出版社 : 白水社
愛人の美しい髪の毛への妄執に囚われた男。死んだ男が年下の妻とその愛人に用意した皮肉な復讐。独房で自由と太陽を奪われた放浪者に残されたただひとつの希望。気球で超高空飛行に挑戦した二人を襲った恐怖の出来事…。人生の残酷や悲哀、運命の皮肉を短い枚数で鮮やかに描き、20世紀初めのフランスで絶大な人気を博したルヴェルの残酷コント。第一短篇集『地獄の門』収録作を中心に、新発見の単行本未収録作を加えた全36篇を新訳で刊行。
「ひとは自分がどこへ行くのかなんてことを知ってるものでしょうか?」飛躍につぐ飛躍、逸脱につぐ逸脱。主人は聞けるか、ジャックの恋の話ー旅する二人と出会う人びと、首を突っ込む語り手らによる快活、怒濤の会話活劇!
配偶者を亡くし自活できない男女が、収容先で再婚に向けて奇妙な再教育を受ける「前に進む」。大洪水のなか水没をかろうじて逃げた自宅で、助けを乞う人々を追い返して生き延びてきた男が、ある男をボディガードがわかりに唯一受け入れたところ…「最後の日々の過ごしかた」。会議中に襲来した怪物から逃げまどいパニックに陥ったエリート役員たちが、死を前にして思い至ったのは…「やつが来る」。友人と出かけたボートが遭難し、来る気配のない救助を待つ男が、長年の友情が幻想だったと突きつけられる表題作。特異な生殖能力を持つため、あらゆる女に追い求められる“みんなの男”が、落ち着いた関係を望みはじめたとたん…「おたずね者」。抽選で“不要”と認定された子どもたちが繰り広げる、一瞬も気を抜けない苛酷な生存競争を描く傑作「不要の森」など。不条理な絶望の淵で生き残りをかけてもがく人々の孤独とかすかな希望を、無尽の想像力で巧みに描く、ダークでシュール、可笑しくて哀しい鮮烈な12篇。
児童文学の歴史に燦然と輝く永遠の古典『ピーター・パン』。その作者J・M・バリーに着想を与え、ピーター・パンのモデルとなったルウェリン=デイヴィス家の五人兄弟のひとりで、のちに出版社社主となったピーターの自殺で物語は幕を開ける。続いて、バリーの幼少期のエピソードに重ね合わせるようにして語り手自身の物語が始まる。章が進むうち、この謎の語り手が、今や知らぬ者はいない子供たちのヒーロー、永遠の少年ジム・ヤングを主人公に据えた冒険小説シリーズの作者ピーター・フックであることが次第に明らかになる。バリーが生きたヴィクトリア朝からエドワード朝にかけてのロンドンと、自分が子供時代を過ごした1960年代のスウィンギング・ロンドンを奇妙に交錯させつつ、語り手は『ピーター・パン』の物語とバリーの生涯をなぞっていく。だが、そこにはある恐ろしい計画が隠されていた…
1988年8月18日午後2時35分に、村を見下ろす丘にあるいちばん背の高いスモモの木の上で母さんは啓示を受けた。まさにそれと同じ瞬間、兄さんのソフラーブは絞首刑になった。それを遡ること9年、イスラーム革命の最中に、テヘランで幸せに暮らしていた私たち一家は熱狂した革命支持者たちによって家に火を放たれ、かけがえのないものを失った。私たちは道なき道を分け入り、ようやく外界から隔絶された村ラーザーンにたどり着く。そこは奇しくも1400年前、アラブ人の来襲から逃れたゾロアスター教徒が隠れ住んだ土地だった。静かな暮らしを取り戻したと思ったのもつかの間、ラーザーンにも革命の波が押し寄せる。ある日ソフラーブが連行されると、母さんのロザー、父さんのフーシャング、姉さんのビーターの身にも次々に試練が降りかかる…。13歳の末娘バハールの目を通して、イスラーム革命に翻弄される一家の姿が、時に生々しく、時に幻想的に描かれる。『千一夜物語』的な挿話、死者や幽鬼との交わり、SNSなどの現代世界が融合した魔術的リアリズムの傑作長篇。国際ブッカー賞、全米図書賞最終候補作品。
山深い農村が千年に一度の大日照りに襲われた。村人たちは干ばつから逃れるため、村を捨てて出ていく。73歳の「先じい」は、自分の畑に一本だけ芽を出したトウモロコシを守るため、村に残る決意をする。一緒に残ったのは、目のつぶれた一匹の犬「メナシ」。わずかなトウモロコシの粒をめぐり、ネズミとの争奪戦の日々が続く。やがて井戸も枯れ果て、水を求めて赴いた谷間の池では、オオカミの群れとのにらみ合いに…。トウモロコシに実を結ばせるため、先じいが最後に選んだ驚くべき手段とはー第二回魯迅文学賞受賞の傑作中篇。
人魚の死体が打ち寄せられた町の人々の熱狂と奇妙な憧れを描く「マーメイド・フィーバー」。夜中に階下の物音を聞きつけた妻が、隣で眠る夫を起こさずに泥棒を撃退しようとあれこれ煩悶する「妻と泥棒」。夜中に自分の名前を呼ぶ声を聞いた旧約聖書の少年の物語を軸に、声を待ちわびる者たちの心のうちをたどる傑作「夜の声」など、唯一無二の世界を生み出す名人が緻密な筆致、驚異の想像力で紡ぐ8篇の声。
