出版社 : 早川書房
五十八年前、農園で待ち伏せにあって殺されたのは、メキシコ革命の英雄サパタではなく、別人だった。ついては、サパタの現在の居所を突き止めてもらいたい…。探偵エクトルは、顔に傷のある男から依頼をたんなる妄想として片づけようとした。だが、彼が断わるまえに、男は金をおいて雨の中に消えていた。この雲をつかむような話が呼び水となったかのように、エクトルのもとには、たてつづけに調査の依頼が舞いこんできた。まずは映画女優から、娘の様子が最近おかしいので原因を探りだしてくれといわれ、ついで鉄鋼会社の社長から、労働争議で揺れ動く工場で起きた殺人事件の調査を頼まれたのだ。どちらとも引き受けたエクトルは、危険が待ち受けているとも知らずに、三つの事件の渦中へと飛びこんでいった。ハメット、チャンドラーの世界を現代のメキシコシティに甦らせ、絶賛を浴びた、話題のハードボイルド。
かつて人類が植民し、のちに忘れさられた世界、サパ星系ー3431年、その衛星コニアーズからテラナーの子孫が、核戦争の悲劇をのりこえ、大宇宙をめざしていた。フラマン・パンタローネ船長率いる四段式宇宙船《ヴァンガード》が打ち上げられたのだ。だが、目的地である惑星フィルマーでは、独裁帝国ダブリファがサパ侵略計画を着々と進めていた。ようやく宇宙への第一歩を踏みだしたサパ人たちに帝国の魔手が迫る…。
パリ、ワルシャワ、ジュネーヴ。ヨーロッパの国際都市を舞台に、三つの色が奏でる三つの愛の物語ー愛する夫と娘を車の事故で失ったジュリーは、すべてがブルーな色合いの中で自己を回復できるのか。雪のように白い肌のドミニクは、ポーランド人の夫の愛がもの足りず離婚裁判に持ち込むが…。優しい赤がよく似合うモデルのヴァランティーヌは、盗聴マニアの元判事に魅かれてゆく…ユニークな構成で贈る連作小説集。
わたしは騙し絵画家。人の目を欺く幻影を生みだすのが仕事だ。そのわたしのもとへ、美術品収集家として名高い大富豪の老婦人がやってきた。屋敷の舞踏室に、壁画を描いてほしいのだという。しかし、屋敷でわたしを待っていたのは、十五年前に起きて迷宮入りした殺人事件の、今も消えぬ暗い影だった…読後に強烈な印象を残す、心理サスペンスの新しい傑作。
黒人の少女クローディアが語る、ある友だちの悲劇-。マリゴールドの花が咲かなかった秋、クローディアの友だち、青い目にあこがれていたピコーラはみごもった。妊娠させたのはピコーラの父親。そこに至るまでの黒人社会の男たちと女たち、大人たちと子供たちの物語を、野性的な魅惑にみちた筆で描く。白人のさだめた価値観を問い直した、記念すべきデビュー作。
私立探偵ジョン・タナーにとって、救急車の運転手をしているトム・クランドールは大切な友人だった。おなじバーに通い、たまに話を交わす程度の仲だったとはいえ、その彼が歓楽街で死体で発見されたというニュースはショックだった。しかも、自殺の可能性があるという。たしかにトムは悩みを抱えていた。企業買収でのしあがった大富豪が、金にものをいわせて彼の最愛の妻を奪おうとしていたのだ。だが、タナーにはどうしても、トムが自殺するような男だとは思えなかった。そもそも、なぜトムは歓楽街にいたのか。そして、彼が死ぬ直前にタナーの留守番電話に残した、「おれはいま血の痕跡をたどっている」というメッセージの意味とは。死にいたるまでのトムの足跡をたどりはじめたタナーの前に、頑ななまでの正義感ゆえに周囲の者の人生を狂わせていた友の姿が浮かびあがってきた。深い人間洞察に裏打ちされた正統派ハードボイルド。
幽閉されていた尼憎院から救出されたアサーヤのもとには、魔法の才能を持つ者が異端裁判所の追及を逃れて続々と集まってきた。ところが、アサーヤは平和主義を掲げていっこうに戦おうとしない。それに業を煮やした者たちが、ついにアサーヤと袂を分かった。一方アサーヤの兄ニコラスは、〈賢人〉が権力を握るサーレ島に総督として赴任した。強力な魔法使いである〈賢人〉の罠が待ち受けるとも知らずに…シリーズ第4弾。
