出版社 : 早川書房
アスレは冷たい雨の中をさまよっていた。船に乗って故郷を離れ、海岸沿いの街ビョルグヴィンで、妊娠中の妻アリーダとともに宿をさがしていた。街に知り合いはおらず、孤独で貧しい17歳の二人を助けてくれる者はいなかった。彼らを支えるのは、出会ったときの幸福な記憶。故郷で行われた結婚式で、アリーダは給仕として働き、アスレはフィドルを演奏していた。この人となら、どんな困難も乗り越えられると思えた。だが、いま、アリーダは出産間近なのに雨に濡れ、疲れ果てている。もう時間がない。決死の思いでアスレが選んだ行動はー。居場所をさがしもとめる恋人たちの人生を描き、北欧理事会文学賞を受賞。ノーベル文学賞に輝くノルウェー人作家の代表作の一つである連作短篇集。
その刹那、秘奥が炸裂したー隻眼の獣にして女形の如き妖艶さ、魔道を歩んできた者のみがもつ気迫に満ちた男、平山雷蔵。汚れ仕事を引き受け、死屍累々のしゃれこうべを野に放つことから、独狼の名で知られていた。いま人を一人、高祖藩から江戸藩邸へと護って連れてゆく。藩主が病没してさらに跡継ぎの定まらぬなか、忠臣たちが血筋の女子・寧乃を男と偽らせて大名跡継ぎに仕立てようということらしい。政争の愚も一切の私情も、独狼には関係の無いこと。昼も夜もと区別なく、寧乃の命を狙う刺客どもに、独狼は血塗られた愛刀・扶桑正宗をただただ斬り上げる。血煙が一面に舞いあがる、斬撃時代小説。
血のインクで綴られた本に導かれ、再会した姉妹の運命が動き出す。バーモント州の片田舎に屋敷を構えるカロテイ家は、祖父の代から収集した魔術書を守って暮らしてきた。本に記された、命を奪ったり火を放ったりするような数々の魔術は世界の理を揺るがすもので、魔術書を手に入れ、その力を手にしたいと狙う人間が後を絶たなかった。カロテイ家の異母姉妹、エスターとジョアンナは、父エイブとともに、本を守る結界の呪文が張られた家でひっそりと隠れ暮らしていたが、魔術が効かない姉エスターは家を離れ、各地を転々とする生活を送るようになる。いっぽう、父の死後、魔術を使う力を父から受け継いだ妹のジョアンナは家に閉じこもり、魔術書と生きる生活を続けていた。だがエスターに魔術書を狙う者の魔の手が迫り、それをきっかけに姉妹は再会し、魔術書をめぐる陰謀渦巻く世界に足を踏み入れることになるー。“ニューヨーク・タイムズ”紙の「2023年ベストSF&ファンタジー」の一冊に選ばれた、秘密の書物と姉妹をめぐるミステリアス・ファンタジー。
二〇二九年、フランスで「新革命」が起きた。ひとりの男性が性暴力被害を告発。法は頼れず、自ら加害者を殺害した。世間は彼に共感し、取りこぼされた被害者たちは各地で一斉に行動を起こした。これを期に、黙殺されてきた暴力の可視化と予防のため、あらゆる建物をガラス張りに改装し市民が監視し合う都市計画が進んでいった。-それから二十年。あらゆるプライバシーを犠牲に都市計画を受け入れた地区の犯罪は激減。警察官は役割を終え、平和な街を見守る「安全管理人」となった。そんな中、街きっての富裕地区で暮らす一家三人が忽然と消えた。事件を担当する元警察官のエレーヌ・デュベルヌは、捜査をとおして、社会への疑念を抱きはじめる。わたしたちはこんな世界を望んでいたのだろうか。透明性の理念と実情の狭間で悩み、傷つき、すれ違う人々を描いた注目作。フランスの高校生が選ぶルノードー賞受賞。
子どもの頃から星空に魅了されてきた鮎沢望は、高校の天文部で天体観測に夢中になり、大学では電波天文学を専攻した。やがて望は、太陽系規模の電波望遠鏡を実現するための、独自の超長基線電波干渉計ネットワークのアイデアを夢想するようになる。天文部時代からの友人の千塚新、大学の研究者仲間の八代縁という夢を共有する仲間を得た望は、三人で計画の実現を検討し始めた。それは、望、新、縁ら人類が、銀河文明の繁栄に貢献する道へと繋がっていく、小さな第一歩であったーファーストコンタクトSFの世界水準を軽やかに更新する、傑作宇宙探査SF!
