小説むすび | 出版社 : 白水社

出版社 : 白水社

ケンジントン公園ケンジントン公園

「永遠の少年」をめぐる奇想天外な傑作長篇  児童文学の歴史に燦然と輝く永遠の古典『ピーター・パン』。その生みの親J・M・バリーに着想を与え、ピーター・パンのモデルとなったルウェリン=デイヴィス家の五人兄弟のひとりで、のちに出版社社主となったピーターの自殺で物語は幕を開ける。  続いて、バリーの幼少期のエピソードに重ね合わせるようにして語り手自身の物語が始まる。章が進むうち、この謎の語り手が、今や知らぬ者はいない子供たちのヒーロー、時を駆ける永遠の少年ジム・ヤングの冒険を描く大人気シリーズの作者ピーター・フックであることが次第に明らかになる。  バリーが生きたヴィクトリア朝からエドワード朝にかけてのロンドンと、自らが子供時代を過ごした1960年代のスウィンギング・ロンドンを奇妙に交錯させつつ、語り手フックは『ピーター・パン』の物語とバリーの生涯をなぞっていく。だが、そこにはある恐ろしい計画が隠されていた……  実在/架空の登場人物とビートルズらの音楽に彩られ、獰猛な想像力と「脱線の文体」で紡がれる人生の一夜(ア・ナイト・イン・ザ・ライフ)の物語。アルゼンチンの奇才が放つ、13か国、9言語に翻訳されたファンタスティックな傑作長篇。

スモモの木の啓示スモモの木の啓示

1988年8月18日午後2時35分に、村を見下ろす丘にあるいちばん背の高いスモモの木の上で母さんは啓示を受けた。まさにそれと同じ瞬間、兄さんのソフラーブは絞首刑になった。それを遡ること9年、イスラーム革命の最中に、テヘランで幸せに暮らしていた私たち一家は熱狂した革命支持者たちによって家に火を放たれ、かけがえのないものを失った。私たちは道なき道を分け入り、ようやく外界から隔絶された村ラーザーンにたどり着く。そこは奇しくも1400年前、アラブ人の来襲から逃れたゾロアスター教徒が隠れ住んだ土地だった。静かな暮らしを取り戻したと思ったのもつかの間、ラーザーンにも革命の波が押し寄せる。ある日ソフラーブが連行されると、母さんのロザー、父さんのフーシャング、姉さんのビーターの身にも次々に試練が降りかかる…。13歳の末娘バハールの目を通して、イスラーム革命に翻弄される一家の姿が、時に生々しく、時に幻想的に描かれる。『千一夜物語』的な挿話、死者や幽鬼との交わり、SNSなどの現代世界が融合した魔術的リアリズムの傑作長篇。国際ブッカー賞、全米図書賞最終候補作品。

年月日年月日

出版社

白水社

発売日

2022年1月21日 発売

ジャンル

受け継がれる命の物語。魯迅文学賞受賞作品 千年に一度の大日照りの年。一本のトウモロコシの苗を守るため、村に残った老人と盲目の犬は、わずかな食料をネズミと奪い合い、水を求めてオオカミに立ち向かう。命をつなぐため、老人が選んだ驚くべき最後の手段とは? ノーベル文学賞の次期候補と目される、現代中国の巨匠が描く、《神話の世界》。 本書は中国で、第二回魯迅文学賞、第八回『小説月報』百花賞、第四回上海優秀小説賞を受賞。数多くの外国語に翻訳され、フランスでは学生のための推薦図書にも選定。 「わしの来世がもし獣なら、わしはおまえに生まれ変わる。おまえの来世がもし人間なら、わしの子どもに生まれ変わるんだ。一生平安に暮らそうじゃないか。先じいがそこまで話すと盲犬の目が潤んだ。先じいは盲犬の目をふいてやり、また一杯のきれいな水を汲んで盲犬の前に置いた。飲むんだ。たっぷりとな。これからわしが水を汲みに行くときは、おまえがトウモロコシを守るんだ。」(本文より) 山深い農村が千年に一度の大日照りに襲われた。村人たちは干ばつから逃れるため、村を捨てて出ていく。73歳の「先じい」は、自分の畑に一本だけ芽を出したトウモロコシを守るため、村に残る決意をする。一緒に残ったのは、目のつぶれた一匹の犬「メナシ」。メナシは雨乞いの生贄として縛り上げられ、太陽の光にさらされ、目が見えなくなってしまったのだ。 わずかなトウモロコシの粒をめぐり、ネズミとの争奪戦の日々が続く。やがて井戸も枯れ果て、水を求めて谷間に赴くと、池でオオカミの群れと出くわし、にらみ合う……。 もはやこれまでか……先じいが最後に選んだ驚くべき手段とは? ネズミやオオカミとの生存競争、先じいとメナシとの心温まるやりとりを中心に、物語は起伏に富む。意外な結末を迎えるが、受け継がれる命に希望が見出され、安らかな余韻を残す。作家は村上春樹に続いてアジアで二人目となる、フランツ・カフカ賞を受賞し、ノーベル文学賞の次期候補と目される中国の巨匠。本書は魯迅文学賞をはじめ、中国国内で多数の栄誉に輝いている。また数多くの外国語に翻訳され、フランスでは学生のための推薦図書に選定されている。

