出版社 : 早川書房
少女の死体は、夕暮れの湖畔に流れついた。パラダイス署の者たちは死体を見るのをいやがった。水に長く漬かっていた死体は不愉快なものだ。やむなく死体を検分したジェッシイ・ストーン署長は、少女の耳の後ろの弾痕に気づく。何者かが少女を射殺し、死体を湖に投げ込んだのだ。少女の身元はなかなか判明しなかった。湖畔で発見された指輪を手がかりに、ようやくジェッシイたちは少女がこの夏、ハイ・スクールを中退したビリイであることを突き止めた。だが、ビリイの家をたずねたジェッシイに母親は告げる。「うちにはビリイという娘はいません」家族に見放され、家出同然に大都会ボストンへ出た少女に、いったい何があったのか?警察署長ジェッシイ・ストーンの推理と調査が、大都会の暗部に迫る。巨匠パーカーが贈る、男気満載のシリーズ最新作。
書店のアルバイトとして働くキャル・カニングハムは作家志望の青年。いつの日か傑作をものすることを夢見ているが、小説の素材集めと称して女遊びに興じるばかりでいっこうに筆は進まない。ある日、ルームメートの法学生スチュワートがひそかに小説を書いていることを知ったキャルは、留守中にその原稿を盗み見てしまう。それはキャル自身をモデルにした小説で、まごうことなき傑作だった!ところがその矢先、スチュワートが交通事故で亡くなり、キャルはその原稿を自分の作品と偽って発表する。一躍ベストセラー作家となったキャルだったが、盗作の事実を知る脅迫者が現われた時から、彼の人生は音を立てて崩れていく…。スティーヴン・キングをして「ヒッチコックの最高傑作に比肩するスリラー」と言わしめた、異能の大型新人のデビュー・ノヴェル。
私の人生は17歳から始まった。ある早朝、意識をなくし、傷つき、顔を潰され、全裸で放り出されているのを発見されたのだ。ようやく昏睡状態からさめたとき、私は何も覚えていなかった。自分の名前も、顔も、自分が何をしてきたのかも…15年後。その雑誌を見た時、確信が私を襲った。この男は、私の過去を知っている。写真に写っていたのは、ワイナリーの経営者ジェームズ・マクゲイン。過去を知るため、私は彼のワイナリーに料理人として勤めることにする。やがて、私の正体に気づいたジェームズは、自分の過去を知りたがる私に条件を出す。15年前の真相を知りたければ…それは、性の奴隷として絶対的な服従を強いることだった。拘束、凌辱、調教。ジェームズの要求に限界はなかった。過去を知りたい一心で背徳の世界に踏みこんだ私は、いつしかその虜になっていく。だがその先で私を待っていたのは、あまりにも衝撃的な事件だった!『Mの日記』の官能と衝撃を上回り、モラルの限界を超える、超エロティック・サスペンス。
文化大改革の嵐が吹き荒れる1971年、医者を親に持つ僕と羅は、反革命分子の子として再教育のため山奥深くに送りこまれた。僕は17歳、羅は18歳だった。厳しい労働に明け暮れるなか、僕らは村に唯一ある仕立屋の美しい娘、小裁縫に恋をした。あるとき僕らは、いまや禁書となっている西欧の小説を友人が隠し持っていることを知る。壮大な愛や冒険の物語に僕らはすっかり夢中になり、これに刺激を受けた羅は、小裁縫にバルザックの小説を語り聞かせる。二人は次第に親密になっていくが、本によって自分たちの運命が大きく変わってしまうとは知らなかった…。在仏中国人作家が自らの青年時代の体験をもとに綴り、世界30カ国で翻訳された話題作。
独自の言語を設計する言語デザイナーの主人公は、奇妙な偶然から、これまでのものとはまったく構造の異なる言語に遭遇する。言語理解と人間の認識能力、そしてその未来を描いて第17回ハヤカワ・SFコンテストに入選した表題作をはじめとして、緻密な世界観に裏づけられた、名品8篇を収録。大反響をまきおこした、スペースオペラ「星界シリーズ」で、日本SFの新時代を切りひらく、森岡浩之のエッセンスを、ここに凝集。
