出版社 : 現代書館
まぶたに魅了されたカメラマン(「眼瞼下垂」)、夜、むかいの集合住宅に住む元恋人を見つめる女性(「ブラインド越しに」)、植物園に通い、自分はサボテンであり、妻はつる植物だと気づく男性(「盆栽」)、小さな島で“ほんものの孤独”を探す十代の少女(「桟橋の向こう側」)、トイレに残った香りの主を探す若者(「花びら」)、似た者同士の恋人とこじれた関係に陥る女性(「ベゾアール石」)。パリ、東京、メキシコシティ、ヨーロッパの架空都市を舞台に、ひと癖持ち合わせた登場人物たちが大いに躍動する。メキシコの実力派作家グアダルーペ・ネッテルの世界観全開の6篇の珠玉の短編小説集。
1945年、中国北部、旧満州の山奥・興安嶺で拾われて育ったワンチュンリエン、その娘のツァンホンメイ、孫娘ヤンリュウの三世代の物語。中国では「日本鬼子」と呼ばれ、文化大革命では徹底的な弾圧に晒されたワンチュンリエン。医師を志すも、社会からそれを許されなかったツァンホンメイ。日本に帰国後、壮絶ないじめにあった兄をもつヤンリュウ。女性が、自らに語るように過酷な過去と向かい合い、三世代それぞれのアイデンティティの不安が錯綜する。
初めての子の出産を迎えるパリの夫婦と真っ赤な観賞魚ベタ、メキシコシティの閑静な住宅街の伯母の家に預けられた少年とゴキブリ、飼っている牝猫と時を同じくして妊娠する女子学生、不倫関係に陥った二人のバイオリニストと菌類、パリ在住の中国生まれの劇作家と蛇…。メキシコシティ、パリ、コペンハーゲンを舞台に、夫婦、親になること、社会格差、妊娠、浮気などをめぐる登場人物たちの微細な心の揺れや、理性や意識の鎧の下にある密やかな部分を、人間と共にいる生き物を介してあぶりだす新感覚の五つの短編小説集。第3回リベラ・デル・ドゥエロ国際短編小説賞受賞作。
明治150年!大凶を吉に返して、網走に北海道初の図書館をつくった先生がいました。激動の江戸、決意の七戸、室蘭・幌別・札幌・網走・比布・函館をめぐり、開拓期に初等教育の普及を目指した男の青春。
三島由紀夫『豊饒の海』は社会的事件ともなった一九七〇年の自衛隊での自決とともに完結した作品として大きな話題となったが全四巻の大著ということもあり充分な読み解きがなされているとは言いがたい。本書は『豊饒の海』を、作品の重要な背景でもある高度経済成長を経て、長い不況に陥り、さらには東日本大震災と原発事故を経験した二一世紀の日本を見通していた予見的な作品と考えるという一点を基調にして読み直すことを試みる。この大作で終局に示される「虚無の極北」は、現代社会すべての人々の深層に共通する感覚と言っても良いだろう。その状況を越え目の前に現前している世界とは別の「もう一つの日本」を探すための水先案内に三島文学はなるのだろうか。