出版社 : 早川書房
ネットワークのどこかに存在する、仮想リゾート“数値海岸”の一区画“夏の区界”。南欧の港町を模したそこでは、人間の訪問が途絶えてから1000年ものあいだ、取り残されたAIたちが、同じ夏の一日をくりかえしていた。だが、「永遠に続く夏休み」は突如として終焉のときを迎える。謎のプログラム“蜘蛛”の大群が、街のすべてを無化しはじめたのである。こうして、わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦がはじまる-仮想と現実の闘争を描く『廃園の天使』3部作、衝撃の開幕篇。
1945年4月30日、アドルフ・ヒトラーは総統官邸の地下室で自殺した。空からはアメリカ軍、地上からはソ連軍の猛攻を受けて第三帝国の都ベルリンは崩壊、長く続いたヨーロッパの戦争は終わりを告げた。数々の戦争報道で勇名を馳せたアメリカのジャーナリスト、ジェイク・ガイスマーは、特派員としてベルリンに帰ってきた。戦前にはCBSの駐在員としてベルリンで生活していたジェイクだったが、戦火に破壊され尽くした街は、まるで別世界のように見えた。建物は瓦礫と化し、回収されていない死体が腐臭を放ち、人々は生気を失っている。百戦錬磨のジャーナリストたちも言葉を失うような光景だった。ジェイクの目的は取材だけではなかった。この街のどこかに、彼女がいるはずだ。かつて愛したレーナが…高名な数学者エーミール・ブラントの妻だったレーナとジェイクは、戦前のベルリンで不倫関係を続けていた。だが、戦火が迫るころ、ジェイクは夫を捨てられないレーナを残し、ベルリンを去っていたのだ。戦争が終わった今なら、彼女を取り戻せるかもしれない。だが、ジェイクが発見したのはレーナではなかった。歴史的なポツダム会談の取材に赴いた彼は、そこで謎めいた米軍兵士の死体と遭遇する。事件の背景に興味を抱いたジェイクだが、行く手には占領下のベルリンの不気味な闇が広がっていた…。
ついにジェイクはレーナと再会した。だが、戦争の爪痕はレーナを傷つけていた。戦火で子供を失い、ソ連兵にレイプされ、中絶手術まで経験したのだ。夫エーミールも行方不明だった。そんな彼女も、かつてと変わらぬ愛情を注ぐジェイクの援助で、立ち直りはじめる。一方、米軍兵士の死体の謎は、深まるばかりだった。死体は、なぜか大量の紙幣を身につけ、本来なら立ち入ることの出来ないソ連軍占領地区で発見された。しかも、事件を追及すべきアメリカ占領軍上層部は沈黙している。事件の裏には、何かがある。記者魂を燃やすジェイクは、元ベルリン警察の刑事と共に闇市場の探索を始める。やがて彼が真相に肉迫したとき、事件はその様相を一変し、巨大な歴史の歯車が回りはじめる…アメリカ探偵作家クラブ賞に輝いた著者が、綿密な取材と圧倒的な筆力で描く大型歴史ドラマ。映画化も決定した、話題作登場。
クリスマス間近のアイソラでショッキングな事件が発生。動物園でライオンに食いちぎられた女性の死体が発見されたのだ。87分署のキャレラと88分署のファット・オリーは被害者が空軍の元パイロットで麻薬の運び屋をして大金を稼いでいたことをつかむ。どうやら背後には国際的な紙幣偽造団が暗躍しているらしい。さらに、けちな空き巣、シークレット・サービス、テロリストまで絡んできて、事件は複雑怪奇な様相を…。金と欲に目がくらんだ悪党どもが繰り広げる狂想曲。国際謀略ものの面白さを加味してスケールアップした87分署シリーズ第51作。
