著者 : 岸本佐知子
近所の木に身も世もなく恋をする「五月」、地下鉄駅構内で死神とすれちがう「生きるということ」、他人に見えないバグパイプの楽隊につきまとわれる「スコットランドのラブソング」、恋人がベッドの中で唐突に浮気を告白する「信じてほしい」、クリスマスイブの夜、三人の酔っぱらい女が教会のミサに乱入する「物語の温度」…。重層的な物語に身をゆだね、言葉の戯れを愉しむうちに、思いがけない場所に到達する12の短篇集。
『分解する』『ほとんど記憶のない女』につづく、「アメリカ文学の静かな巨人」の三作目の短編集。内容もジャンルも形式も長さも何もかもが多様なまま自在に紡がれる言葉たちは、軽やかに、鋭敏に「小説」の結構を越えていく。作家が触れた本から生まれたミニマルな表題作「サミュエル・ジョンソンが怒っている」をはじめ、肌身離さず作家が持ち歩くという「小さな黒いノート」から立ち現れたとおぼしき作品など、鋭くも愛おしい56編を収録。
「アメリカ文学の静かな巨人」のデビュー短編集。言葉と自在に戯れるデイヴィスの作風はすでに顕在。小説、伝記、詩、寓話、回想録、エッセイ…長さもスタイルも多様、つねに意識的で批評的な全34編。ある女との短命に終わった情事を、男が費用対効果という観点から総括しようとする表題作「分解する」をはじめ、長編『話の終わり』の原型とおぼしきファン必読の短編も。
「端っこの変なところ」を偏愛する2人の翻訳家が、新たに発見した、めっぽう面白くて、ちょっと“変”な作家たち。心躍る“掘り出し物”だけを厳選したアンソロジー。対談「競訳余話」も収録。
愛する長女のために素敵な誕生パーティを開こうと格闘する父親(「センプリカ・ガール日記」)、人間モルモットとして感覚を増幅する薬を投与される若者たち(「スパイダーヘッドからの脱出」)、中世テーマパークで働き、薬の力で思考も語彙も騎士となる男(「わが騎士道、轟沈せり」)、戦地から帰還して暗い暴力の衝動を膨れ上がらせる若き元軍人(「ホーム」)…ダメ人間たちが下降のはてに意外な気高さに輝く、現代アメリカ最重要作家の傑作短篇集。
毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための手引き書」)。夜明けにふるえる足で酒を買いに行くアルコール依存症のシングルマザー(「どうにもならない」)。刑務所で囚人たちに創作を教える女性教師(「さあ土曜日だ」)。自身の人生に根ざして紡ぎ出された奇跡の文学。死後十年を経て「再発見」された作家のはじめての邦訳作品集。
43歳独身のシェリルは職場の年上男に片想いしながら、孤独な箱庭的小宇宙からなる快適生活を謳歌。9歳のときに出会い生き別れとなった運命の赤ん坊、クベルコ・ボンディとの再会を夢みる妄想がちな日々は、上司の娘が転がり込んできたことにより一変。衛生観念ゼロ、美人で巨乳で足の臭い20歳のクリーだ。水と油のふたりの共同生活が臨界点をむかえたときー。幾重にもからみあった人々の網の目がこの世に紡ぎだした奇跡。ミランダ・ジュライ、待望の初長篇。
動物由来の細胞からヒトが生まれる世界、藁でできている優しい夫、男女三人で行う「正しいセックス」…。こんなラブストーリー、読んだことない!豪華執筆陣が、奇妙で純粋で狂おしい愛のかたちを綴った11の物語。エッセイストとしても知られる人気翻訳者が編んだ伝説のアンソロジー、待望の日本版!
「モリーに宇宙服が出はじめたのは春だった」-肌が宇宙服に変わって飛んでいってしまう人々、恋人に贈られた手編みセーターの中で迷子になる男、自分の寝言を録音しようとした男が耳にする知らない男女の会話…。とびきり奇妙だけれど優しく切ない、奇想に充ち満ちた短編集。2001年度フィリップ・K・ディック賞候補作の33編に、本邦初訳の短編1編を追加した、待望の文庫化。
天才作家エドウィン・マルハウスは、傑作『まんが』を遺して11歳で夭折した。誕生から彼を見つめつづけた親友ジェフリーは、その評伝を残して姿を消す。捨てられた遊園地、マンガ、アニメ映画、ローズへの恋…。ダークで濃密なコドモの世界を、幾重もの仕掛けとともに描いた傑作長篇。
「読む」とは、どういうことか。何をもって、「読んだ」と言えるのか。ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことがない四人が、果敢かつ無謀に挑んだ「読まない」読書会。
まぶたを縫い合わせた時点で手順を忘れた二人を描くB・エヴンソン「ヘベはジャリを殺す」。二の腕の紋章のようなものの記憶をめぐるA・カヴァン「あざ」。その他、J・C・オーツ、K・カルファスなど短篇の名手たちによる12の物語。妄想、悪夢、恐怖、幻想、不安など、短篇アンソロジー。