コマンド部隊結成からクレタ島攻防戦へ。ガイ・クラウチバックが戦地アフリカから戻ると、ロンドンはドイツ軍の空襲下にあった。新たに編成されたコマンド部隊に配属されて訓練地の島へ向かったガイは、元妻の二番目の夫トミー・ブラックハウス、王立矛槍兵団を追放された優さ男トリマーら旧知の面々と出会い、同僚アイヴァ・クレア大尉の紳士らしい超然とした態度に感銘をおぼえ親しくなる。やがて命令違反の処分もうやむやのまま旅団長に復帰したリッチー=フック准将の下、部隊はイギリスを出発し、ケープタウン経由でエジプトに到着するが、現地で合流するはずの旅団長は行方不明で、待機中の部隊の士気は下がるばかり。そしてついにガイの所属する隊にクレタ島攻防戦への出動命令が下った…。戦争の愚かしさ、恐ろしさとともに英国階級社会の変貌を描くイーヴリン・ウォー畢生の大作“誉れの剣”三部作第二巻。
金持ちで蒐集家のおばに育てられたアントンは十五歳で絵を描き始めた。完成した絵はおばの不興を買うが、屋敷を訪れたローベルトおじは絵の勉強を続けるよう激励する。実はこのローベルトこそ、バルカン半島の某公国を巻き込み、架空の画聖をでっちあげて世界中の美術館や蒐集家を手玉に取った天才詐欺師にして贋作画家だった。十七歳になったアントンはおじの待つ公国へ向かったが…。虚構と現実の境界を軽妙に突く傑作コミックノヴェル。
睡眠に異常を来した「ぼく」の意識は、太平洋戦争末期に少年工として神奈川県の高座海軍工廠で日本軍の戦闘機製造に従事した父・三郎の記憶へ漕ぎ出してゆくー。台湾を代表する世界的作家の鮮烈な長篇デビュー作。
ある日、愛犬を追ってウィンザー城の裏庭にやってきた女王陛下は、移動図書館の車と、本を借りにきていた厨房の下働きの少年に出くわす。あくまでも礼儀上、一冊借りたことが、人生を変える、本の世界への入り口となったー。エリザベス二世を主人公に、ユーモアと、読書についての鋭い洞察と、本好きをうなずかせる名言に満ちた物語。
どこへ行けばいいかわからないとき、人はどこへ行くのだろう?退官した大学教授リヒャルトは、ベルリンに辿り着いたアフリカ難民に関心を抱く。難民たちとの交流は、次第に彼の日常生活の一部となっていくが…東ドイツの記憶と現代の難民問題を重ね合わせ、それぞれの生を繊細に描き出す。ドイツの実力派による“トーマス・マン賞”受賞作。
学校教師ペレドーノフは町の独身女性から花婿候補ともてはやされていたが、実は出世主義の俗物で、怠惰かつ傲岸不遜な人物。視学官のポストを求めて奔走するが、町の人々が自分を妬み陰謀を企んでいるという疑心暗鬼に陥り、やがて奇怪な妄想に取り憑かれていく。一方、少女と見紛う美少年サーシャに惚れこんだリュドミラは無邪気な恋愛遊戯に耽っていたが…。ロシア・デカダン派の作家が描く頽廃と倒錯の世界。
中国発の未知の病「シェン熱」が世界を襲い、感染者はゾンビ化し、死に至る。無人となったニューヨークから最後に脱出した中国移民のキャンディスは、ある生存者のグループに拾われ、安全な“施設”へと向かう。生存をかけたその旅路の果てはー?中国系米国作家が放つ、震撼のパンデミック小説!
本邦初の書籍化!オリジナル編集による待望のベスト版短篇小説集。光州事件、福島第一原発事故、女性殺人事件などの社会問題に、韓国で最も注目される新鋭作家が独創的な想像力で対峙し、実感のある言葉を紡ぐ鮮烈な8篇。
“謎SF”の世界へようこそ!謎マシン、謎世界コンタクト、謎の眠り…中・米の現代文学最前線から、インスピレーションによって紡がれた偏愛の7篇の競演!巻末に柴田元幸×小島敬太の対談を収録。
1990年代から現在までのチリを舞台に、社会の片隅で生きる女性や子どもの思いと現実をまばゆく描き出す9つの物語。チリの新星による鮮烈なデビュー短篇集!人生の葬り去りたい記憶の瞬き。2015年度チリ芸術批評家協会賞、2016年度サンティアゴ市文学賞受賞作。
主人公キルメン・ウリベは、バスクの中心都市ビルバオから、飛行機でニューヨークへ向けて旅立つ。心に浮かんでは消えていく、さまざまな思い出や記憶…祖父の船の名前をめぐる謎。スペイン内戦に翻弄されたバスクの画家アウレリオ・アルテタと、ピカソの“ゲルニカ”にまつわる秘話。漁師として海を渡り歩いた父や叔父たちのこと。移民や亡命者たち。そして今書いている小説のこと。失われゆく過去を見送りながら、新たな世界へと船出していく、バスク文学の旗手による珠玉の処女小説。