16世紀イタリア。農夫ウーゴは貧困と飢えに喘いでいた。ある日、絶望のあまり畑で神に祈っていたウーゴは、狩猟中の残虐な領主フェデリーコに出くわす。ウーゴは狩りに失敗した領主に八つ当たりされ、何とか命拾いはしたものの、彼の毒味役を務めさせられることに。愛娘ミランダとともに豪奢な宮殿に連れていかれたウーゴは、今までとは違う生活を期待した。しかし、フェデリーコは大勢の人間から憎まれていて、その食べ物にはいつ毒が盛られるかわからない。皮肉なことに、見たこともないご馳走を前にしてウーゴは生命の危機に直面するはめに陥った。領主を毒殺する動機を持っているのは誰か?料理に毒を入れるとしたらどこでなのか?ウーゴは毒薬や解毒剤の知識や宮廷内の人間関係などの様々な情報を駆使し、恐怖心と闘いながら料理に潜む毒と対決するが…。著者エルブリングが架空の古文書「毒味役ウーゴ・ディフォンテの手記」を翻訳したという特異な設定の歴史小説。料理の蘊蓄や奇抜な風俗をちりばめ、毒味役の波瀾万丈の半生を綴る痛快作。
地球連邦軍の月面基地に所属する“雷獣”迎撃小隊、通称「脳天気小隊」が遭遇したのは、「?」や「!」や「恥ずかしいもの」に見える不審な物体だった。調査の結果それは、敵対する水星軍の平行宇宙移動探索機マーキュリーと、その意識を言語化する思考装置・迷惑一番であることが判明。だがそのあまりにも御都合主義的なプロジェクトにより、脳天気小隊の5名は平行宇宙へと飛ばされてしまう…。初期傑作、待望の復刊。
謎の隠遁作家の正体を追ううちに、運命の渦にのみこまれていく青年二人の物語。経歴を明かさず、メディアにも姿を見せない正体不明の作家ホラス・ジェイコブ・リトルは何者なのか?マンハッタンの新聞社で働く新人記者ジェイクは特ダネを狙っていた。学生時代に愛読した作家の素性をつかもうとしていたジェイクは、ある日昔の恋人ラーラから同級生だったアンディの噂を聞く。アンディはリトルの短篇を読んで以来、作家の正体をつきとめることに取り憑かれ、“作家の秘密を暴露した”手記を携え出版社に乗りこんで刃物を振り回すなどの奇行を繰り返し、今は“ミューズ・アサイラム”にいるという。ジェイクは、精神を病んだ芸術家たちのためのその施設にアンディを訪ねた。秘密を知ってしまったため、自分は作家から命を狙われているというアンディの主張は信じがたかった。だが、リトルの小説を仔細に調べていくうちに、恐るべき真実が明らかになっていく…追う者がいつの間にか追われる者になる恐怖を描く、大型新人の衝撃作。
西暦2100年、1機のX線観測衛星が発見したブラックホール・カーリー-それがすべての始まりだった。カーリーの軌道を改変、その周囲に巨大な人工降着円盤を建設することで、太陽系全域を網羅するエネルギー転送システムを確立する-この1世紀におよぶ巨大プロジェクトのためAADDが創設されたが、その社会構造と価値観の相違は地球との間に深刻な対立を生み、人類は激動の時代を迎えようとしていた…。火星、エウロパ、チタニア-変貌する太陽系社会を背景に、星ぼしと人間たちのドラマを活写する連作短篇集。
一見単純な事件だった。裕福な銀行家が自宅のベッドで射殺され、階下の居間で一人でTVを観ていたと主張する28歳年下の妻メアリが逮捕された。夫婦はその前の晩に衆人環視の中、大喧嘩をしている。周囲の人々は、もともと年齢も家柄も不釣り合いな夫婦だったと証言する。さらには、メアリに夫殺しをもちかけられたが断わったと告白する男までが現われた。誰がどう見ても、容疑者メアリの有罪は間違いなさそうだ。だが、メアリの弁護士の依頼で調査に乗り出したスペンサーは、素朴な疑問を抱く。いくらなんでも、もうすこしましなアリバイくらい用意しそうなものだが…調査にかかったスペンサーには尾行がつき、夫の一族が経営する銀行では不穏な噂があった。事件の背後には、想像以上に複雑な背景があるようだ。やがてスペンサーが真相に迫ったとき、殺し屋の銃口が火を吹いた!無邪気に見える若き未亡人は、有罪か、無罪か?事件の背後に潜むのは、何者なのか?久々にホームグラウンドに戻ったスペンサーが、勝手知ったるボストンの街を疾駆する。