1934年、中華民国。女性私立探偵・劉雅弦は、葛令儀という女学生から行方不明の友人・岑樹萱を探し出してほしいという依頼を受ける。樹萱の父親が借金を抱えたまま消えたことを突き止めた雅弦は、調査中に謎の男に襲われてしまう。刺客を仕向けたのは、令儀の伯父で地元の大物である葛天錫だった。天錫はなぜ雅弦を妨害するのか。そして、令儀による依頼の真の目的とは。友情、恋慕、哀憫。錯綜する人間関係の中で、雅弦は耐え難い悲劇を目の当たりにする。ロス・マクドナルドに捧げる、華文ハードボイルドの傑作。
ベルリンに住む弟のもとに滞在することになった台湾の高校教師。疎遠だった弟とぎこちなく交流しながら、彼女は持ってきた亡き母のノートをめくる。美容師だった母は、自宅の二階でひそかに営んでいたもう一つの「仕事」の顧客、「いい人」たちについて書き記していたのだった…。『亡霊の地』の注目作家が放つ新たな傑作。
大陸の北部には人間と、羽毛に覆われた巨大なレコン、火を自在に操るトッケビの三種族が暮らしている。そして南部の密林には、三種族と敵対する、鱗をもつナガが棲まっていた。北部と南部を隔てる限界線にほど近い、砂漠の端にある“最後の酒場”に三種族からそれぞれ一名ずつー人間のケイガン、レコンのティナハン、トッケビのビヒョンーが集まった。彼らはあるナガを北部に連れていく“救出隊”として、砂漠の向こうのキーボレンの密林を旅することに…。そのころ、キーボレンの密林にあるナガの都市ハテングラジュでは、ナガの少年リュンが心臓を摘出される恐怖に震えていた…。大人気『ドラゴンラージャ』著者による、話題の韓国ファンタジイ『涙を呑む鳥』、刊行スタート!
大陸の南部に棲むナガは、成人を迎えると、都市の中心にある“心臓塔”で心臓を摘出する。そうすることでほぼ不死となるのだ。だが、少年リュンはその心臓塔で、滅多にありえないはずのナガの死を目撃する。そして、友人の代わりに故郷を発ち、密林を北上することになる。旅の途中、リュンは人間のケイガン、レコンのティナハン、トッケビのビヒョンの三名からなる“救出隊”と出会い、ともに北部へ向かって限界線を越えるのだが…。一方ハテングラジュでは、リュンが敬愛する姉サモが、暗殺剣シクトルを手に、リュンを追って北へと向かう…。大型ゲーム化決定!韓国で100万部突破のベストセラー・ファンタジイ!
険しい山々に抱かれた花蓮の町の近くで、あたしの級友の真子さんは原住民の青年ハロクに恋をしたのよー日本統治下の東台湾で生まれ育った亡き母が、一人娘の琴子に語った古い恋物語。そのどこまでが真実だったのか?戦前の台湾と戦後の日本を生きる人々の歩む道と思いが交錯する幻惑に満ちた文芸長篇。
百年前の戦争の苦しみと哀しみ、歴史に埋もれた声がよみがえる。セネガル歩兵のアルファは、瀕死の友をまえに決断を迫られていた。第一次世界大戦でフランスに動員された20歳のアルファと同郷の友マデンバ。対ドイツ軍の塹壕戦で、マデンバは死に瀕していた。腹を切り裂かれた苦しみは凄まじく、一思いに殺してほしいというマデンバの懇願に、アルファはー。この日を境にアルファは変わった。ドイツ兵を捕らえ、腹を引き裂き、苦しむ相手を殺してやり、手を切り落としてゆく。仲間からは英雄扱いされるものの、持ち帰る手が増えるたびに、恐れられていった。それでもアルファの復讐は止まらずに…。戦争という極限状況におかれ、人間性と非人間性、服従と自由に引き裂かれてゆく青年の心理を鮮烈に描き出す、新たな戦争文学の傑作。ブッカー国際賞、高校生が選ぶゴンクール賞受賞作。フランスで25万部突破。
都会の喧騒を離れ、アイダホ州の美しい田舎に家と牧場を買ったブレイクモア夫妻。二人が引っ越してしばらくのち、隣人であるダンが忠告にやってくる。この土地には「山の精霊」が住み着いており、季節ごとに住人を悩ませるため、必ず“精霊よけ”のルールに従ってほしいというのだ。最初に現れた春の精霊は不気味な光となって飛び回る程度だったが、季節が進むにつれて精霊たちは実体をもって夫婦に襲いかかるようになる。精霊を封じようとした二人はその怒りにふれてしまい、凄惨な復讐劇を招くこととなるが…
平行世界から、やっとの思いで元の世界へ帰還した転生令嬢カレン。皇帝ライナルトとの新婚生活を満喫していたのも束の間、今度はライナルトに異変が!?カレンは意識のない彼に代わり、皇帝代理として立つことに。皇帝不在の裏には世界の変革の兆しが…書籍特典として書き下ろし短篇×2本収録。