夜の声夜の声

耳をすませば、
声が聞こえてくる  人魚の死体が打ち寄せられた町の人々の熱狂と奇妙な憧れを描く「マーメイド・フィーバー」。夜中に階下の物音を聞きつけた妻が、隣で眠る夫を起こさずに泥棒を撃退しようとあれこれ煩悶する「妻と泥棒」。幽霊と共に生きる町を、奇異と自覚しつつもどこか誇らしげに語る「私たちの町の幽霊」。勝手知ったるはずの自分の町が開発熱でまるで迷宮のようになってしまう「近日開店」……。  ミルハウザーといえば、細部まで緻密な描写でリアルに感じられるが、決定的にどこか変という世界が特徴である。前作『ホーム・ラン』ではその想像力は外へ外へと広がり宇宙を感じさせたが、本書で印象的なのは、内に広がる内省的なもの。「夜の声」はそれが顕著な傑作。夜中に自分の名前を呼ぶ声を聞いた旧約聖書の少年の物語を軸に、“声”を待ちわびる、時空を超えた者たちの心のうちをたどる。じつはこの短篇の原題はA Voice in the Nightと単数だが、短篇集全体の原題はVoices in the Nightと複数。つまり、一篇一篇が「声」なのである。唯一無二の世界を生み出す名人が緻密な筆致、驚異の想像力で紡ぐ八篇の声に耳を傾けていただきたい。

士官たちと紳士たち 誉れの剣2士官たちと紳士たち 誉れの剣2

戦場における名誉とは 第二次大戦を描いた名作 ガイ・クラウチバックが戦地アフリカから帰国すると、ロンドンはドイツ軍の空襲下にあった。新たに編成されたコマンド部隊に配属されて訓練地の島へ向かったガイは旧知の面々と再会し、同僚アイヴァ・クレア大尉の紳士らしい超然とした態度に感銘をおぼえる。やがて旅団長に復帰したリッチー=フック准将の下、部隊はイギリスを出発、ケープタウン経由でエジプトに到着するが、現地で合流するはずの旅団長は行方不明で、待機中の部隊の士気は下がるばかり。そしてついにガイの所属する隊にもクレタ島への出動命令が下った……。 悪夢のような戦場と、士官として重責を担うはずの紳士階級が露呈する無能ぶり。作家自身の従軍体験にもとづき、戦争の愚かしさ、恐ろしさとともに、英国階級社会の変質を痛烈に描いて、第二次世界大戦に取材した英国小説の最高峰と評されるイーヴリン・ウォー畢生の大作《誉れの剣》三部作の第二巻。本邦初訳。