1914年、ヨーロッパの緊張は中近東の地へも飛び火していた。斜陽のオスマントルコ帝国と手を結んだドイツは、自国と中近東を結ぶ大動脈、バグダッド鉄道の建設に邁進していた。だがそれは、英国がようやく手にした中近東の橋頭堡、クウェートへの脅威となる。いまや中近東の覇権は、新時代の軍事・産業・経済の必需品-石油の独占を意味していた。バグダッド鉄道建設にあたっていたドイツ人の鉄道技師が、現地の山賊に誘拐された。工事はストップし、事件解決のために政府と鉄道会社は身代金を支払うことにする。これは、密かに建設の妨害を目論む英国にとっては絶好のチャンスだった。だが表立った活動は、全ヨーロッパを巻き込んだ戦争の勃発に繋がりかねない。外務省の要請を受けた情報局は、ランクリン大尉に密命を発した。身分を偽って潜入し、身代金の支払い、そして事件の解決を阻止すべし-相棒のオギルロイを伴い、偽外交官となったランクリンは、交渉の仲介役をつとめる謎の子爵夫人とともにオリエント急行の旅に出る。だが風雲急を告げる中近東の砂漠には、予想以上の罠が待ち構えていたのだ…。激動の時代に、誇りをもって生きる人々の熱き闘い。巨匠ギャビン・ライアルが、『スパイの誇り』『誇りへの決別』に続き、草創期の情報戦を鮮やかに描き出す、冒険スパイ小説シリーズ最新刊。
「おれを殺したりはしないよな?」「だめか?」「やめてくれ。永久にムショ暮らしだぞ!」「おれはまだそれほど歳じゃない。何年か無駄にしたっていいさ」殺人罪で11年の刑務所暮らしを終えた元私立探偵のクルツは、すぐにファリーノ・ファミリーのドンの邸宅を訪れる。高齢のドンが負傷して以来、弱体化してしまったファミリーのトラブルを解決してやろうというのだ。1カ月前、ファミリーの内情を熟知している会計士が失踪した。時を同じくして、ファミリーの生命線である密輸事業に妨害が頻発する。荷物を運ぶトラックが次々とハイジャックされるのだ。対立組織の差し金か、FBIの介入か、あるいはファミリー内部の裏切りか。背に腹はかえられないのか、ドンはクルツのオファーを受け入れる。だが、調査に着手したクルツの背後に、早くも殺し屋の影が…。正義か?悪か?鋼鉄のハートと腕っぷしで街の暗部を叩き切る、非情の男ジョー・クルツ。SF&ホラーの鬼才が挑む、ハード・アクションの会心作。
ボストンの情報提供会社で出世街道を歩んでいた40歳のビル・チャーマーズは、ある夏の朝、通勤途中の地下鉄で、突然下車すべき駅名も自分の会社名も、自分の名前すら分からなくなる記憶喪失に襲われる。覚えているのは「最小の時間で最大の情報を」という会社のモットーだけだった。深夜、浮浪者のように町をさまよったあげくビルは記憶を取り戻し、インターネットのチャットで“大学教授”と不倫する妻といつもEメールで語りかけてくる14歳の息子の待つわが家へ帰り着く。が、ビルの悪夢は始まったばかりだった。この日をさかいに、ビルの両手の感覚がなくなりはじめ、原因不明の麻痺はさらに足から全身へと進行していった。病院はビルに無数の検査を施し、つぎつぎと新しい医者を紹介するものの、決して診断を下そうとしない。そしてついにビルは会社をクビになる。サラリーマンを襲った悪夢と悲劇をカフカ的世界を通して描いた全米図書賞候補作。
