出版社 : 早川書房
ぼくにとってミステリは愛であり信仰の対象だった。シルヴィアにとっての詩人エミリー・ディキンスンのように…18歳のぼくが43歳の人妻シルヴィアと出会ったのは、砂漠の真ん中だった。ぼくは新興宗教の教祖である母親から逃げだし、シルヴィアはディキンスンの生家を見るため、夫と息子を家に残してドライブの途中だった。気意投合したぼくたちは、ニュー・メキシコ、テキサス、シカゴへと旅をつづけ、ぼくはシルヴィアのエキセントリックな魅力のとりこになっていく。しかし、ある日突然、彼女はぼくを置いて夫のもとへ帰ってしまった。ディキンスンの詩集と別れのキスだけを残して。いったいなぜ、彼女はディキンスンへの情熱を失ったのか?ぼくは謎めいたシルヴィアの真の姿を追い求め、独りで旅をつづけるが…1970年代のアメリカを舞台に、作家志望のミステリ・ファンの少年と詩を愛する人妻が織りなす、不思議でほのかにエロティックな関係。ミステリ、恋愛小説、ロード・ノヴェルなどさまざまな要素が自由奔放にとけあう、新しいかたちの青春小説。
ここは何か変だわー知人に招かれ,黒人専用の高級リゾートを訪れた家政婦のブランチは、到着早早、不穏な空気を感じとった。はたしてその直前、皆に嫌われていた女性が不審な事故死を遂げていた事実が判明する。数日後、今度は滞在客の男性が謎の自殺を…タフな黒人家政婦ブランチが、鋭い観察眼で特権階級の黒人たちの実像を暴きだす。アンソニー賞、アガサ賞、マカヴィティ賞を受賞した『怯える屋敷』に続く第二弾。
落馬事故によって片腕となった元チャンピオン・ジョッキイ、シッド・ハレー。現在は競馬界専門の調査員となっていたが、放牧中の馬の脚を切断するという残忍な犯罪が連続して発生、かわいがっていたポニイを襲われた白血病の少女から、犯人を捜してほしいと依類される。だが、容疑者とした浮かび上がったのは、ハレー自身が犯人とは信じたくない人物だった。エリス・クイント-騎手時代のよきライヴァルで、私生活でもハレーの親友だった男。引退後は、テレビ・タレントとして国民的な人気を博し、誰からも愛される好男子だった。もちろんクイントは犯行を否定し、世間も彼が犯人とは信じなかった。かえって、恵まれているクイントを妬むあまり間違った告発をしたと、ハレーはマスコミからごうごうたる非難を浴びる。ところが、この執拗なマスコミの攻撃には、じつは裏があることが次第にあきらかになってくる…。『大穴』『利腕』につづき、不屈のヒーロー、シッド・ハレーが三度目の登場を飾る、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。
そのテラナーはいっさいの記憶を失ったまま、衛星タイタンの秘密ステーションに幽閉されていた。テラナーのほかにそこにいる生物は、メルコシュと名乗るオプロン人のミュータントだけ。しかもメルコシュは、隙あらばテラナーを殺そうと狙っていたのだ!たがいに牽制しあいながらも、ふたりは共通の目的である自由を求めてステーションを脱出した。だが、地表に出たテラナーたちの前に、謎の巨大宇宙船が出現した…。
降旗少尉以下、3名の首都圏情報防衛軍団兵士が遂行する作戦名は“マタタビ”作戦。首相の行方不明になった愛猫を捜し出せ、というものだ。ただしその猫は、脳にひじょうに貴重な情報が入力された、人類の存亡を決する猫なのだ。3名はなんとか目標の猫を発見したものの、コンタクトしようとして、失敗。しかも、本部との通信は不能となってしまった。現在地不明のここは、すでに死後の世界なのか?俊英が描くSF長篇。
パリの街角にある小さなレストラン『ル・プチ・マルグリィ』が今宵かぎりで閉店する。三十年近くにわたって美味しい料理を作り、温かく客をもてなしてきたオーナー・シェフ夫妻は、二十代の息子とその友人たちを招き、お別れの晩餐会を開く。アペリティフからデザートまで、素敵な料理のフルコースと楽しいおしゃべりが進むなか、皆に愛された店の歴史が、夫妻の秘密が、若い世代の様々な恋や人間模様が浮かび上がる…。
本書は、『シンプルな情熱』発表の翌年93年に上梓された最新作。パリ近郊の新興都市セルジーに住む著者は、84年のルノードー賞受賞作『場所』の翌年から『ある女』と『シンプルな情熱』の執筆期間をはさんで92年までの八年間、「戸外」の日常的な場所で見かけた人びとの情景を日記のごとく書きとめていた。そのスケッチ風の短い断章からなる本作品は、独自の視点と感性で現代フランスの断面を見事に浮かび上がらせている。
