出版社 : 白水社
メキシコからやってきた花嫁、誘拐犯の子を身ごもった少女、自称詩人のメキシコ男に熱をあげるチカーナ、メキシコ革命の英雄サパタを愛した女…。希望と挫折が交差するメキシコとの国境の町で、ひたむきに生きながら、力強く立ち上がる女たちの圧倒的な声の集積。
台湾・高雄の高級マンションに住む13歳の文学好きな美少女・房思〓(ファンスーチー)は下の階に住む憧れの50代の国語教師に作文を見せに行き強姦され、その関係から抜け出せなくなる…世界の裏側を見てしまった少女のもう一つの愛の物語。台湾社会を震撼させた、実話に基づく傑作長篇。
海を渡り、ラバスクール王国の首都ヴィレットへ辿り着いた身寄りのない英国女性ルーシー・スノウは、女子寄宿学校を経営するマダム・ベックに雇われ、英語教師としての生活を始める。学内で起きるさまざまな小事件、幼馴染との再会、胸に秘めた思いと痛切な孤独の痛み。運命に立ち向かうヒロインの心理的陰影に富んだ語りの魅力で『ジェイン・エア』以上の傑作と称されるシャーロット・ブロンテの文学的到達点。
教師として自立したルーシー・スノウは、辛辣で独断的、短気な外見の下に優しい心を隠したエマニュエル教授との親交を次第に深めていく。だが、彼らの周囲では二人を引き離す計画が秘かに進められていた。苦悩と葛藤のなかで揺れ動く女性の内面を重層的に描いて、ヴァージニア・ウルフからカズオ・イシグロまで、名だたる作家たちを魅了してきたシャーロット・ブロンテの名作。
派遣社員、工場長、支社長、上司、部下、先輩、管理人…都市という森に取り囲まれ、いつのまにか脱出不可能になる日常の闇を彷徨う人たち。李箱文学賞受賞作「モンスーン」から最新作「少年易老」まで、都市生活者の抑圧された生の姿を韓国の異才が鋭く捉えた9篇。
棟続きの家に住む二組の夫婦。戸口の梶の花のにおいに心乱され不審な行動をとる更善無を、隣家の女、虚汝華が覗き見ていた。その夫、老況は生活能力のない男で、しじゅう空豆を食べている。二つの家の間に漲る敵意と疑念。ある夜、梶の花の残り香の中で更善無と隣家の女は同じ夢を見た…。奇怪なイメージと支離滅裂な出来事の連鎖が深い衝撃を呼ぶ中篇「蒼老たる浮雲」に、初期短篇3作を併録した残雪作品集。
通りすがりの男がいきなり平手打ちを食わせてくる事件が続発する「平手打ち」。いつのまにか町に現われ、急速に拡大していく大型店舗をめぐる「The Next Thing」。空から謎の物体が到来する「大気圏外空間からの侵入」。“異者”となった私と二人の女性との奇妙な交流を描く表題作など、精緻な筆が冴えわたる味わい深い7篇。
痛みがあってこそ回復がある 『菜食主義者』でアジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞し、『すべての、白いものたちの』も同賞の最終候補になった韓国の作家ハン・ガン。本書は、作家が32歳から42歳という脂の乗った時期に発表された7篇を収録した、日本では初の短篇集。 「明るくなる前に」:かつて職場の先輩だったウニ姉さんは弟の死をきっかけに放浪の人になる。そんな彼女を案じていた私に3年前、思わぬ病が見つかる。1年ぶりに再会した彼女が、インドで見たというある光景を話してくれたとき、小説家の私の心は揺さぶられるーーウニ姉さんみたいな女性を書きたい、と。 「回復する人間」:あなたの左右の踝の骨の下には穴があいている。お灸で負った火傷が細菌感染を起こしたのだ。そもそもの発端は姉の葬儀で足をくじいたことだった。ずっと疎遠だった姉は1週間前に死んだ。あなたは自分に問いかける。どこで何を間違えたんだろう。2人のうちどちらが冷たい人間だったのか。 大切な人の死や自らの病気、家族との不和など、痛みを抱え絶望の淵でうずくまる人間が一筋の光を見出し、再び静かに歩み出す姿を描く。現代韓国屈指の作家による、魂を震わす7つの物語。
わたしにはわかっている、カッコウがそっと三度鳴きさえすれば、すぐにも彼に逢えるのだ…“彼”を探して彷徨う女の心象風景を超現実的な手法で描く表題作。毎夜、部屋に飛び込んできて乱暴狼藉をはたらく隣の老婆の目的とは…「刺繍靴および袁四ばあさんの煩悩」ほか、夢の不思議さを綴る夜の語り手、残雪の初期短篇全9篇に、訳者による作家論「残雪ー夜の語り手」を併録。
