出版社 : 早川書房
言葉がどこへ旅をするかは誰にもわからない。アパルトヘイト以前・以後ー社会変革の渦中で激動する「奇跡の国」南アフリカ。プレトリアで農場を営む白人のスワート一家とその黒人メイドとの間に交わされた土地をめぐる約束が、30年以上にわたり一家の運命を翻弄する。圧倒的になめらかな神の視点で描かれる、アフリカ文学の最先端にして英国最高峰ブッカー賞受賞作。
航空機メーカーに勤めるクリフは、コストカットのために人命を軽視した設計変更を強制される。どうしても命令に従いたくない彼は、上司の殺害を企てるが計画は失敗し、クリフはあっけなく逮捕された。と思いきや彼が連れていかれたのは警察ではなく殺人者養成学校だった。そこでは、殺人技術ー毒草についての知識や武器の扱い方、性的誘惑の方法までーを専門に教えており、クリフも憎き上司を殺すため、学友たちと勉強に励むこととなる。卒業できる条件はたった一つ、上司の殺害に成功することだったが…。
姉妹はいつだって手を握りあっていたーあの事件が起こるまでは。アメリカ、アラバマ州の小さな町グレイス。嵐が近づきつつあるこの町でかつて起こった連続少女誘拐事件は、未だ真犯人が捕まらず、捜査は暗礁に乗り上げていた。そして1995年5月26日の夜、また一人の少女が失踪した。彼女の名前はサマー・ライアン。町の誰からも愛される彼女が、“ごめんなさい”と一言だけ書いた紙を残していなくなってしまったのだ。警察は単なる家出だと判断したが、サマーの双子の妹レインはそうは思わなかった。レインはサマーとは対照的な不良少女だが、誰よりもサマーのことを愛していた。サマーがレインを置いていなくなるはずがない。レインは捜索を始めるが、その中で彼女は、自分の知らない姉の姿を知ることになるー。
「若い男」-30歳近く年下の男との恋愛にのめり込む「私」。彼の若さがもたらす快楽を味わい、その激しい嫉妬を悦ぶ。二人の欲望は高まり、やがて…。「もうひとりの娘」-親の愛を独占できる一人っ子だと思い込んでいた幼い頃の「私」。だが、自分が生まれる前に亡くなった姉がいたことを盗み聞きしてしまう。姉の影は「私」の人生につきまとい…。個人的な記憶を掘り起こしながら、社会的な抑圧と不平等を明らかにし、2022年にノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノー。その半世紀にわたる作家活動の精華を示す作品集。
ダニエルは26歳。難病で常に呼吸停止の危険に晒されているものの、朝食後には電動車椅子で玄関ポーチに出て、外の空気を吸うのが好きだった。毎朝、家の前を歩く彼女を心待ちにしていたが、携帯を見ている彼女は気づかない。それでもある朝彼女は顔をあげ微笑んでくれたが、見知らぬ車に乗りこんで行ってしまった。数日後、彼女が行方不明だと知ったダニエルは誘拐を疑いSNSに目撃情報を投稿すると、謎の人物から脅迫メールが届きはじめて…。サスペンスフルなのに読後に胸が熱くなる新感覚ミステリ登場。
遠い未来のスペースコロニーで、亡くなった叔母の弔いを巡る情景を描いた表題作のほか、商業媒体やウェブ媒体で発表した池澤春菜のSF短篇を集成。人間が異文化と接するときの情景や、未知なる動植物の生態をときにコミカルに、ときに抒情的に描き出す傑作集。
西暦2096年、ニューヨーク。実の家族による組織犯罪集団“アサヒナ・ファミリー”の末弟である朝比奈伊右衛郎は、囮捜査にはまり、巨大複合企業ハニュウ・コーポレーションのCEO、羽生氷蜜の手に堕ちる。氷蜜の手により、有機都市東京・千代田区神田の羽生芸夢学園に強制入学させられることになったイエロー。犯罪者からの更生のため、有機電脳と特甲服をリンクさせた電装化体験型遊戯“ジャケット・プレイ”の訓練を受ける彼の前に、ファミリーを率いる父・朝比奈レインボウが立ち塞がる。2020年代のサイバーパンク×壮絶ゲームアクション。
どうしていままで忘れていたのだろう。あんなに先生が大好きだったのに…。看護師の美咲は冷蔵庫を被写体にした写真を目にし、14歳の時に出逢ったピアノの先生を思い出した。チェルニーの練習曲をうまく弾けない美咲は、ピアノに嫌気がさしていた。そんな時に出逢ったのが由貴奈だった。楽譜通りに弾くことを強いる他の先生と違い、由貴奈はあなたらしく弾けばいいと言葉をかけてくれる。そして「悲しい曲を弾く時は、捨てられた冷蔵庫を思い浮かべればいい」と不思議な優しい言葉をかけてくれるが、そこには由貴奈の悲しい過去が隠されていた。ほどなく由貴奈の老齢の父が奇妙なことを呟く。「あの子はピアノが誰より上手だった。人としては許されないことをしたけれど」やがてピアノレッスンは終わりをつげる。悲しみに満ちた状況で…苦しい過去を見据え、新たな道を歩む人々に光をあてる、温かさとせつなさの物語。