恋する相手のデータをひそかに蓄積する秘書がたどりついた結末をユーモラスに語る「USBメモリの恋人」、人間の負の感情の撤去を生業とする青年の日々を絢爛たる筆致で描く「雲を運ぶ」、先端技術を敬遠する母と反発する娘を描く「2042」。伊格言、湖南蟲、黄麗群など第一線で活躍する台湾人作家による傑作近未来文芸8篇を収録したアンソロジー。
善治は幼い頃に両親を失い、優しい伯母夫婦に引き取られるがどこか遠慮がちに生きてきた。自分が来たせいで、従兄の大我は高校卒業後すぐ犬の訓練所に就職したのでは?やがて善治が大学生になると、“落伍犬”の元警察犬のシェパード、アレックスがやってきた。任務の時に足を痛め、引退したという。引き渡し先が決まるまで大我が伯母に預けたのだがーなぜか自分が世話をするはめに。犬嫌いの善治が仕方なく散歩に行くと、リードを引っ張られ、振り回される。アレックスは足が悪いはずなのになぜ普通に歩ける?そこには哀しい理由が…善治はアレックスと一緒に他の飼い主に出逢い、犬への理解を深めてゆく。離れ離れになったフレンチブルドッグと少年の絆、障害物競技に挑むチワワと少女の苦闘。やがて善治はアレックスのおかげで、自身が抱え込んだ過去を乗り越える。
ここ数年で死後結婚のイメージは大きく変わった。KonKonというマッチングアプリが社会に広まり、若者たちの間で登録者が激増したのだ。そして、私の推しである神宮寺浅葱がKonKonのリア垢を持っていることを、私だけが知ってしまった。このままでは私は、死ねば推しとマッチングして結婚できてしまうかもしれないー。表題作のほか、未来のゲームRTA大会を描く「ゲーマーのGlitch」、地獄行き回避を専門とする企業小説「閻魔帳SEO」など、異常すぎる状況に情緒を狂わされる極上のミステリ人間模様、全6篇!
メルボルンで働く記者のキーは、弟の不審な死を知らされ、久しぶりに帰省する。5歳下の弟デニーは、ベトナム系の一家のなかでも、オーストラリアに適応した優等生だった。そんな弟が殺された。レストランの店内で何者かに殴られて。警察の説明にキーは愕然とする。その日、現場にはデニーの同級生も教師もいたのに、目撃証言がひとつもないというのだ。必死に事件を調べるキーだったが、知るほどに弟の姿は揺らいでいく。デニーは変わってしまったのか?そもそも自分が弟を何も見ていなかったのか?やがてキーは、置き去りにしてきた過去に向き合うー。オーストラリアの移民社会の歪みに切り込む文芸ミステリ作品。ロサンゼルス・タイムズ文学賞ミステリ/スリラー部門最終候補。
言葉がどこへ旅をするかは誰にもわからない。アパルトヘイト以前・以後ー社会変革の渦中で激動する「奇跡の国」南アフリカ。プレトリアで農場を営む白人のスワート一家とその黒人メイドとの間に交わされた土地をめぐる約束が、30年以上にわたり一家の運命を翻弄する。圧倒的になめらかな神の視点で描かれる、アフリカ文学の最先端にして英国最高峰ブッカー賞受賞作。
航空機メーカーに勤めるクリフは、コストカットのために人命を軽視した設計変更を強制される。どうしても命令に従いたくない彼は、上司の殺害を企てるが計画は失敗し、クリフはあっけなく逮捕された。と思いきや彼が連れていかれたのは警察ではなく殺人者養成学校だった。そこでは、殺人技術ー毒草についての知識や武器の扱い方、性的誘惑の方法までーを専門に教えており、クリフも憎き上司を殺すため、学友たちと勉強に励むこととなる。卒業できる条件はたった一つ、上司の殺害に成功することだったが…。
姉妹はいつだって手を握りあっていたーあの事件が起こるまでは。アメリカ、アラバマ州の小さな町グレイス。嵐が近づきつつあるこの町でかつて起こった連続少女誘拐事件は、未だ真犯人が捕まらず、捜査は暗礁に乗り上げていた。そして1995年5月26日の夜、また一人の少女が失踪した。彼女の名前はサマー・ライアン。町の誰からも愛される彼女が、“ごめんなさい”と一言だけ書いた紙を残していなくなってしまったのだ。警察は単なる家出だと判断したが、サマーの双子の妹レインはそうは思わなかった。レインはサマーとは対照的な不良少女だが、誰よりもサマーのことを愛していた。サマーがレインを置いていなくなるはずがない。レインは捜索を始めるが、その中で彼女は、自分の知らない姉の姿を知ることになるー。