「あの年の夏祭りの夜、浜から来た少年カムロミと恋に落ちたわたしは、1年後の再会という儚い約束を交わしました。なぜなら浜の1年は、こちらの100年にあたるのですから」-場所によって時間の進行が異なる世界での哀しくも奇妙な恋を描いた表題作、円筒形世界における少年の成長物語「時計の中のレンズ」など、冷徹な論理と奔放な想像力が生みだす驚愕の異世界七景。日本ホラー小説大賞受賞作家による初のSF短篇集。
「やめないと、おまえは死ぬ」アメリカのみならず、世界中の女性を魅了し続けるベストセラー作家シャンデリア・ウェルズのもとに届いた脅迫状。断わりきれぬ事情から、タナーはやむなくシャンデリアの身辺警護と事件の調査を引き受ける。次々に噴き出す疑惑の数々-別れた夫、トップの座を奪われた元女王、ふられた大富豪、盗作を叫ぶ作家の卵…だが、犯人の特定はもとより、何をやめろと言うのかすら判然としない。五里霧中のまま、ついに悲劇はタナーの目前で起きてしまった。慙愧の念を胸に、誇りと面子を賭けた、探偵の挑戦が始まる。
1960年代、ウェールズ。港町カーディフのイタリア系移民地区に住むガウチ家は、食べる物にもことかく貧しさに喘いでいた。父フランキーは賭博に溺れ、自分勝手で家庭を顧みない。妻メアリと6人の娘たちはその理不尽な暴力に抵抗するすべを知らなかった。幼い末娘のドロレスは誰にも世話をしてもらえず、生後まもなく家族の不注意による火事で左手指を失っていた。姉たちの心がすさみゆく中、懸命に生きるドロレスがただ一人打ち解けられたのは四女フランだけだった。しかし、炎に異常な執着を持つフランは、廃屋に火を放ち矯正施設に送られてしまう。そんな崩壊寸前の家族にとって、長女チェレスタと裕福な商人との結婚話は、経済的にも幸福の兆しとなるはずだった。しかし結婚式の夜、ついに事件は起こった…ドロレスの無垢な目を通して、絶望の底にいる人間の弱さと哀しさを静かに、鮮烈に映しだす衝撃のデビュー作。
父の迎えを待ちながらピンボール・マシンで遊んだデパート屋上の夕暮れ、火星に雨を降らせようとした田宮さんに恋していたころ、そして、どことも知れぬ異星で電気熊に乗りこんで戦った日々…そんな〈おれ〉の想い出には何かが足りなくて、何かが多すぎる。いったい〈おれ〉はどこから来て、そもそも今どこにいるのだろう?-日本SF大賞受賞の著者が描く、どこかなつかしくて、せつなく、そしてむなしい物語たちの曖昧な記憶。
西暦2006年、突如として水星の地表から噴き上げられた鉱物資源は、やがて、太陽をとりまく直径8000万キロのリングを形成しはじめた。日照量の激減により破滅の危機に瀕する人類。いったい何者が、何の目的でリングを創造したのか?-異星文明への憧れと人類救済という使命の狭間で葛藤する科学者・白石亜紀は、宇宙艦ファランクスによる破壊ミッションへと旅立つが…。星雲賞・SFマガジン読者賞受賞の傑作短篇、待望の長篇化。
20年前の破滅的な隕石落下により、大阪は異形の街と化した。落下地点から半径6キロは危険指定地域とされ、人々の立ち入りは厳重に禁止されていた。五感で世界と融合する奇怪なドラッグ「ネイキッド・スキン」や、全身の皮膚がゼリー化する謎の奇病「麗腐病」をめぐって、危険指定地域を中心に、不気味な人々が入り乱れ、人類社会崩壊の予兆の中、変容してゆく人の意識と世界が醜悪かつ美麗に描かれる。ホラーの鬼才が満を持して世に問う、空前のテクノゴシックSF巨篇。