出版社 : 新潮社
フツーの小学六年生だった俺。“未来に夢を抱く”ことなんて諦めていた。あいつらと出会うまではージュンペイとヨータの秘密基地には、「ゴールデンラッキービートルの伝説」と名付けた廃車のワーゲンがある。ある日ヨータは、ジュンペイがウサギ殺しの犯人と疑うクラスメートの女子・ヒナが、そのビートルから何かを持ち出すのを目撃する。河原に向かったヒナが手にしていたのは、挙銃だった…。少年少女の一瞬の友情を描く、希望にみちた青春小説。第7回新潮エンターテインメント大賞受賞作。
「実は私、あの時あなたに助けられた…」思いもよらぬ囁き。ということは、一連の行動は恩返しだったわけか/『バカ』。私の半生はこの一語に出会うまでの長い前振りだったのか/干上がる涙、空まわりする思い、神のご褒美、そして雪国の奇蹟…。自由律俳句、108文字の煩悩小説等で文藝の地平を広げる鬼才が紡ぐ日常と非日常、今昔と北の大地の物語。
ニューハンプシャーの山あいの小さな林業の町に暮らす、料理人とその息子。ある夜、寝室から漏れるただならぬ呻き声を聞いた息子は、父親が熊に襲われていると思い込み、ベッドの上の何者かをフライパンで撲殺してしまう。それは父の愛人であり、悪いことに町の悪辣な治安官の情婦でもあった。そして二人の逃避行が始まるー。構想20年!半自伝的大長篇。
追っ手を逃れてニューハンプシャーからボストンへ、そしてヴァーモントへ移り住んだ料理人とその息子。成人した息子は作家として成功し、父親となるが、やがて愛する者たちを次々に失ってしまう。運命に導かれるように、気づけば彼は故郷の町の川のほとりに辿り着き、かつて自分を守ってくれた樵の物語を書き始めるー。ハートフルで壮大、待望の最新長篇。
三月末、北海道東部を強烈な吹雪が襲った。不倫関係の清算を願う主婦。組長の妻をはずみで殺してしまった強盗犯たち。義父を憎み、家出した女子高生。事務所から大金を持ち逃げした会社員。人びとの運命はやがて、自然の猛威の中で結ばれてゆく。そして、雪に鎖された地域に残された唯一の警察官・川久保篤巡査部長は、大きな決断を迫られることに。名手が描く、警察小説×サスペンス。
頭を打ってすべてを忘れてしまった熊が探しはじめたのは、愛するパートナー、レディ・ベアだった。彼女は乱暴だったけど、熊はそんな彼女に会いたかったのだーー動物世間のよもやま話に奇妙で不思議な現実がみえ隠れ、これって、私たちのこと? 生き物世界の不条理がキュンと胸にしみる、シュールで痛快、スパイシーな7つの寓話集。イラスト全14点収録、話題のベストセラーの文庫化。
このままでは愛する村が滅亡する。未来を悟ったとき、少年さざなみは旅立った。一匹の猫と共に…執拗に続く謎の襲撃、馬を愛する王女・甘橘との遭遇、剣の使い手の美少女・桑折との奇縁。やがて巷に死病が流行した時、さざなみの身体に潜む不思議な力が、人びとの運命を一変させていく。古代中国を舞台に、癒しの極致を描く志怪ファンタジー。第23回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
蓮丈研究室に舞い込んできた手書きの古書「阿久仁村遺聞」。村の伝説や民話めいた挿話の数々は、鏡のモチーフに彩られつつ奇妙につながりを欠き真意も編まれた目的も不可解だったー。明治初期に地図から消えた村、隠蔽された惨殺事件、暗躍する怪人物。那智の推理が、村の来歴と「邪馬台国」の実像を射抜く時、古代から現代まで、歴史の闇を貫く「もう一つの日本史」が現前する。著者の絶筆が、その遺志を継いで遂に完成。
