1989年発売
ランボオ、ヴァレリー、ベルグソン、プルースト、サルトル。著者の炯眼は夙く、孤高に屹立するこれら偉大な単独者たちの言説をつらぬく一筋の潜流に着目し、その系譜を書き上げたー本書である。初め著者だけの孤独な確信に止まっていた潜流は、やがて、現代思想の最も豊かな源泉として地表に湧き出でた。著者の類稀まれな先見と創見は、こうして、最先端の諸問題とリアルタイムの直結を果たしたのである。
若き乱歩賞作家が挑むスリル満点の伝奇SF。“D”とはドッペルゲンガー、分身のことである。自分とそっくりの容貌を持つ正体不明の存在だ。満月の前後、自分のDと遭遇した者のほとんどは自殺してしまう。Dの秘密を解く鍵は月にあるのか?人類を自殺により滅ぼそうとしている侵略者の正体は?冬の大雪山を血に染める壮絶な死闘と超能力美少女の謎。長編伝奇アクション。
砲声絶えぬベイルートの市街に姿を現わした戦士・矢沢高雄は、瓦礫の上でかつての戦友、ジェリー・キーズと再会。地獄の街で殺される寸前の女を助けたことから、東西ベイルートを牛耳る闇の実力者イブラヒムが仕掛ける巨大な陰謀と恐るべき軍団を相手に戦うことになった。ファントム戦士伝説最後の戦い。
親友の不可解な転落死の謎を探るため、母校を訪れた高梨洋子に、名門「聖マリア女子学園」のガードは固かった。だが洋子のひたむきな探究の前に次々と異様な事実が浮び上る。月の13日ごとに起こる儀式めいた動物たちの死、黒い聖母の徘徊、そして第二の死。本年度サントリーミステリー大賞読者賞受賞第一作。書下ろし新本格推理。
紀貫之の歌が奇妙な連続殺人の始まりだった。一人はバネ仕掛けの巨大な罠で逆さ吊り。一人は空中から河原に落下。そして死体のそばには百人一首の札。土地開発の嵐で孤立した名門・山王家の人々に次次と届く百人一相の札は、殺人開始の合図だったのか。若くして隠棲した名ハムレット役者、未知雄の招きで村を訪れた舞台俳優、多岐の過酷な推理行が始まった。書下ろし新本格推理。
野に伏す獣の野性をもって孤剣を磨いた武蔵が、剣の精進、魂の求道を通して、鏡のように澄明な境地へと悟達してゆく道程を描く、畢生の代表作。-若い功名心に燃えて関ケ原の合戦にのぞんだ武蔵と又八は、敗軍の兵として落ちのびる途中、お甲・朱実母子の世話になる。それから1年、又八の母お杉と許嫁のお通が、二人の安否を気づかっている郷里の作州宮本村へ、武蔵は一人で帰ってきた。
沢庵のあたたかい計らいで、武蔵は剣の修行に専念することを得た。可憐なお通を突き放してまで、彼が求めた剣の道とは…。だが、京畿に剣名高い吉岡一門の腐敗ぶり。大和の宝蔵院で味わった敗北感、剣の王城を自負する柳生の庄で身に沁みた挫折感。武蔵の行く手は厳しさを増す。一方、又八は堕ちてしまい、偶然手に入れた印可目録から、佐々木小次郎を名乗ったりする。
大作「新書太閤記」の一大分脈を成すのが本書である。秀吉といえども、独力では天下を取れなかった。前半は竹中半兵衛の智力を恃り、後半は黒田如水を懐刀とした。如水は時勢を見ぬく確かな眼をもっており、毛利の勢力下にありながら、織田の天下を主張。また、荒木村重の奸計に陥り、伊丹城地下牢での幽囚生活を余儀なくされながら、見事に耐えぬく。-若き日の如水を格調高く描く佳品。
徳川家康の第六子である松平上総介忠輝は生まれたとき色あくまで黒く、まなじり逆さに裂けていた。長じた忠輝は「騎射人にすぐれ、両腕にうろこがあり、水泳神に通じ、剣術絶倫、化現の人なり」といわれ、二十五歳で配流され、九十二歳まで生きた。まさに異能の人である。この人物がなぜ流され、秀忠・家光・家綱・綱吉の四代の将軍のもとで、なぜ許されることがなかったか、今日でも謎である。
その人妻はバーボンに似ていた。甘さに気を許すと手ひどい目に合う。彼女は涙を見せたあとで死んだ。女子大生はバイクの風切り音を思わせる。興奮のるつぼの中で、勝手に歌を口ずさむ。彼女は一緒に探偵をしてくれた。男は60年代の映画だ。泣き虫のくせに他人を傷つける。そいつは殺人者という名前だった。-ウィットあふれる会話と繊細な構成、哀しいジャズの旋律に乗せて、新感覚ハードボイルドの世界が拓ける!