テレビ・プロデューサーとブティック経営者ー精力的に活躍する二人の女性が、デヴォンに助けを求めてきた。二人から財産を欺しとった結婚詐欺師を捜しだしてくれという。調査の末、詐欺師の居所を突きとめたデヴォンは、自ら囮となって男に接近した。が、その直後に男が殺害され、デヴォンと依頼人たちに殺人の容疑が…。現代女性の心の隙をついた犯罪にからむ殺人事件を女探偵デヴォンが追う、注目のシリーズ第二弾。
五年前に死んだはずの不動産会社社長を捜しだしてほしい-保険会社の副社長で、わたしとは古い付きあいのマックが依頼を持ちかけてきた。マックの保険会社が五十万ドルもの保険金を未亡人に支払った直後、当の会社社長がメキシコのリゾートで目撃されたというのだ。問題の男ウェンデル・ジャフィは、当時ヨットで海へ出たきり行方不明となり、後にヨットだけが海上を漂っているのが発見された。遺書があったことと、男が大がかりな不動産詐欺で告訴される寸前だったことから、自殺と断定された。生きているとしたら、なぜ彼は家族のまえにも姿を現わさないのか。どうやって働きもせずに生活しているのか。ウェンデルの生死を確かめるため、わたしは急遽メキシコへ飛んだ。調査にあたる女探偵キンジーの前に、やがて彼女自身のアイデンティティが崩壊しかけるような事件が…人生の岐路に立たされたキンジーが新たな道を歩みだす人気爆発のシリーズ、堂々の第十作。
人類初の恒星間宇宙船が惑星キャンドルに到着したとき、人々は空飛ぶカヌーを操るインディアンと遭遇した。13世紀に光速飛行術を見出したインディアンの一群がカヌーで地球を離れ、この星に移住を果たしていたのだ。数百年後この星を訪れた新聞記者ウィルは平和共存を続けているはずのインディアンと入植者との間に深刻な対立があることを知る。異星の地で、開拓時代そのままの激烈な戦いが、いま始まろうとしていた。
インディアンの光速飛行法の秘密が隠された“クレイ”の所有権をめぐって政情不安におちいった惑星キャンドル。クレイ埋蔵地を保有する娘ジェイニイは、入植者とインディアンとの間で窮地に立たされる。ウィルは彼女を救うため友人でインディアンの指導者でもあるトーマスとともにカヌーで地球に旅立ったが、そこで彼らを待っていたものは…?90年代SF期待の新人が、奇想天外な設定のもとに描く迫真のSFドラマ。
惑星ハーモニーに人類が入植して四千万年。平和な文明の栄えるこの星は、じつは軌道上のマスター・コンピューター“オーヴァーソウル”に密かに管理されている。ところがその機能が低下し、世界を制御できなくなってしまった。このままでは人類が自滅への道をたどるのは必至。守護者としての使命をまっとうすべく、オーヴァーソウルは一人の少年にメッセージを託すのだが…遠未来に生きる人類の姿を壮大に描く傑作長篇。
騎士の娘マリアンが十字軍帰りのロバートから聞かされたのは、代官ドレイシーと結婚せよという父の遺志だった。だが、代官は酷薄な男。彼に嫌悪を覚えたマリアンは、しだいにロバートに惹かれていった。そんなある日、マリアンが逃亡死刑囚にさらわれ、無法者が徘徊するシャーウッドの森に連れこまれた。ロバートは彼女を救うべく森に足を踏み入れた…ロビン・フッド伝説を鮮やかに甦らせるシリーズ第2弾。
世界各地で激しい航空戦が繰り広げられている一方で、航空技術は目覚ましい進歩を遂げていた。ハーフナーらのドイツ技術陣は革新的なジェット戦闘機Me262を開発、一挙に戦いの主導権を握ろうとする。だが生産は遅々として進まず、戦局はドイツにとって取り返しのつかないほど悪化。残されたパイロットたちは一握りのMe262で、圧倒的な連合軍爆撃機隊に絶望的な戦いを挑む。史実をもとに空の男たちの死闘を描く。