2019年12月12日発売
大阪の下町、玉出の銭湯に居候する駆け出しの落語家・甘夏。彼女の師匠はある日、一切の連絡を絶って失踪した。師匠不在の中、一門を守り、師匠を待つことを決めた甘夏と二人の兄弟子。一門のゴシップを楽しむ野次馬、女性落語家への偏見ー。苦境を打開するため、甘夏は自身が住んでいる銭湯で、深夜「師匠、死んじゃったかもしれない寄席」を行うことを思いつく。寄席にはそれぞれに事情を抱える人々が集まってきてー。
父は亡くなる直前、雨降る病院の庭をなぜ靴を脱ぎ歩いたのか?(『はだしの親父』)。自殺志願の少年の命を救った優しいホームレスは殺人者だった!?(『神様の思惑』)。大金が必要となった青年は母を騙して、父の形見である絵画を狙うが(『タトウの伝言』)。リストラ中年と迷い犬の新生活は、奇妙な出来事ばかりの日々で(『我が家の序列』)。25年も男を苦しめた母の一言。しかし記憶を辿るとある違和感が(『言霊の亡霊』)。美しく、泣ける家族ミステリー。
前巻で、主人公・前田永造と『別れる理由』の作者が電話で延々と語り合うシーンが描かれたかと思えば、場面は急に作者が出席したパーティ会場に移る。そこには永造のほか、藤枝静男、柄谷行人、大庭みな子といった実在する小説家、評論家たちがおり、愛と性、文学、哲学などについてのとりとめもない会話が展開される。挙げ句、連載されていた雑誌「群像」の編集長が作者に話を早く進めるよう促すなか、「『月山』の作者」という人物(森敦)が登場し、物語はいよいよクライマックスへ。第38回日本芸術院賞、第35回野間文芸賞を受賞した小島信夫“執念の大作”最終刊。
1945年8月、広島と長崎に原爆が投下され、その直後に迎えた敗戦。GHQ占領下の卑屈な統治時代を、市井の人たちがどのように生き抜いたのか、ある海軍中将一家の目線で描く。未亡人となり家財総てを失った中将夫人、米軍人に求婚される長女、原爆被害で恋人と離ればなれになってしまった長男、その長男を想いながらも米兵に身をゆだねてしまう恋人…。戦勝国・アメリカを呪いながら、その助けなしには生きていけない日本人の哀切と、それでも新時代に向けて歩みを始める強さを、心の奥底を揺さぶる独特な筆致で綴った秀作。
愛する長女のために素敵な誕生パーティを開こうと格闘する父親(「センプリカ・ガール日記」)、人間モルモットとして感覚を増幅する薬を投与される若者たち(「スパイダーヘッドからの脱出」)、中世テーマパークで働き、薬の力で思考も語彙も騎士となる男(「わが騎士道、轟沈せり」)、戦地から帰還して暗い暴力の衝動を膨れ上がらせる若き元軍人(「ホーム」)…ダメ人間たちが下降のはてに意外な気高さに輝く、現代アメリカ最重要作家の傑作短篇集。
一九三八年十月ー。外務書記生・棚倉慎はポーランドの日本大使館に着任。ナチス・ドイツが周辺国へ侵攻の姿勢を見せ、緊張が高まる中、慎はかつて日本を経由し祖国へ帰ったポーランド孤児たちが作った極東青年会と協力、戦争回避に向け奔走する。だが、戦争は勃発、幼き日のポーランド人との思い出を胸に抱く慎は、とある決意を固め…。著者渾身の大作、待望の文庫化!
警察官僚入江の娘が誘拐された。鳴海署の佐脇は歴代の部下を呼集し、極秘捜査に当たる。同じ頃、管内で猥褻行為に及んだ男が“上級国民”と判明。署は逮捕せず、男を監視下に置いた。「鳴海署を、ぶっ壊す!」警察の腐敗を弾劾する声が上がり、民衆が鳴海署を取り囲む。そして入江の秘書が不審死を遂げ…。警察庁幹部まで上り詰めた入江と万年巡査長佐脇、因縁の結末は!?
