出版社 : 早川書房
ユーゴスラヴィア連邦は分裂し、ボスニアでは内戦が勃発した。かつて民族融和の象徴であった首都サラエボは、包囲するセルビア人勢力と、クロアチア人、ムスリム人が鉾を交える最前線と化す。街には砲弾が撃ち込まれ、高台からは狙撃手が無差別に市民を銃撃してくる。そのサラエボの一画にある高層アパートで、腐乱した女性の他殺死体が発見された。だが、現場は戦闘の激しい地区で、警察といえども近づくことが出来ない。戦闘の激化とともに弱体化したサラエボ市警は、すでにその組織の大半が崩壊し、機能を停止しかけていた。だが、刑事部長のロッソ警視はあきらめなかった。そんな状況でも、法と秩序は守られねばならない。部下は動けず、鑑識もなく、写真班もいない。電話もコンピューターも使えない。検死すらも困難だったが、彼は敢然と捜査に赴いた。だが、事件の裏には思いもかけぬ巨大な影がうごめいていた…。常識の通用しない戦場で展開される、捜査と闘いの四日間。かつて内戦下のサラエボに駐在した気鋭ジャーナリストが、その体験を活かして描く、異色の警察小説。
時はご維新、所は東京。異国文化の流入に揺れる文明開花のご時世であった。もと岡っ引きの善七は、上司の市中取締組の宮本少警部と殺人事件の捜査にあたるうちに、裏にひそむ陰謀の渦中に…。やがて事態は善七の女房のおせん、息子のステ吉、火消しのかしらのサクジ、謎のアメリカ人たます、黒人の花魁ばるばなどを巻きこんで、思わぬ方向へと展開しはじめるー架空の明治時代を舞台に、軽快な語り口がさえる奇想活劇。
2021年、世界中でなぜか子供が生まれなくなり四半世紀が過ぎた。絶望と無気力が蔓延するなか、イギリスでは国守ザンが絶対権力を握っていた。ザンのいとこで大学教授のセオは、反体制組織の女性と恋に落ち、組織のメンバーからザンの執政の恐ろしい裏側を知らされる。やがて組織がザンに目をつけられ、その女性が助けを求めてきた時、セオは思わぬ逃亡生活の渦中へ…ミステリ界の頂点に立つ著者が新境地を拓いた話題作。
偉大な詩人エミリー・ディキンスンの没後百年シンポジウムは不穏な空気につつまれた。参加者の間でディキンスンの写真の真偽をめぐる激しい対立が起き、式典で大役を務めた学生が失踪したのだ。これらの間には何か関係が?元刑事のホーマー・ケリー教授が調査に乗り出すなか、遂に死者が出た!ちょっぴり辛辣なユーモアに彩られたネロ・ウルフ賞受賞作。
それは確かに手負いの雄鹿のはずだった-。だが、銃声がおさまったあと、野薔薇の茂みの向こうに倒れていたのは、まだ若い女性の死体だった。山中にひとり住み、密猟で生計をたてていたムーンにとっては、逃げ場のない罠にかかったような事態だった。前科があるので、通報すれば刑務所入りはまぬがれない。だが幸いにも、現場は人影のない山奥の石切場、彼女もどうやら家出でもしてきたらしく、この近辺の人間ではない…ムーンは手近の洞窟に死体を隠し、知らぬ顔を押し通すことにした。近くにあった彼女の持ち物のなかには思いもかけぬ大金があったので、これも持ち帰った。こうすれば、事件が表沙汰になることもなく、そのまま忘れさられるはずだった。しかし、彼女の恋人と思われる男が出現し、事態は一変する。あわてて死体を隠した洞窟へと走ったムーンは、そこで愕然とする…。一発の銃弾をきっかけに、徐々に追い詰められてゆく男の、恐怖と焦燥。人跡も稀な山中で展開される、異色サスペンス。
映画脚本の基礎を確立した、ハリウッドの大物ゴードン・キャントウェルの邸宅で、月例パーティが催された。しかしその席上、脚本家志望の青年レイザー・ジャファーリが突然死してしまう。さっそく警察が呼ばれたが、彼がゲイであり、HIVに感染していたことが明らかになると、単純な病死として片づけようとした。たまたまパーティに出席していた元新聞記者ベンジャミン・ジャスティスは、その死因に疑問を抱き、調査を始めるのだが、その過程で殺人の疑いが…前作『夜の片隅で』で絶賛された甘くせつない世界が甦る、異色ハードボイルド。
