳夫。ボロ家に手を入れ、一人静かな暮らしを始めた彼の前に現れた一匹の犬と女たち。思いがけなく展開する人生に立ち向かう、大人のための物語。
やりたいこと、夢、特になし。自慢は家事の腕前だけ。そんな佳人が背中を押されて始めたのは、見ず知らずの男女6人+管理人のタカ先生での共同生活。“シェアハウス小助川”という名前の医院を改築した大きな“家”でー。優しすぎて生きづらい、不器用な若者たちの成長を温かい視線で描ききった長編エンタメ。
物語とドレスと映画と記憶と夢に祝福された言葉の宇宙。“読む快楽・書く快楽”に充ちた前代未聞の小説。