出版社 : 水声社
銀鉱で成り上がったメキシコ生まれの主人と従者の出立から始まる物語はやがて、黒人の奏でるギター、街頭を轟かす謝肉祭の喧噪、ヴィヴァルディのオペラ、ルイ・アームストロングのトランペットへと、変幻するテンポのうちに秩序は多元的に錯綜していく“幻想交響曲”で幕を下ろす。擬古的な文体で周密な作品空間を描き出し、響きわたる雑多な楽音で読者を圧倒する傑作。
アランソンで一大サロンを築くコルモン嬢をめぐり、水面下で婿の座争いが起こる。老嬢を射止めるのは文なしの老騎士か、中産階級の商人か、貧しく純情な青年か?コミカルな表題作ほか、ルイ11世の宝石泥棒探しを描く「コルネリュス卿」「ボエームの王」「二つの夢」の四篇。
一面に広がる鳥の屍体を踏み分けて入水する美女、人間をセメント詰めにする男、大男の初恋を馬鹿にする小人…奇々怪々な登場人物たちが織りなす、白昼夢の世界。人間の邪悪さと卑小さ、哀しみと悪徳を“人間”への絶望と愛によって、そして辛辣な皮肉とユーモアをこめて描き出す、ゴンクール賞を二度受賞した、謎多き作家の16篇の物語。
アメリカ南部で葬儀屋を営む父のもと思春期を生きるフィッシュベリー。父子の葛藤、白人による友人の殺害、売春宿の火事での恋人の死、そして、白人警察署長による父の謀殺…現代アメリカ社会に通底する人種差別問題を“事実と真実”で描いた長編小説。
「妻殺しの容疑者が取調中に窓から身を投げた…」自殺の瞬間に偶然立ち会った若き新聞記者アンヘルと、自堕落な生活を続けるその母。容疑者の旧友で賭博に入れこむ元弁護士セルヒオと、神秘的な女中デリシア。取り憑かれたようにオスカー・ワイルドの翻訳に没頭する判事エルネストと、謎の男トマティス…“出口なし”の政治状況を背景に、“傷”を抱えた登場人物たちの複数の視点からひとつの事件を浮かび上がらせた初期の傑作長編。
スペイン王家のフェリペ2世や狂女フアナなどの実在の人物たちと、ドン・キホーテやドン・フアンなどの架空の登場人物たちを斬新な手法で錯綜させ、イベロアメリカ全体に影響を及ぼす征服者の悲劇を、旧世界・新世界・別世界の3部構成で物語る世紀の叙事詩!メキシコを代表する作家が残した畢生の大作、待望の完訳!
今日の“世界文学”におけるメルクマールとして屹立するミラン・クンデラ。冷戦下の中央ヨーロッパを襲った“歴史”の悲劇のうちに、母国チェコを追われたこの亡命作家を支え続ける“小説の精神”を、その作品と世界で展開される批評を自在に往還しながら、小説のテーマ、ことば、歴史を軸に、立体的に論じ上げる。卓抜したミラン・クンデラ研究にして、すぐれた現代作家論。
古代エジプト文明は死んだ。だが、エジプトの霊は生きている。《神智学協会の最高の作家のひとり》と称される英国の小説家が古代エジプトの神殿と都市を舞台にひとりの小年の霊的な覚醒と成長秘儀と闘争の中での転生を描いた驚くべき神秘小説が本書である。
〈かれ〉はかつて革命のために暗殺を敢行した〈英雄〉。しかし、今では庇護なき〈逃亡者〉…。鳴り渡る英雄交響曲の響きと濃密な宗教的雰囲気とを基調に、〈娼婦〉、〈偽札〉、〈老婆〉などの符牒が旋回する錯綜したテクスト空間の中で、次第に明かされる、魂の救済を希求する一人の男の血塗られた歴史とその末路。現代ラテンアメリカを代表する作家が描く傑作中篇。
シュタイナー教育の代表者として世界的に知られる著者が、アジアのメルヘンとグリム童話を具体的にとりあげながら、そこに秘められた人間の成長と人類の歴史をめぐる深い叡智の意味を説き明かす日本での連続講演集。
1955年2月のある日,荒天下のカリブ海で、コロンビア海軍の駆逐艦から数名の水兵が海に落ちた。全員が絶望視されていたにもかかわらず,10日後、1人の水兵が瀕死の状態で母国に漂着した。太陽に焼かれ、鮫と闘い、友人の霊と語り、筏に自らを縛り付け、人喰い人種の島を恐れ、巨大な海亀に出会いつつ、極限的な飢えと渇きの果てに祖国に生還した彼を待ちうけていたものは…。