1984年、夏。別れた妻をいまだ忘れられぬゾイド・ホイーラーは、今年もヴァインランドの町で生活保護目当てに窓ガラスへと突撃する。金もなく、身動きもならず、たゆたうだけの日々。娘のプレーリーはすでに14歳、60年代のあの熱く激しい季節から、どれほど遠くまで来てしまったことかー。だが、日常は過去の亡霊の登場で一変する。昔なじみの麻薬捜査官が示唆したあの闇の男、異様なまでの権能を誇り、かつて妻を、母を、奪い去ったあの男の、再びの蠢動。失われた母を求める少女の、封印された“時”をめぐる旅が始まった。超ポップなのに、この破壊力。作品の真価を示す改訳決定版。
老女の部屋の壁に並ぶ、無数のカートリッジ。その一つ一つに彼女の大切な記憶が封じ込められていたー。記憶を自由に保存・再生できる装置を手に入れた認知症の老女を描いた表題作のほか、ダムに沈む中国の村の人々、赴任先の朝鮮半島で傷ついた鶴に出会う米兵、ナチス政権下の孤児院からアメリカに逃れた少女など、異なる場所や時代に生きる人々と、彼らを世界に繋ぎとめる「記憶」をめぐる6つの物語。英米で絶賛される若手作家による、静謐で雄大な最新短篇集。O・ヘンリー賞受賞作「一一三号村」およびプッシュカート賞受賞作「ネムナス川」を収録。
元経団連会長にして旧財閥系企業の名誉顧問である梶井は、80年代初め、NYで不遇をかこっていたころ、ジュリアード音楽院に通う日本人学生たちと知りあう。そして彼らが結成した弦楽四重奏団に「ブルー・フジ・クワルテット」と命名。やがて世界有数のカルテットに成長した四人のあいだにはさまざまなもめごとが起こりはじめるが、その俗な営み、人間の哀れさを糧にするかのように、奏でられる音楽はいよいよ美しく、いよいよ深みを増してゆくー。
ルールとカオス、安らぎと興奮、理想と現実…。あなたが求めているのは、一体なに?目の前の誰かを救うためNGO活動に没頭しながらも、戦後利権に群がる民間組織の現実に戸惑いを覚えるさゆり。より危険な道を選ぶことでしか「生」を実感できない焦燥感に悩む、プロの人道支援者ジャン。コソボ、コンゴ、NY、エルサレムを舞台に、生死の境界を往く恋人たちの壮絶な闇を追う長編小説。
今坂一族の卜師梅香林は、鳶沢一族に張り巡らされた闇祈祷を看破した六義園を拠点とした闇四神の結界は富沢町、さらに駿府鳶沢村をも包囲していた。幾重にも仕掛けられた柳沢吉保の百年の呪いに十代目総兵衛勝臣は敢然と立ち向かう。一方、闇祈祷の術者の一人李黒は、鳶沢一族と一心同体であるはずの影・本郷康秀の元に去ったという…。壮大な物語が動き始めた。渾身の第二巻。
還歴を過ぎ念願の剣の修行を始めた、大店の元主・上州屋幸兵衛。熱心な道場通いで七年目に切紙持ちとなったが、大切な奉納試合を前に負けが込んできた。稽古不足か慢心か。日々の心を如実に映す剣の不思議を描く表題作はじめ、倅の敵を求め老親と孫連れで遍歴する男の執念の物語「峠の剣」ほか、自身も剣道の高段者である著者が切先に漲る緊張を臨場感たっぷりに描く本格剣豪小説集。
地下鉄に毒ガスが撤かれた1995年3月、わたしはアメリカへ発った。明るく巨大なアメリカで、私は孤独を満喫した。一生このままでいられるなら、どんなに幸福だろうとさえ思った。ただ、孤独であることの僥倖とは別に、そこには「女」が絶対的に欠けていたー。孤独を愛する男を描く表題作の他、「ふける」「日本私昔話よりじいさんと神託」を収録。
あの夜、歌舞伎町のビルに火を放ったのは自分なのか、それとも?-泥酔した記憶が定かでない中古レコード店主は自問を繰り返す。不穏な日々を彩るように流れるディランの歌声。やがて不審な客が店を訪れ「火をつけろ」とつぶやき姿を消した…。あの「九月十一日」の直前、東京・西新宿を舞台に、変容する世界を描く表題作と、三十一年間借りたままの本を返しにゆく奇妙な一日を写す「返却」。現代演劇を刺激し続ける著者が挑む“小説の冒険”。