出版社 : 河出書房新社
北国の冷たい夏に離農をよぎなくされ、二人の子供を置いて、妻に逃げられた男。男は焼酎を片手に出刃を磨ぐ…。過酷な自然を背景に、力強い文体で人間の内面を抉る、鮮烈なデビュー作「出刃」ほか、力作3篇を収録。
私は両耳をつかまれて、高々と持ち上げられた可哀想なうさぎー。理不尽ないじめに苦しむ少女に兆す暗い思いを豊かな筆緻で描いた表題作のほか、子守歌に恐怖と孤独を覚える少女を見つめた佳篇「こぎつねこん」を収録。平林たい子賞受賞の話題作。
前夜、したたかに酔った私は、女と約束したはずの喫茶店を探して渋谷の道玄坂を一人さまよう。林立するビルの谷間…。おや、ここはその昔、大伯母が旅館をやっていた辺りでは?「オメェサ、ココサ来チャナンネェテ」大伯母の越後訛りが聞こえる…。時間を超え、禁忌の空間に迷い込んだ男の驚愕を描く第1話「渋谷道玄坂」に続き、“私”が生れ育ち暮す東京の此処かしこで地霊に導かれて分け入る迷宮をめぐる連作11話。私小説作家の超私小説。
“愛は、実現の不可能性によって育成されてゆく”登校拒否の天才少年エルネストが体現する神の不在、静かなる絶望…。旧約聖書に触発されたデュラスの最新ロマン。フランスで大ベストセラー。デュラスの最新話題作。
昭和11年(1936)の二・二六事件、翌年、衆望をにない文麿はついに首相に任命される、僅か45歳の青年宰相であった。しかし意図と努力に反し、軍部はひたすら戦争を拡大して行く。総辞職、大戦の勃発、そして敗戦…文麿は戦犯容疑の収監を拒否して自決する。激動の昭和の悲撃を一身に背負った文人宰相の生涯と人間像をあますところなく描いて毎日出版文化賞に輝やいた渾身の大作。
銃も棍棒もなしで、丸腰のまま保安官補をつとめる、一見物静かな男ルー・フォード。ウェスト・テキサスの小さな田舎町を牛耳る建設業者コンウェイを義兄の仇とねらう彼は、売春婦を利用し復讐をとげるが、そのために殺人をくり返すこととなり、心に巣食った病的な暴力癖をあらわにしていく…。たしかな人間観察眼によって描かれる「現実味のある異常者」の物語。“安物雑貨店のドストエフスキー”と称され、再評価の声の高いジム・トンプスンの幻の代表作、ついに登場!
恋人より仲良しの僕とレイコは、ただの友達同志。大好きだから自由な二人でいたいと願う僕は、彼女のひたむきさに戸惑い、揺れ動く。試験休みの4日間。神戸の街を雨のように通り過ぎた17歳の恋を描く、永遠のティーンエイジ・ノベル。文芸賞受賞作。
マネーゲームの成功の頂点から破滅へむかって実行する青年実業家、コンピュータで〈神〉と戯れる女性プログラマー。豊田商事事件をモデルに、壮大な構想力で現代の狂気と悪夢に挑む、三島賞作家のデビュー作。
シャーロック・ホームズは生みの親コナン・ドイルの手によっていかに創造されたか?それはかならずしも、ドイルの本意によって生み出された正統の嫡子ではなかった…。激動の時代ヴィクトリア朝の社会・風俗や時代背景をたんねんに描写しながら、ドイルの先祖、親兄弟、そして恋愛・結婚生活などの綿密な調査の上にたってドイルの生涯を描き、名探偵誕生の秘密に迫る伝記文学の傑作。
津軽の13歳は悲しいーうつりゆく東北の四季の中に、幼い生の苦しみをみずみずしく刻む名作「木橋」、横浜港での沖仲仕としての日々を回想した「土堤」、および「なぜか、アバシリ」を収録。作家・永山の誕生を告げる第1作品集。
流れる水、波立つ水、あるいは光り、たぎる水。さまざまな水の相を背景に、家族、男と女、また母と娘たちがたどる危うい生の実相を、迫真の筆致で刻みだした連作集。水がわたしに落ちてくる、早く眠らなければ…。
カクテルへのこだわりが殺人を招き、1杯のブランデーが秘密めいた物語を思い出させる。バーガンディやボルドーの豪華なワインの利き酒の裏で繰りひろげられる国際的陰謀に、5杯目のスコッチが明かす殺人のトリック…。エリン、コリア、ミルン、セイヤーズ、シスク、ブロックマン、ホールディングら13人の短篇の名手が描く、熟成した美酒をめぐる様々な犯罪の芳香。