1989年発売
昭和23年、18歳の春、旧制松山高校の学生だった私は、一人の女と出会い、血気にまかせて予期せぬ道を走り出した。女は、道後松ヶ枝町の遊廓の娼婦・イチ子。私は、イチ子の背中の刺青に合わせて、“夫婦彫り”をしたのだ…。敗戦直後の混乱期、四国・松山を舞台にくりひろげられる“巷の天才・英雄たち”の青春。おもしろうて、やがてかなしき無頼の日々を綴る自伝的長編小説。
朝倉利奈は短大卒、失業中、1Kのおんぼろアパート住まいーごくフツーの女の子に、ある日、突然、舞い込んできた夢のような話。その仕事とは、ニューヨークに住んで、ミュージカル、映画などのショウビジネスの情報を日本に送るというもの。信用しても大丈夫かな?でも本当にニューヨークにいけるなら…。20歳の女の子の〈冒険〉を通して、現代の表層と深層を軽やかに描く長編。
正月に帰省した槙子は、生家が取壊され、テナントビルにされると聞かされた。胡桃の油で磨かれ黒光りする柱を眺め、柱に染みこんだ代々の女たちの思いを思うと、槙子は不意に自分の家を建てたい衝動にかられるのだった。女と家の共生関係を描いた表題作、学生時代の友人への複雑な感情を扱った「女ともだち」、煙草と男への拘りを語る「シガレット・ライフ」など4編を収めた短編集。
二重スパイ・ハートマンは、もう引退したかった。病床の妻は死に、息子は独立した。金のための嫌な仕事をする必要はない。そろそろ老いも感じる。しかし、あまりに卓越したその経歴のため、二大国の情報部は決して彼を自由にしてくれなかった。だが、ついにチャンスが訪れた。彼の身代りになってくれそうな男を見つけたのだ。人並みの幸せを夢みたスパイが立てた完壁な作戦とは?
ベルリンの富裕な銀行家の子として生まれたペーターとパウリのヴィンター兄弟は、若くして第一次世界大戦に従軍する。だが、過酷な戦争が終わった時、彼らが忠誠を誓った皇帝は退位し、第一級の強国だったはずのドイツ帝国は崩壊した。社会主義革命の暴動、大インフレの中、ヒトラーのナチが登場し台頭していく。-20世紀前半のドイツを舞台に、二人とその家族の波瀾の生涯を描く。
父の事業を継いだペーターの妻はユダヤ系アメリカ人だった。ナチに逮捕された彼女の釈放をかちとるべくペーターはアメリカへ渡る。一方パウリは父の庇護を失い、ゲシュタポの弁護士となった。第二次世界大戦が勃発し、ペーターは連合軍情報部の連絡員となって故国に潜入する。-とうとうたる歴史の流れを克明に辿りながら、揺れ動く時代に生きた人びとの姿を重厚に描く長編小説。
天の川のように人は流れ、時は流れる。別れた夫も難問にぶつかっている。性のざわめき、体の不調が私を襲う。あの頃は二人で居る孤独、今は一人で居る孤独の中に日々は過ぎてゆく。女性のシングル・ライフをつみめる長編小説。
かつては中世ボヘミアの王、いまはアインシュタインの友人。この男、名はアロバー、当年とって、千歳という。不老不死の甘き香りを求めて、男は旅立った。流れ流れて一千年。辿り着いたのは、二十世紀末のニュー・オーリーンズだった。同じ頃、シアトル在住の美人ウェイトレスのもとに、真っ赤なビートが届けられる。いったい誰が、何のために?鍵を握る究極の香水、K23とは。
ぼくはもう、こんな両親のもとでは一時間も暮せない。本当に理解しあえる両親を求めて、自由契約裁判を起したケース。テキサス、ハワイ、アラスカ、ニューヨークと契約養子を願う“理想的な親”のもとを訪ねて歩くが…もしもあなたが父親なら、子供に「ノースするぞ」といわれた要注意!この物語は、そんな親子の物語。
秋も深まってきた10月のある朝、ふだん静かなフラトロラム村が興奮につつまれた。パブ栗駒亭に泊っていたアメリカ人旅行者が刺殺体となって発見されたのだ!昼は村の便利屋、夜は密猟者という二つの顔を持つダン・マレットは、犯行のあった晩、新任司祭の就任式でこのアメリカ人を目撃していた。そして、新任司祭の若妻サンドラがこの男を見たときの苦渋の表情も、式のあとで彼女がこっそりパブへ忍んでいった姿も…。“殺人”だけでも珍しいのに“アメリカ人”というおまけまでついて、パブでの噂話はいやがうえにも盛り上がった。一方、怯えるサンドラの姿に同情したダンが、警察の目を彼女からそらせようと、容疑者になりそうな村人を片っ端から犯人に仕立ててはその推理をパブで流していったため、村は容疑者だらけに!自由と自然を愛するアウトドア探偵ダン・マレットの活躍を描く、英国流ユーモアただようシリーズ最新作。
突然姿を消したコラムニストのバリーの行方を突き止めてくれ-ニューズ社から私立探偵エイモス・ウォーカーにこんな依頼が舞いこんだのは、彼とバリーがヴェトナム時代からの親友だからだった。まずウォーカーはバリーのオフィスを調べ、埋め草記事を集めたマニラ・フェルダーを発見した。空港に駐車された車のトランクから発見された死体、地元の労働組合の委員長の二年前の死亡記事、デトロイト市警の警視の早期退職の記事…。これら雑多な記事のなかにバリーの行方を示唆するものが含まれているのではないかと考えたウォーカーが詳細を知ろうと動きだした矢先、記事にでていた警視が自殺した。はたして、これらの記事の裏には、どんな繋がりが隠されているのか?そして、バリーの失踪はそれにどう関わっているのか?正統派ハードボイルドの伝統を受け継いだ、タフなデトロイトの私立探偵エイモス・ウォーカー再登場。