小説家ジェラルド・キャンドレスは7月6日に71歳で永眠した。1926年5月10日生まれ-父の回想録の執筆をもちかけられたキャンドレスの娘サラは、自分が父の過去をほとんど知らないことに気づいた。さっそく調査に着手した彼女は出生証明書を頼りに父の親類らしき老女を突き止めるが…「ジェラルドはあたしの弟よ。五歳のとき髄膜炎で死んだわ」古びた死亡証明書を前に、愕然とするサラ。父は、ジェラルド・キャンドレスではなかったのだ。では、いったいどこの誰だったのか。不安を押し殺して調査を進める彼女が突き止める衝撃の事実とは。
母親が死んだ今、ビルの収入はまったくゼロになってしまった。母の死を届け出ず、死体を寝室に隠すところまでは知恵がまわったが、送られてくる年金の小切手を換金することが出来ないのでは、まったく同じことだ。もはや母親が溜め込んでいた食糧も底をつき、どうにもならない瀬戸際まで追い込まれていた。そこでビルが思いついたのは強盗だった。遊び仲間二人をさそって、手近な屋台を襲い、売り上げ金をいただくのだ。だが、やはりと言うべきか、襲撃は失敗に終わった。うろたえた仲間が店員を射殺してしまい、警察に追われて逃走中に起こした事故で仲間の一人は死に、金は沼に沈んだ。逃げ込んだ沼地ではもう一人が蛇に噛まれて死に、追ってきた警官も銃の暴発で命を落とし、ビル自身も虫の大群に襲われる。半死半生で沼地を抜け出したビルは、旅回りのカーニバルに拾われた。だがそこで暮らしていたのは、いままで考えたこともないような連中だった。やむなくそこへ身を隠し、彼らと生活を共にしながら逃亡を決意するビルだが、やがて…『ボトムズ』でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を獲得したランズデールのパワーが全開された会心作。
小学校の問題児ティモシーは、いつも突飛なものになりきってしまう。特に彼が狼男になっている時は警戒が必要だ。先生のたび重なる注意も聞かず、彼は女の子に噛みつき、学校は大パニックに…思いこみの激しい少年が引き起こす珍騒動を描く表題作。少年時代の記憶に捕われ、自分は幼児性愛者なのではないかと恐れる教育書の作家が、愛娘の教育に右往左往する姿が滑稽な「グリーンの本」。失業、破産、離婚と重なり自棄になったエディは、別れた妻の祖母から宝石箱を騙し取ろうと企み、家に行った。ところが老婆のとまらない思い出話を聞かされたあげく、一泊するはめに…思うように事が運ばずあせる男に意外な結末が待ちうける「ミセス・ボックス」。家族の人間関係のほころびを繕おうと奮闘する人人の姿が、皮肉な笑いを誘う。現代アメリカを代表する作家の粒ぞろいの9篇。
真夜中。時計の針が十二時を過ぎた瞬間、病弱な青年アンバリーは無事に二十一歳となり、莫大な遺産を正式に相続した。その翌朝、滞在していた避暑地のホテル近くの断崖の下で、アンバリーの死体が発見される。ホテルを出て歩き回るうちに、持病の発作を起こして転落したらしい。だが病弱な青年が、なぜ真夜中に外へ?さらには、彼が書いていたはずの遺言状も消え失せていた。単なる事故か、それとも…ホテルに滞在中だった名探偵ヘンリー・ガーマジの頭脳が回転しはじめた!アメリカ・ミステリ界で絶大なる人気を誇った女史のデビュー作。
小さなバラ色の雲が空から降りて来て、シナモン・シュガーの香りで二人を包みこむ…ボーイ・ミーツ・ガールのときめき。夢多き青年コランと、美しくも繊細な少女クロエに与えられた幸福。だがそれも束の間だった。結婚したばかりのクロエは、肺の中で睡蓮が生長する奇病に取り憑かれていたのだーパリの片隅ではかない青春の日々を送る若者たちの姿を優しさと諧謔に満ちた笑いで描く、「現代でもっとも悲痛な恋愛小説」。