プラハの街をぶらつき、観光客の娘を騙して弄ぶのを無上の楽しみとするアメリカ人青年ニックス。彼はある夜モニカという女に出会い、その魅力に取り憑かれた。ジプシーとチェコ王族の血を引きモニカへの想いはとめどなく膨れあがる。彼はモニカを執拗につけ回し、彼女の兄と称する男を殺してさらにある卑劣極まりない犯罪を企てた…“運命の女”のために転落の一途をたどる男を非情なタッチで描く、サスペンスの新収穫。
元捜査官ケイトのもとに、先住民協会の理事をしている祖母エカテリーナが訪れた。土地の開発をめぐって理事会が開かれるアンカレッジへ同行してほしいと頼みにきたのだ。祖母によれば、開発に反対する理事の一人が最近急死したうえに、他の理事たちも様子がおかしいという。だが、二人が到着して間もなく、反対派の理事がまた一人謎の死を遂げ…ケイトのねばり強い調査が、開発がらみの黒い陰謀を暴くシリーズ注目作。
夏のはじめから、すべてに意味がなくなるまで、ぼくたちは開いたままの大きな窓の前で絡みあった。自分ではどうすることもできず、ぼくは妄想の世界、あの怪物の住む世界に引きこまれていく…少年と少女のひと夏の恋を、エロティシズムと恐怖を交えて綴った表題作をはじめ、大人の仲間入りを果たすために10歳の妹を誘惑する14歳の兄の姿を描いた出世作「自家調達」など、英国文壇の旗手が、時には残酷に、時には優雅に紡ぎだした八篇を収録。官能、恐怖、風刺、叙情…ブッカー賞作家の独自の世界が堪能できるデビュー作品集。サマセット・モーム賞受賞作。
元英国情報部員クランマーのもとに突然警察が訪れた。旧友でかつての部下のラリーが、元KGB工作員と組んでロシア政府から大金を詐取し、失踪したという。しかも、クランマーの愛人エマも同行しているらしい。そのため、警察をはじめ情報部はクランマーが共犯ではないかと疑っていたのだ。苦境に立たされた彼は、自ら二人を追い、真相を探りだそうとするが…現代世界をさまようスパイの魂をサスペンスフルに描く傑作。
ちょっといいかい?あたしは顔も頭も良くない。だけど悪役女子プロレスラーとしてはうまくやってる。それなのにある夜、警察の手入れを受けたクラブから若い娘を救いだし、家に連れ帰ったときから不審な男たちに追い回されるようになってしまった。あの娘が原因らしいけど、だからって見捨てるなんてできない。あたしがカタをつけてやる!正義感と人情味溢れるヒロイン、エヴァの奮闘を描く英国推理作家協会賞受賞作。
マンハッタンは、その事件に戦慄した。NY随一の規模を誇る総合病院、ミッド-マンハッタン・メディカル・センターで、高名な女性医師が死体で発見されたのだ。全身を刺され、下半身の下着を剥ぎ取られた姿で…病人を癒す安息の場所であるはずの病院での惨劇に、マスコミは騒然となった。状況から見て、レイプ殺人の可能性が高い。マンハッタン検察庁の性犯罪訴追課を率いる女性検事補アレックスが、ただちに現場へ急行した。だが、状況を知った彼女は唖然とする。病院は警備が甘く、その構内には数多くのホームレスが住み着き、外部の人物も侵入可能な、きわめつきの危険地帯だったのだ。思わぬ事態に、容疑者は続出し、捜査は遅々として進まない。苦しい状況に追い込まれたアレックスだが、事件解決への手がかりは、意外なところからもたらされた…自らも性犯罪訴追のエキスパートである著者が、マンハッタンの犯罪と生活を余すところなく描き出した、一級品のサスペンス。
