1989年発売
私が関東平野で生まれ育ったせいであろうか、地面というものは平らなものだと思ってしまっているようなところがあるー「門の前の青春」。亡くなった叔父が、頻々と私のところを訊ねてくるようになったー「墓」。独自の性癖と感性、幻想が醸す妖しの世界を清冽に描き泉鏡花賞を受賞した、世評高い連作短篇。
大学時代の同人誌仲間・阿部からの誘いに応じ、矢代と妻の由紀は原田とそのフィアンセとともに、五年ぶりに水戸を訪れた。意外にも阿部は、やはり同人だった木下みどりと結婚していた。東北の温泉巡りをかねた旅が飯坂、天童とすすむにつれ、なぜか仲間が殺されてゆく。卒業後五年の歳月はそれぞれに何をもたらしたのか?
友と学園に別れを告げ、日本脱出をした大学生「私」と、イングランドのファーム・キャンプに集う季節労働者たちとの出会い。“リンゴ園”に汗する日々のなかで熱い議論と友情が育まれ、愛が生まれた。人と国家の哀しい現実を描く、青春コンモポリタン・ストーリー。
たった一人で希望の実を植え続け、荒れ地から森を蘇えらせた孤高の人。ひたすら無私に、しかも何の見返りも求めず、荘厳ともいえるこの仕事を成しとげた老農夫、エルゼアール・ブフィエの高潔な魂が、読む人の胸をうつ。
学問・芸術が絢らんたる花々を咲かせた「精神の世界都市」ウィーン。文学界にはシュニッツラーやホフマンスタールなど、いずれも一筋縄では行かぬ文人たちが輩出し才を競いあった。その多彩な世界を一望し、特異な精神風土を浮び上がらせる待望のアンソロジー。
長崎の一流ホテルで若い男が殺害された。警察は犯行現場の宿泊客“田中一郎・和子”を追ったが2人の行方は杳としてつかめなかった。やがて、被害者はパチンコ店従業員・野山宇一と判明。しかも野山は半年前、和子らしい女が勤めていた長崎のスナックの客であったこともわかった。この事件に興味を持ったルポライター・浦上伸介は地元タウン紙記者から、野山が“女を殺したらしい”と漏らしてしたという興味深い情報を得た…。被害者野山は、誰を殺したのか?そして、なぜ、誰に殺されたのか?不可能を可能にする大胆なトリックを駆使して贈るトラベルミステリー『北の旅殺意の雫石』に続く傑作第2弾。
ブラジル奥地の街スエラで夏休みを過ごしていた18歳の毬男は、元ヤクザの水田耕介からとてつもない仕事をもちかけられた。砂金盗掘団の飛行艇を爆破し、莫大な懸賞金を稼ごうというのだ。こうして奇妙な冒険行は開始され、やがて原住民が“夜、光る河”と呼ぶ黄金の地に2人は辿りついた。夜陰に乗じて奇襲をかける水田と毬男。手榴弾攻撃によって飛行艇は炎上し、すべては計画どおりに運んだかにみえたが、これが毬男にとって、忌わしい悪夢の始まりとなった…。長編冒険小説。
うんたまぎるー参上。重力のくびきを脱し、夢と現実、善と悪の境を自由にまたぐ沖縄伝承の義賊。ときは幕末、沖にペリーの黒船が寄せ、宣教師ペッテルハイムの聖書と天文学が琉球古来のコスモロジーをゆるがす。世界史の実験場、驚天動地の舞台だ。さあ、活劇が始まるぞ。床屋のテルリン、娼妓のチルー、はては豚からノミの目まで、カメラ・アイを移動する語りのSFX。
裕福な家庭に育ったアンネットは、父の死後、異母妹シルヴィを知り、親しくなる。一方、破産を宣言され、恋人ロジェとも別れる。そして、彼との間に生れたマルクの母としてのたたかいの日が始まる。一次大戦前後のパリに生きる一人の女性を描く大河小説。
最愛の息子にも母の熱烈な愛は理解されない。第一次世界大戦が始まり、アンネットは男子中学の教師として地方へ。母の愛情と権威への屈服を拒むマルクは、不安、恐怖、汚辱の巷パリに残る。一方、シルヴィは娘を不慮の事故で、夫を戦争で失う。
愛しながら傷つけあっていた母と子は、遠くはなれてかえって互いの真の姿を発見する。戦争は終わり、マルクは勉学に革命運動に全力をあげてつきすすみ、アンネットは戦後の頽廃と混乱の中で生活の資を得るために奔走する。
アンネットは一新聞社の社長秘書となり資本主義下の政治・経済社会の虚偽を知るが、マルクは母親の仕事に反感を持ち一時遠ざかる。亡命ロシア人の娘アーシャと結婚したマルクは、ふとした妻の過ちから別居したものの、再び強く結ばれ、反ファシズム活動へ。
家族とともに旅立ったマルクは、イタリアで暴漢に襲われた老人を救おうとして殺される。アンネットは息子と同じ道を進む決心をして悲しみの底から立ち上がる。…現代の女性の生き方にも大きな示唆を与えるロマン・ロラン(1866-1944)不朽の名作。