出版社 : 河出書房新社
御船千鶴子は、熊本に生まれ育った平凡な女だった。だが、純粋で繊細な彼女は霊能力をもっていた。そんな千鶴子の潜在能力に注目した、東京大学助教授の福来友吉は、黎明期の心理学の可能性を、千鶴子の透視能力の開発に託し、実験を繰り返す。折から全国にまき起こった千里眼ブームとは何だったのか。
その執拗なまでの観察眼で対象に肉迫する作家・大岡昇平の散文精神は、愛好した推理小説を実践する際にも、その威力を遺憾なく発揮した。ここに収めた初期ミステリの代表作九篇も安易な解決を望むことなく犯人を追う。海外で実際に起きた事件や題材も採り入れながら大胆に展開される。本格的な傑作選。
彼は毎晩“ガラス張りの檻”から海峡の彼方を見つめていた。男は海峡を渡ってやって来た。平穏な生活を襲った運命の亀裂。霧深い北フランスの港町を舞台に、さまざまな人生が交錯する。生と死、罪と罰、欲望と祈り、幸福と不幸…極限の心理の襞を繊細に描ききって人間の存在の本質に肉迫する、シムノン文学の傑作。
国を追われ故郷を奪われ来歴を消され名前を奪われ真実を消されて千五百年。じわじわと囲まれていないことにされた海洋華厳王国の逞しき精霊。自髪の作家が千葉の建売で見た…真夏のミル・プラトー千五百年史。
法律を勉強するため上京した十八歳の青年フレデリックは、帰郷の途上、セーヌ河をゆく船の上で美しき人妻に心奪われる。やがてパリ暮らしを再開した彼は、一途に人妻を想いながら、夫の経営する新聞社や社交界に出入りをするようになる…。革命前後のパリで生きる夢見がちな青年と、彼をとりまく四人の女の物語。
美しき人妻アルヌー夫人、高級娼婦ロザネット、社交界の名花ダンブルーズ夫人、田舎で彼を待つ可憐なルイーズ。四人の女性に愛されながら、夢のような恋を求めてパリ暮らしを続ける青年フレデリックが、純真さとひきかえに少しずつ成長していく…。『ボヴァリー夫人』とともに名訳で贈る小説の最高峰。
「人生ってきっと、ワタクシたちが考えているより、二億倍自由なのよ」。中学に入ってから不登校ぎみになった幼なじみの犬井。学校という世界に慣れない私と犬井は、早く25歳の大人になることを願う。11年後、OLになった私だが、はたして私の目に、世界はどのように映るのか?14歳の私と25歳の私の今を鮮やかに描く文藝賞受賞第一作。
上等だよ!ヤクザだろうがお巡りだろうが関係ねえよ!抗争、乱闘、死闘…。元「ぼったくりの帝王」が過去に別れを告げ、歌舞伎町の夜明けに誓ったあらたなる決意とは?驚愕の半生を綴る衝撃のノンフィクション。
河童の画家、生誕140年・没後70年。牛久沼のほとりに暮らし、水魅山妖に惹かれ、独自な日本画を描き、河童の絵を描き続けた自然人がいた。「平民新聞」の幸徳秋水らと交わり、横山大観に認められ、田舎の幻想世界を追求した農画家の魅力が今よみがえる。その生涯を描く、初めての評伝小説。
「人生」という旅を、少しずつ受け入れるようになったあなたへ。親友が恋した男との、密会。老いた両親と旅して変化する、娘の感情。恋人以上だけど夫婦未満、微妙なカップルが旅の途中で出遭った「幽霊コレクター」…。ドイツで30万部を超えるベストセラーとなった青春の終りを予感する旅をめぐる、傑作短篇集。
獣が女に変わり、女が獣になっていく。奥さまはカミツキガメに変身し、美女に変身中の忠犬は、オペラスターになる夢を抱いて家を出るー奇想の女王が描く、愛と不可思議に満ちた現代のピカレスク変身譚。
パリ十六区の高級住宅地に居を構える裕福な産婦人科医・パリ大学教授のジャン・シャボは、一見、家族や同僚、仕事や社会的身分に恵まれ、妻公認の愛人もいて、何不自由のない四十九歳の働き盛りと誰もが羨む男だ。しかし内実は三人の子供と妻には裏切られ、母には疎まれ、妻の実家からは屈辱的な干渉に逢い、医療過誤の恐怖に怯え、心身ともに深く傷ついた内面を密かに抱えている。唯一心を解放できたブロンドでバラ色の肌の少女〈熊のぬいぐるみ〉との密やかな交情も、秘書の手で奪われ、その後セーヌに身投げした少女に関係する匿名の男の脅迫に追いつめられていく。ある夜、死を覚悟したジャンは、拳銃をポケットにしのばせて、パリの街へ絶望の地獄巡りに出かける…。ジッド、モーリアック、アナイス・ニンが絶賛したシムノンの「本格小説」の絶品。
『カリブ諸島の手がかり』の名探偵ポジオリ教授が帰ってきた。姿なき脅迫者に怯える男に助けを求められたポジオリが超自然的な怪事件に遭遇する「つきまとう影」、失踪した女性が残した一枚の写真から意外な真相を解き明かす「尾行」など全九篇。長く雑誌に埋もれていた幻の第二シリーズを集成。