ウェールズ北部の鉄道トンネルのなかで、全裸の少年の他殺体が発見された。被害者は、14歳の美少年アーウェル・トマス。アーウェルは死の直前、発見現場にほど近い児童養護施設「ブロドウェル」から脱走していたことが判明したのだが、彼の身体には、暴行されたあとがあった!「ブロドウェル」では、子供たちが虐待されているのだろうか?施設側は、マイケル・マッケナ主任警部らの捜査を、地元有力者の強力なバックアップを盾に、かたくなに拒否するのだが…『シメオンの花嫁』の作者が、英国社会にひそむ病巣を鋭くえぐる、傑作本格大作。
宇宙船Uケナイ号の船長エリク・ボーンは、優秀なハッカーとして合法、違法を問わず仕事をこなしてきた。だが、そんなエリクにルドラント・ヴィタイ属の大使バスクが頼んできた仕事は、いつもとはまったく異なるものだった。大使が監禁している女性の通訳をつとめろというのだ。しかも、その女性アーラは、エリクが捨てた故郷の星「施界」の出身だった…広大な銀河を舞台に、超能力者や奇妙な異星人の冒険を描く話題作。ローカス賞受賞作。
ルドラント・ヴィタイ属に捕まっていた女性アーラは、とつぜん暴れだし、逃亡をはかった。なりゆきから、アーラの逃亡を助けたエリクは、やがてヴィタイ属の陰謀にいやおうなく巻きこまれていくが…宇宙から忘れさられていた星「施界」の住人であるアーラやエリクに、ヴィタイ属はどうして関心をもつのか?そして、ヴィタイの究極の目的とは?豊富なアイデアとさまざまな謎をちりばめ、壮大に描きあげた冒険SF!ローカス賞受賞作。
フィリピン新人民軍の指導者を五百万ドルで買収し、香港へ亡命させろーテロリズムの専門家ストーリングズのもとに大仕事がまいこんできた。彼は工作を手伝ってもらうため、中国人ウーとそのパートナー、デュラントら、海千山千のプロを極東に集結させる。それぞれの思惑が交錯するなか、五百万ドルをめぐる虚々実々のゲームが開始された!巨匠の代表作。
この仕事に、向いてないのかな?ハリウッドの芸能記者オコナーは記者魂では負けないが、控えめな性格が災いしてなかなかスクープをものにできない。そんな彼がアカデミー賞ノミネート発表でにぎわう晩、とある授賞式会場で映画監督の妻の死体を偶然発見した。遺書らしきもののコピーを入手した彼は、こんどこそスクープだ!と彼女の交友関係を洗うが…注目の新鋭が青年記者の奮闘を描くアメリカ探偵作家クラブ賞候補作。
組織の資金を横領した会計士が、ホテルで射殺された。殺したのは、ガンビーノ・ファミリーのボスにして、五大ファミリーをまとめる“ボスのなかのボス”ヴィンセント・ジェネロ。高級コールガールのニコール・バスは、折悪しく現場を目撃するが、会計士のブリーフケースを奪い、かろうじて脱出に成功した。そのブリーフケースの中には、会計士が横領した巨額の金を預けた口座を記すフロッピーも入っていた。ジェネロは即座に部下に指令を下し、その行方を追わせ始めた。冷酷非情な部下たちは、あらゆる手段を用いてバスに迫っていく。一方、ニューヨーク市警では、市警情報部組織犯罪監視班の辣腕刑事ジャック・カービイが捜査を開始した。自分の不注意から娘を死なせ、それがもとで離婚した過去を持つ彼は、以来ジェネロの逮補だけを生きがいにしてきた。懸命の捜査で事件を目撃した人物がいたことを突き止めた彼は、バスに接触、やがて彼女の護衛にあたることになる。だがその時、業を煮やしたジェネロは、第一級のスナイパーにバスの抹殺を依頼した!壮絶な闘いをサスペンスフルに描く待望のハード・アクション巨篇。
タケル族との交戦を終え、『マルコ・ポーロ』は故郷銀河への帰途についた。戦乱にまきこまれた大陽系の現状が気になり、テラナーらの心ははやる。だが帰還途上、四十万もの謎の宇宙航行物体群が忽然と出現、エネルギー・インパルスらしきものを『マルコ・ポーロ』に浴びせると、乗組員に異変が生じた。精神退行をきたし、艦内装備を片端から破壊しはじめたのだ…ローダンの新しい闘いのエピソードがここに幕を開ける。