眠りの航路眠りの航路

出版社

白水社

発売日

2021年9月1日 発売

ジャンル

父子二代の記憶へ漕ぎ出す鮮烈な長篇デビュー作 台湾を代表する作家であり、世界的に注目を集める作家・呉明益の長篇デビュー作の待望の邦訳。のちに『自転車泥棒』や『歩道橋の魔術師』にもつながる原初の物語である。 台北で暮らすフリーライターの「ぼく」は、数十年に一度と言われる竹の開花を見るために陽明山に登るが、その日から睡眠のリズムに異常が起きていることに気づく。睡眠の異常に悩む「ぼく」の意識は、やがて太平洋戦争末期に神奈川県の高座海軍工廠に少年工として13歳で渡り、日本軍の戦闘機製造に従事した父・三郎の人生を追憶していく。戦後の三郎は、海軍工廠で働いた影響から難聴を患いながらも、台北に建設された中華商場で修理工として寡黙に生活を送っていた。中華商場での思い出やそこでの父の姿を振り返りながら「ぼく」は睡眠の異常の原因を探るために日本へ行くことを決意し、沈黙の下に埋もれた三郎の過去を掘り起こしていく。三郎が暮らした海軍工廠の宿舎には、勤労動員された平岡君(三島由紀夫)もいて、三郎たちにギリシア神話や自作の物語を話して聞かせるなど兄のように慕われていたが、やがて彼らは玉音放送を聴くことになるのだったーー。

行く、行った、行ってしまった行く、行った、行ってしまった

ドイツの実力派による〈トーマス・マン〉賞受賞作  大学を定年退官した古典文献学の教授リヒャルトは、アレクサンダー広場でアフリカ難民がハンガーストライキ中とのニュースを知る。彼らが英語で書いたプラカード(「我々は目に見える存在になる」)について、リヒャルトは思いを巡らす。  その後、オラニエン広場では別の難民たちがすでに1年前からテントを張って生活していることを知る。難民たちはベルリン州政府と合意を結んで広場から立ち退くが、彼らの一部は、長らく空き家だった郊外の元高齢者施設に移ってくる。  難民たちに関心を持ったリヒャルトは、施設を飛び込みで訪ね、彼らの話を聞く。リビアでの内戦勃発後、軍に捕えられ、強制的にボートで地中海へと追いやられた男。命からがら辿り着いたイタリアでわけもわからず難民登録されたが、仕事も金もなくドイツへと流れてきた男。  リヒャルトは足繁く施設を訪ね、彼らと徐々に親しくなっていく。ドイツ語の授業の教師役も引き受け、難民たちとの交流は、次第に日常生活の一部となっていくが……東ドイツの記憶と現代の難民問題を重ね合わせ、それぞれの生を繊細に描き出す。ドイツの実力派による〈トーマス・マン賞〉受賞作。

断絶断絶

出版社

白水社

発売日

2021年3月26日 発売

ジャンル

〈ニューヨーク公共図書館若獅子賞〉受賞作品  中国が発生源の未知の病「シェン熱」が世界を襲い、感染者はゾンビ化し、死に至る。無人のニューヨークから最後に脱出した中国移民のキャンディスは、生存者のグループに拾われる……生存をかけたその旅路の果ては? 中国系米国作家が放つ、震撼のパンデミック小説!  6歳のとき中国からアメリカに移民したキャンディスは、大学卒業後にニューヨークへとやってくる。出版製作会社に職を得るも、やりがいは見出せない。だがそんな日常は、2011年に「シェン熱」が中国で発生したことで一変する。感染するとゾンビ化し、生活習慣のひとつを繰り返しながら死に至るという奇病で、有効な治療法はない。熱病はニューヨークへも押し寄せる。恋人や同僚をはじめ、人々が脱出していくなか、故郷のない彼女は、社員の去ったオフィスに残る。機能不全に陥った街には、もはや正気を失い息絶えた熱病感染者と自分しかいないーある日、彼女はついにニューヨークを去る決心をする。そして脱出の途上で、ある生存者のグループに拾われ、安全な〈施設〉へ向かうという彼らの仲間に入れてもらうのだが、それはキャンディスにとって、新たな試練の始まりだった……。

