1989年9月発売
風間カホ、15歳の夏、子持ちの中年画家・青木丈史に一目惚れ。なんとか画伯の気をひこうと夏休み、ベビーシッターをかってでた。だけどこの日吉丸、ぜんぜんカホになつかない。ことあるごとにママとくらべられる。エッ!?ママって確か死んだはず。「画伯〜ママって誰のことですか」画伯によると、画伯には婚約者がいる。けれど親の反対にあって彼女は家にとじ込められているという。大ショックのカホだったけれど涙をこらえて画伯のために愛のキューピッド。まってて日吉丸、ママにあわせてあげるから。
「愛し、愛される、これが理想である。ただし、同一人物について、という条件が必要だろう。」-淡い光と影のなかを揺れまどう若者たちの姿を描いたみずみずしい青春小説。原題のLe Grand ´Ecartとはバレー用語で「両脚を広げて床にぴたりとつけること」であるが、幼い少年が一人の青年へと成長していく暗喩にもなっている。
イスラム教徒の子に生れ、スペイン軍に故郷グラナダを追われ北アフリカに渡り、幻の都トンブクツーはじめ地中海世界を遍く旅し、海賊に捕われローマ法王の奴隷として旅行記を著し西欧人にアフリカ大陸を知らせた実在の大放浪者の波乱万丈の生涯を描く歴史ロマン。
戦国の騒乱も終焉を迎えようとする時、身一つで戦場を徘徊するひとりの男がいた。名を団八という。賎ガ岳の合戦で柴田勝家方の兵として参戦した事が、その男の一生を左右する事となるのだが…。時移り、徳川家康の慇懃自重の生き様が完結目前の大坂冬夏両陣の大坂方に、豪毅な戦国気風を色濃く残し武張った団八の姿があった。塙団右衛門直之である…。戦乱に生きた男の生涯を描く時代大長編。
ルポライターの伊沢と、妻啓子の大学時代の友人で記者の村岡ルミとは不倫の関係にあったが、そのルミがタレントのスキャンダル取材に絡んで、I・K・Yのメモを残して殺された。愛する女の死を自からの手で調べてやるのが同業者としての誠意、と考え動き出した彼を待っていたのは、意外な事実であった…。男と女の狂おしいばかりの、愛欲の果ての間隙を突いて迫る犯罪を描く傑作エロティック・ミステリー。
夫の浮気が原因で不倫に走った大富豪夫人・桂子は禁断の快楽を知った。もう歯止めはきかない。以前、結婚を誓った恋人との偶然の出会いから、熟れた女体は男なしではいられない。遂いはテレクラで元産婦人科医の巧妙な罠に墜ち、検診台に縛りつけられ痴態を晒す。桂子の目には快楽地獄しか映らない。
人間意識の内奥の世界を探求し、現代心理小説の祖として評価の高いジェイムズの短篇選集。アメリカ娘のヨーロッパでの愛と死を描いた表題作の他、国際結婚の悲劇「モーヴ夫人」など四篇を収録。それぞれ作者の多面的な魅力が漂う異色作である。
他国者は容易に近づけない、密国阿波に潜入した幕府隠密・甲賀の宗家、世阿弥が消息を絶って10年。家名の断絶を目前にして、悲嘆にくれる娘のお千絵を見かねて、二人の男が阿波渡海をはかった。だが夜魔昼魔、お十夜孫兵衛、見返りお綱が二人の邪魔に入る。講談社創業80周年記念出版。
冷厳な隠密の掟ゆえに、お千絵と弥之丞の恋は許されようもない。といって、お千絵に執拗につきまとう旅川周馬の邪恋は迷惑至極。弦之丞も家を捨て恋を捨て、一管の竹に漂泊の旅を重ねるが、お千絵への思いはきっぱり絶っているだろうか。その弦之丞に隠密の命令が下る。阿波二十五万石の存立にかかわる大仕事が!無論、阿波藩士が手を拱いて待っている訳がない。弦之丞を取巻く蜘蛛手の網。講談社創業80周年記念出版。
日本のなかば以上を所領した平家が、いま寸士も失って、水鳥の如く波間に漂う。思えば、入道清盛逝きて、わずか4年後の悲運である。最後の夢を彦島のとりでに託して、一門の船団は西へ西へと向う。史上名高い那須余一の扇の的、義経の弓流しなど、源氏がわの武勇をたたえる挿話のみが多い屋島の合戦。著者は眼を転じて、追われる平家の厳島祈願に込められた、惻々たる心情に迫る。講談社創業80周年記念出版。