法律問題の側近として絶大な権力を持つ大統領法律顧問。そのオフィスに所属するマイケル・ギャリックは有能な青年で、将来を嘱望されている。そんな彼が大統領の娘ノラからデイトに誘われた。ノラの奔放な振る舞いに驚きながらも、その魅力に引き込まれていくマイケルだったが、思わぬ事件に遭遇する。彼の上司、大統領法律顧問のサイモンの姿を偶然見かけ、あとを追った彼とノラはサイモンが何者かに大金を渡している証拠をつかんだのだ。だが、その時からマイケルの運命が狂い始めた。法律顧問オフィスの一人が殺され、マイケルが容疑者としてFBIから追及されることになったのだ。FBIはノラも共犯者と見なしていた。大統領選挙の年にそれが公になることは絶対に避けなければならない。強さと弱さを合わせ持つ複雑な性格のノラを守りつつ、マイケルは自分の無実を証明するために、陰謀の真相を突き止めようと調査を始める。だが、次々と思いもよらぬ事件が起き、彼は蜘蛛の巣にからめとられるように絶体絶命の危機に陥っていく…。ホワイトハウスを舞台に、巧妙な罠を仕掛ける敵とマイケルが繰り広げる白熱の頭脳戦。圧倒的な面白さで全米を熱狂させたサスペンス大作。
バイオ企業を率いる父によって、成長型の人工臓器を埋めこまれた幼い葉那子には、臓器スペアとして四体のクローンが用意されていた。やがて無事に成長した彼女は、亡き父の想いをもとめ“姉妹”との面会を果たすが…クローン姉妹の複雑な心模様を描いた表題作、山奥の孤児院で生活する少年の哀しい成長物語「子供の領分」、『永遠の森博物館惑星』の後日譚「お代は見てのお帰り」など、先端科学がうみだす、さまざまな心の揺れを描いた珠玉の九篇ー“やさしさ”と“せつなさ”の名手による洗練と成熟のSF作品集。
彼女は力をこめて、男の股間に膝を突き上げた。男の顔が血の気を失う。次に、右腕を女めがけて勢いよく振る。エリーの手は女のこめかみをとらえた-パスコー主任警部の妻エリーを正体不明の男女が襲撃した。とっさに逃れたエリーだが、さらにはパスコー家を見張っていた何者かが友人のダフネを殴打する事件が起きる。ダルジールたちは、パスコーが過去に担当した事件、現在捜査進行中の横領事件との関連を追及するが、女性刑事のノヴェロは、ひとり意外な事実に目を留めていた…その完成度の高さに、ますます評価が高まる、シリーズ最新刊。
日常に普及したナノテクノロジーが、文明社会を根底から変容させた21世紀中葉。世界は、多種多様な人種・宗教・主義・嗜好の集まりからなる国家都市に細分化されていた。文化の坩堝・上海でヴィクトリア時代復興を願うフィンクル=マグロウ卿は、孫娘の教育のため、若き淑女のための絵入り初等読本の開発をナノテクノロジストのハックワースに依頼した。ナノテクの粋を集めたプライマーは、読み手を主人公とし、その境遇を“物語”に取りこみながら教育していく、究極のインタラクティヴ・ソフトだった。しかし、ハックワースが自分の娘のために不正コピーした〈プライマー〉は、ある事件をきっかけに、貧困と虐待の境遇にある少女ネルの手にわたってしまう。プライマーをめぐる複雑な思惑が渦巻くなか、そのささやかな物語によって育てられたネルは、己れの人生という大いなる物語を切り拓き、その物語の力は、やがて激動の世界そのものを変えてゆく。『ニューロマンサー』の“近未来”に『ハイペリオン』の“叙事詩”をリミックスし、デジタル仕様の世界観を華麗かつ過激に超越する、SF新紀元のパラダイムシフト。ヒューゴー賞・ローカス賞受賞。
ちんぴらに袋叩きにされて、“俺”は入院した。そこで偶然、若いころ一緒に暮らした昔の恋人と再会し、彼女の頼みで一通の手紙を届けるために雪の田舎町を訪れる。そんな“俺”の身辺に不審な男たちの影が。理由は何か?抵抗も虚しく、“俺”は町を追い出されてしまうが、ふたたび舞い戻った。やがて吹雪の雪原に繰り広げられる死闘…ススキノ便利屋シリーズ、最新作。日本推理作家協会賞受賞後第1作。
死人の軍勢を追撃するイシュトヴァーンのゴーラ軍は、竜頭の怪物兵に遭遇し、思わぬ闘いになる。いっぽうグインが率いる軍勢は、ゴーラ軍の近くをかすめるように進軍し、妖気漂う街、シュクへ到着。グインはレムスと会見し、ヤンダル・ゾッグはナリスの命を盾にグインを恫喝しようとする。しかしグインは逆に、ヤンダルの魔宮、クリスタル・パレスへ入ることを希望する。彼の帰還を阻むであろう魔性の存在を知りながら。