もう死んでいる十二人の女たちともう死んでいる十二人の女たちと

韓国で最も独創的な問題作を書く新鋭作家のベスト版短篇小説集 韓国文学の新しい可能性を担う作家として注目され続ける著者の、10年の軌跡を網羅した日本版オリジナル編集による短篇小説集。本邦初の書籍化。 パク・ソルメは1985年光州生まれの女性作家。福島第一原発事故が起きた際、大きなショックを受けたという。原発事故に触発され、韓国でいち早く創作した作家がパク・ソルメである。光州事件や女性殺人事件などが起きた〈場所〉とそこに流れる〈時間〉と自身との〈距離〉を慎重に推し量りながら、独創的で幻想的な物語を紡ぐ全8篇。全篇にわたり、移動しながら思索し、逡巡を重ねて「本当のこと」を凝視しようとする姿勢が貫かれ、ときおり実感に満ちた言葉が溢れ出る。描かれる若者たちは独特の浮遊感と実在感を放つ。 「そのとき俺が何て言ったか」:カラオケボックスを経営する「男」にとって、大事なことは「心をこめて歌わなければならない」という一点だ。女子高生のチュミが友達とカラオケボックスに入ると、友達は一生けんめい歌ったが、チュミはちゃんと歌わなかった。友達が水を買いに出た後、一人になったチュミのところに男がやってきて……。 「じゃあ、何を歌うんだ」:旅先のサンフランシスコで、在米韓国人のヘナが光州事件について発表する場に居合わせた「私」。そこでの話はまるでアイルランドの「血の日曜日」のように、疑問の余地がないように聞こえた。2年後に光州でヘナと再会し、金正煥の詩「五月哭」をヘナと一緒に人差し指で一行一行なぞりながら読む……。 「冬のまなざし」:釜山の古里原発で3年前に起きた事故に関するドキュメンタリーをK市の映画館で見た時のことを振り返る「私」。事故後の釜山の変化、監督や映画館で会った人との交流を、自身の微妙な違和感を交えながら回想する。 「もう死んでいる十二人の女たちと」:五人の女を強姦殺害したキム・サニは、交通事故で死んだ後、犯行手口の似た別の人物に殺された女たちが加わった計十二人に改めて殺された。「私」はソウルの乙支路入口駅にいる幼ななじみのホームレスのチョハンを通してそれを知るのだが……。

恥さらし恥さらし

人生の葬り去りたい記憶の瞬き  1990年代から現在までのチリを舞台に、社会の片隅で生きる女性や子どもの思いと現実をまばゆく描き出す9つの物語。 「恥さらし」9歳のシモーナは、失業中の父と幼い妹とともに面接会場に向かう。会場に着くと、意外な展開が待ち受けていた。 「タルカワーノ」軍港のある寂れた地方都市タルカワーノに暮らす「僕」は、ザ・スミスに憧れて、近所に住む兄弟とバンドを組む計画を立てる。楽器を教会から盗もうと企んだ彼らは、日本古来のニンジュツの修行を始める。 「アメリカン・スピリッツ」3年前、ファミレスのフライデーズでアルバイト仲間だったドロシーに呼び出された語り手が、彼女から意外な告白を聞く。実は、ドロシーはある事件の張本人だった。 「よかったね、わたし」首都サンティアゴのショッピングモール内の図書館で働く孤独な女性デニス。しつけの厳しい家庭に育ち、成績優秀だが友だちのいない少女ニコル。2人のヒロインの人生が交互に展開する。  2015年度チリ芸術批評家協会賞、2016年度サンティアゴ市文学賞を受賞、チリの新星による鮮烈なデビュー短篇集。

いかさま師ノリスいかさま師ノリス

恐怖はいつの間にか、もうそこに。  1930年代、ワイマール文化が咲き誇るベルリン。語り手ウィリアムはアーサー・ノリスと知り合った。立派な身なりをした教養人で貿易業をしているという。ノリスを介しウィリアムは癖のある面々と出会う。ノリスは贅沢な乱痴気生活をしては困窮して姿を消し、次に現われたときには大金を手にしている。彼はまた、多くのベルリン市民と同じように政治にも関心を見せた。ある時、ウィリアムは彼に代わり、取引先に知り合いの男爵を引き合わせるよう頼まれる。だが実は、ノリスの取引先とはさる情報機関だった……。  ノリスの滑稽な言動には毎回笑わせられるが、本書は単純な喜劇に終わらず、奥深い。共産党やナチスに対する市民の熱狂が渦巻いていた当時、ベルリンに暮らしていた著者イシャウッドは、1935年に本書を発表した。ナチスによる敵対者への残虐な弾圧が広く知られる前にその危うさを描きこんだ鋭さには驚くばかり。熱狂の影で進む恐怖はいつ、どこの国でも起こりうる。いま我々もノリスを笑っていられるだろうかと背筋が寒くなる。  ナチス台頭前夜の狂乱の日々を鋭い洞察力で描く、イシャウッドの予見的傑作、新訳で登場。

このエントリーをはてなブックマークに追加
TOP