広告代理店に長年勤務した初老の男ビル・ウィットマン。彼の人生の瞬間の数々を自虐的ユーモアを交えて語る断章形式の物語。(「海の乙女の惜しみなさ」)。もとはモーテルだったアルコール依存症治療センター“スターライト”。そこに入所中のマーク・キャサンドラが、ありとあらゆる知り合いに宛てて書いた(または脳内で書いた)一連の手紙という体裁の短篇。(「アイダホのスターライト」)。1967年、ささいな罪で刑務所に収監されることになった語り手。そこで無秩序の寸前で保たれる監房の秩序を目の当たりにし、それぞれの受刑者が語る虚構すれすれの体験談を聞く。(「首絞めボブ」)。かつてテキサス大学で創作を教えていた語り手は、あるとき学生たちを連れて老作家ダーシー・ミラーの牧場を訪ねる。その後、作家仲間から彼の安否を気遣う連絡を受け、ふたたび訪問すると、そこには、すでに死んだはずの兄夫婦と暮らしていると錯覚するミラーの姿があった。(「墓に対する勝利」)。詩人である大学教師ケヴィンが、才能豊かな教え子マークのエルヴィス・プレスリーに対する強迫観念を振り返る。マークは、エルヴィスの生涯に関する陰謀説を証明しようとしていた。(「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」)。
うらぶれた路地裏が冒険と発見に満ちていた子供時代を叙情豊かに描くデビュー短篇集。夏になるとどこからか現れる行商人の秘密を知った「パラツキーマン」。高架下の廃屋でたくさんの鳥たちと暮らす風変わりな男との邂逅を描く「血のスープ」。少々ネジが飛んでいるけれど子供たちのいい遊び仲間だった「近所の酔っ払い」。人生の岐路に立った少年二人が夜更けの雪の町をさまよう「長い思い」。映画の恐怖が現実に忍び込んできて逃げ惑う少年を描く「ホラームービー」。不思議な生業を営む叔父との奇妙な日々が胸を打つ結末に行きつく「見習い」など珠玉の11篇に、日本版特別寄稿エッセイを収録。
劇団四季ファミリーミュージカル原作 銀色のつばさのカモメ、ケンガーは、ハンブルクのとあるバルコニーに墜落する。そこには1匹の黒い猫がいた。名前はゾルバ。瀕死のカモメは、これから産み落とす卵をこの猫に託す。そして、3つの厳粛な誓いをゾルバに立てさせるのだった──。 この春、劇団四季の26年ぶりの新作ファミリーミュージカルとなった本書は、〈8歳から88歳までの若者のための小説〉とうたわれる、愛と感動と勇気の世界的ベストセラー。より若い読者にも親しんでもらえるよう、このたび、小学校高学年以上で学習する漢字には新たにルビを振った。 「勇気をもって一歩ふみだすこと、全力で挑戦すること、そして、自分とは違っている者を認め、尊重し、愛することを教えてくれるゾルバとフォルトゥナータたちの物語が、これからもたくさんの方々の心に届きますように」(「訳者あとがき」より)
SFと詩的な視覚表現の融合。中国社会と現代都市の奇想天外な投影。ヒューゴー賞受賞「北京ー折りたたみの都市」ほか、社会格差や高齢化、エネルギー資源、医療問題、都市生活者のストレスなど、中国社会を映しだす全7篇。
海辺の町ドーキーでミックが知りあった紳士ド・セルビィは、人類救済のための世界破壊を企て、大気中の酸素を除去する物質を研究していた。嘘か真か、時間の停止にも成功したという。一方、ミックは行きつけの酒場で「ジェイムズ・ジョイスが死んだという話は眉唾物だ」と聞かされる。死者との対話、自転車人間説や生きていたジョイスなど、全篇に溢れる奇想とほろ苦いユーモア。アイルランド文学の異才、最後の傑作。
廃墟の街ベルリンへと向かう列車、窓から殺人現場の見えるホテル、SMプレイに魅せられた少女のいる人形店…華麗なる迷宮を、秘密の使命を帯びた“私”がさまよう5日間。ヌーヴォー・ロマンの到達点!
文豪ゴーゴリの妻は空気の量によって自在にその姿を変えるゴム人形だった!グロテスクなユーモア譚「ゴーゴリの妻」、カフカの死んだ父親が巨大な蜘蛛となって現れる「カフカの父親」など、カルヴィーノ、ブッツァーティと並ぶイタリア文学の異才ランドルフィの奇想と諧謔に満ちた短篇群。奇妙な一行の超現実主義的な航海を描く「ゴキブリの海」を追加収録した決定版傑作集。
黄泥街は狭く長い一本の通りだ。空から真っ黒な灰が降り、人々が捨てたごみが溢れる街で、物は腐り、動物はやたらに気が狂う。この汚物に塗れ、時間の止まったような混沌の街で、ある男が夢の中で発した「王子光」という言葉が、一連の奇怪な出来事の始まりだった。すべてが腐り、溶解し、崩れていく世界の滅びの物語を、奔放な想像力と奇想に満ちた圧倒的な語り/騙りによって描き、世界に衝撃をあたえた残雪の第一長篇。
作家を目指す若者の闘いを描いた二十世紀小説の傑作。二十世紀初めのアメリカ西海岸オークランド。労働者地区で生まれ育ったマーティン・イーデンは、船乗りとなり荒っぽい生活を送っていたが、上流階級の女性ルースに出会い、その美しさと知性に惹かれるとともに文学への関心に目覚める。生活をあらため、図書館で多くの本を読み、文法を学んだマーティンは作家を志し、海上での体験、小説や詩を書いて新聞や雑誌に送るが一向に売れず、人生の真実をとらえたと思った作品はルースにも理解されない。生活は困窮、絶望にかられ文学を諦めかけたとき、彼の運命は一転する。『野性の呼び声』で世界的名声を獲得したジャック・ロンドンが、自らの体験をもとに書き上げた自伝的小説。労働者階級に生まれ、独学で自己向上を目指す若者の苦闘、その栄光と悲劇を圧倒的な熱量で描いて、多くの読者の心を揺さぶり続けてきた名作。