わたしはなんとしても作家になりたい!創作意欲に燃える家事ロボット-キャル-が、様々な機能を付け足し、執筆内容もしだいに上達して、やがては主人の作家を凌駕する作品を書き上げたとき…作家志望のロボットの奮闘を、ブラックな笑いにつつんで見事に描きあげたロボット・シリーズの名作「キャル」。「リア王」のコンピュ・ドラマ化に成功し世界的な名声を得た演出家ウイラードのところに、ひとりの作家が訪れた。自分の作品をコンピュ・ドラマ化してほしいという。しかもひきかえに、十万グロボ・ドル相当のゴールド-黄金を支払おうというのだ!映像化を拒否するような内容の原作を、コンピュータを使っていかに立体映像化するか…息詰まるコンピュ・ドラマ作成現場を描きヒューゴー賞を受賞した「ゴールド-黄金-」。そのほか、作家志望の若者たちにSF小説作法を伝授する「SF作家になるためのヒント」、著者みずからがロボット・シリーズについて解説する「ロボット年代記」など、愉快でためになるエッセーの数々をあわせて収録した、アシモフ最後のヴァラエティ溢れるSF作品集。
シリコンバレーの大企業でロボット開発に携わるジャージーは、ひょんなことからサイバースペースで一匹の蟻を目撃した。どうやら会社が研究中の人工生命プログラムが、彼のマシンに迷いこんだらしい。だが自力で進化し増殖するこの蟻が、試作品のロボットを乗っ取って世界を覆う光ファイバー網に侵入してしまったために、思いもよらぬ騒動が…!高度な機械知性の誕生をポップな感覚で描き出す近未来コンピュータSF。
エディンバラの新聞社に勤務するはみだし者の記者キャメロンは、特ダネを告げる謎の男の電話に振りまわされていた。折りしも、悪辣な権力者たちが次々と惨殺される事件が発生。被害者は、キャメロンが記事で悪行を非難した人物ばかりだった。彼は殺人の容疑で逮捕され、やがて驚くべき真相が…全英ベストセラー第一位を記録した噂の作家の鮮烈なミステリ。
泥棒稼業の隠れ蓑のつもので始めた古本屋がすっかり軌道に乗り、今では本屋の主人としてまっとうな暮らしを送っているバーニイ。気づいてみればもうかれこれ一年近くも夜のお勤めとはご無沙汰だ。ところが、店の新しい大家が法外な家賃をふっかけてきたものだから、バーニイは家賃の値上げ分を捻出するためにやむにやまれず泥棒稼業に逆戻りすることになった。首尾よくウェスト・サイドのとある高級アパートメントに忍び込んだまではよかったが、浴室で素っ裸の男の死体を発見。そのうえ、まったく身に覚えのない高価な野球カード・コレクションを盗んだ疑いまでかけられてしまったのだからたまらない。かくなるうえは野球カードを取り戻して身の潔白を証明するしかない!ある時は鮮やかな手並みの泥棒紳士。またある時は華麗な推理の名探偵-マンハッタンの小粋な快盗バーニイ・ローデンバーが十年ぶりに帰ってきた、最高の話題作。
世界有数の暗殺者パヴァンの今回の標的ーそれはスペイン沖メノルカ島に暮らす平凡な実業家のチャリスだった。旅行客を装って島に潜入したパヴァンは、偶然チャリス一家と近づきになる。天涯孤独のパヴァンは、そこで生まれてはじめて家族の情愛に触れ、暗殺に疑問を抱きはじめた。だが、彼の逡巡を知った暗殺組織は、新たな暗殺者を送り込み、平和な島は殺戮の場に!暗殺者の孤独な生きざまを鮮烈に描いたサスペンス。
父親の経営する精神病院で働くビリーは、地元の有力者の娘との婚約も決まり、将来に何の不安もないはずだった。ある夏の昼下がり、病院の患者で、17歳の少女ヴァージニアと出会うまでは-。あまりに無防備な彼女のふるまいに翻弄されながらも、しだいに恋に落ちていくビリー。だが、彼女といっしょになる方法はただひとつ、彼女を病院から連れ去り、この町を永遠に出ていくことだった…。
内戦下のエルサルバドルでアメリカの秘密工作を遂行中、エド・パーテインは上官の罠にはめられて、陸軍少佐の地位を失った。そして今、ワイオミング州の銃砲店に勤める彼のもとにその上官の一人が現われ、秘密を洩らすなと忠告して、裏から手をまわして彼の職を奪ってしまった。失職したパーテインは、VOMIT(軍情報部の裏切りによる犠牲者たち)という組織の友人から、新たな雇い主を紹介され、ロサンジェルスへ飛ぶ。雇い主はミリセント・アルトフォードという婦人で、彼女は政治資金調達のエキスパートだった。最近、自宅に保管してあった政治資金百二十万ドルが何者かに盗まれ、犯人を突き止めたいのだが、ボディガードになってほしいという。パーテインは仕事を引き受けた。だが、かつての上官たちが、彼の口を封じるべく、今度は暗殺者を差し向けてきた!クールなタッチで描き出す、欺瞞と殺人の渦巻く危険な世界。絶大な人気を誇りながら、惜しくもこの世を去った巨匠のサスペンス溢れる最後の長篇。
もういちど宇宙を地球人の手に!-地球からの移民の子孫であるオーロラほか50の宇宙国家により宇宙への移民の道を絶たれた地球では、60億の人々が行き場を失い絶望の縁に追いつめられていた。陽電子ロボットも軍事力も持たぬ地球が、その覇権を宇宙国家から奪取すべく企てた秘策ーパシフィック計画とは…『鋼鉄都市』の原型となった表題作「母なる地球」など、SF黄金時代を創りあげた名品7篇を収録。