1948年、コロラド州アイオラ。ヴィクトリアは17年間、家と農園の外にほとんど出たことがなかった。母を早くに亡くし、桃農家の父と叔父、弟のために家事をこなすだけで日々は過ぎていく。そんな彼女の人生が突然変わる。謎めいた青年ウィルと出会ったのだ。彼は故郷をもたず、各地を放浪しているという。自由な彼といるとき、ヴィクトリアは自分も変わったように感じた。だが、町の人々はよそ者を疎んだ。それでも、ヴィクトリアはウィルを選ぶ。初めて父に嘘をついて、逢瀬を重ねる。だが、背後には悲劇が迫っていたー。大切なものを失いながらも、自分の道を進み、再生を遂げる女性の姿を描く感動作。アメリカ、イギリス、ドイツなどで続々とベストセラーリスト入りした、米国作家のデビュー長篇小説。
私立探偵のマカニスは、とある人物から招待されて、人里離れた会員制狩猟クラブを訪れた。会員たちがクラブの存続問題などで揉めるなか、湖で一つの死体が発見される。さらに、嵐によってクラブは陸の孤島となり…。名探偵、密室、クローズドサークル、連続殺人、古今東西のミステリへの言及ー。すべては本格ミステリの舞台として完璧かと思われた。しかし、夢想だにしない展開の末に読者を待ち受けるものは、困惑か狂喜か。これはミステリなのか、それとも。ポケミス読者よ、信ずるなかれー。
雑誌『ミレニアム』は紙の雑誌としての発行を終え、ポッドキャストに移行することになった。意気消沈したミカエルは、娘ペニラの結婚式に出席するためスウェーデン北部の町ガスカスに向かう。しかし、のどかな田舎町をイメージしていた彼は、列車のなかで奇妙な噂を聞く。ガスカスでは、行方不明になる住民が多いというのだー。到着した町は、風力発電所の建設をめぐり開発側と土地所有者が激しく対立していた。そのころ、リスベットも同じ町にいた。ガスカスに住む姪の母親が失踪し、姪の身元保証人に指定されていた彼女が呼び出されたのだ。リスベットは、初対面の13歳の姪スヴァラの聡明さに感嘆すると同時に、その周囲にスヴァーヴェルシェー・オートバイクラブの影を感じ取って慄然とする。
天然資源に満ちた自然豊かなスウェーデン北部。建設予定の風力発電所の利権を我がものにしようと画策するマルキュス・ブランコは、ガスカス町長ヘンリィ・サロの秘密をつかんで脅迫する。ミカエルもまた、義理の息子となるサロにどこか後ろ暗い面があると感じていた。彼はさりげなく調査を始める。リスベットは、13歳の姪スヴァラと徐々に距離を縮めていく。しかし、スヴァラは何者かに狙われているようだった。失踪した母親が組織犯罪に関係していたことが理由なのだろうか?リスベットは母親を探し出すと決意するが…。そして、ペニラとサロの結婚式の日、町で蠢いていた陰謀が凄惨な暴力となって噴出するー。人気シリーズ再始動!ページを繰る手が止まらないスリルに満ちた展開。あの二人が帰ってきた!
宿敵の白蓮教徒・梁興甫によって分断されてしまった皇太子・朱瞻基一行。攫われた呉定縁を救出すべく朱瞻基は一計を案じるが、予想だにしない過酷な危機が彼を襲う。一方、呉定縁の前についに姿を現した白蓮教徒の指導者は、衝撃的な真相を語り始める。明王朝の存亡が決まるまでに猶予は残り七日。朱瞻基の大義、于謙の策謀、呉定縁の運命、蘇荊渓の秘密…。彼らはそれぞれの天命を背負い、最終目的地である北京・紫禁城へと向かっていくー。かつてない興奮と衝撃が訪れる、華文冒険小説の傑作、万感の完結。
1942年、ドイツ占領下フランス。小さな田舎町モンタルジにも、ユダヤ人一斉検挙の波が押し寄せていた。同じ町に住むコルマン三姉妹とカミンスキ三姉妹が本当の姉妹のように仲を深めたのは、両親を検挙された後だった。その友情は、何年も続いていく“時の宮殿”のように思われた。この先に強制収容所が待っているとは、彼女たちには想像できなかったからー。写真、おままごと道具、生き残った者たちの証言。残された物や記憶から、現代を生きる著者が、姉妹たちの人生の物語を描き出す。第2回日本の学生が選ぶゴンクール賞を受賞し、普遍性に富む歴史小説として高い評価を得た傑作長篇。
一九八〇年。ルイジアナ州の沖に小型飛行機が沈んだ。サルベージダイバーのボビー・ウェスタンは、海中の機内で九名の死者を確認する。だがブラックボックスがなくなっており、彼は十人目の乗客がいたのではないかと推測する。この奇妙な一件の後、彼の周囲を怪しい男たちがうろつきはじめる。徐々に居場所を失った彼は、追われるように各地を転々とする。テネシー州の故郷の家、メキシコ湾の海辺の小屋、雪に閉ざされた古い農家ー原爆の開発チームにいた父の影を振り払えないまま、そして亡き妹への思いを胸底に秘め、苦悶しながら。喪失と絶望を描き切ったアメリカ文学の巨匠、最後の二部作。妹の物語を綴る長篇『ステラ・マリス』と対をなす傑作。
一九七二年秋。二十歳のアリシア・ウェスタンは、自ら望んで精神科病棟へ入院する。医師に問われ、彼女は語る。異常な聡明さのため白眼視された子供時代。数学との出会い。物理と哲学。狂人の境界線。常に惹かれる死というものについて。そして家族ー原爆の開発チームにいた物理学者の父、早世した母、慈しんでくれた祖母について。唯一話したくないのは、今この場所に彼女が行き着いた理由である、兄ボビーのこと。静かな対話から孤高の魂の痛みと渇望が浮かび上がる、巨匠の遺作となる二部作完結篇。『通り過ぎゆく者』の裏面を描いた異色の対話篇。