唐木市兵衛に返り討ちにされた刺客の一族が、復讐を誓い市兵衛の身辺探索を始めた。一方、大坂に情が移り江戸への出立を渋る小春を、亡姉の親友お茂が訪ねてきた。幼馴染みが辻斬りに遭い、生死の境をさ迷っているという。犯人捜しを始めた市兵衛だったが、己れの居場所を刺客に突き止められてしまう。良一郎らを先に発たせた市兵衛は、自ら死の罠に飛び込み…。
時は天保。新南町奉行・鳥居耀蔵により閑職に追いやられた元定町廻りの腕利き同心・仙波直次郎は、妻の薬料にも事欠き、日々を無為に過ごしていた。金で人の怨みを晴らすという『闇の殺し人』のひとり、軽業一座出身の小夜に誘われ仲間となった直次郎は、元締め“無用之人”寺門静軒や繩鏃遣いの万蔵らと、江戸に跋扈する腐った悪を、心抜流居合術で一刀両断する。
鳥居耀蔵の策謀によって、桑名藩に永預けとなった元南町奉行矢部定謙は、抗議の断食で死んだーはずだった。遺体として運ばれた寺で奇跡的に息を吹き返すも、墓だけでなく祠まで建てられ、神として祀られた定謙には、出家して別人として生きるしか道はない。修行の道中、悪政に苦しむ民の姿を見てしまった定謙は、「幽霊」として民を救おうと決意するが…。
拉致した女性の体の一部を家族に送り付け楽しむ、醜悪な殺人者。突然、様子のおかしくなった高校生のひとり娘。全ては自らが過去に犯した罪の報いなのかー!?推理作家協会賞受賞作家が、人間の悪を描き切った驚愕のミステリー!
亡き夫との思い出の地、ニューヨークに降り立ったマーサ。白タクに乗った田舎者の老女に運転手は高値を吹っかけようとする/「ホワイト・キャブ」。古書店店主のアンソニーは、地上げで閉店するグリーンマーケットの店主のためにあることを計画。奇跡のような一夜が待っていた/「ピクルス」。拾ったカモを公園の池に戻すため、少年たちが知恵を絞って小さな冒険に出発する/「C・P・D」。著者が馴染み深いニューヨークの街を舞台にした、円熟の筆冴え渡る六編。
陸上200m走でオリンピックを狙うアスリート・市ノ瀬沙良を悲劇が襲った。交通事故に巻きこまれ、左足を切断したのだ。加害者である相楽泰輔は幼馴染みであり、沙良は憎悪とやりきれなさでもがき苦しむ。ところが、泰輔は何者かに殺害され、5000万円もの保険金が支払われた。動機を持つ沙良には犯行が不可能であり、捜査にあたる警視庁の犬養刑事は頭を抱える。事件の陰には悪名高い御子紫弁護士の姿がちらつくがー。
夢見がちで泣き虫な成屋詩織はひと一倍“センチ”な女子高生。ある日、ボーイフレンドとのデート中に強盗事件に巻き込まれてしまう。身の上話を聞いているうちに、強盗に同情し放っておけなくなった詩織は、彼の妻・啓子と赤ん坊を引き取ることに。しかし啓子は暴力団の娘だったことが判明し、大騒動!長編ユーモア・ミステリー。
“アカツキ強盗団”として昭和の犯罪史を彩った五郎、幹雄、誠の3人も、今や後期高齢者に突入し、神保町で喫茶店を営む悠々自適の日々。だが、幹雄の大甥・飛露喜に泣き落とされて現役復帰を決意する。狙うは現金輸送車の強奪。3人は知恵と経験を武器にハイテク警備に挑む。一方、定年後の日々を持てあます元刑事の小栗忠正は、ふとしたことから神保町の喫茶アカツキに注目。3人組の監視を始める。かつてプロフェッショナルとして生きた矜持を胸に着々と計画を進めていく“爺”たち。そして、遂に決行の日がやってきたー。痛快ユーモア犯罪小説。
ホテル櫻葉に、元々は座敷童だった露明という女性がやってきた。露明は妖怪の男と出会って夫婦となるまで、ずっとホテル櫻葉で働いていたが、この度めでたく赤ちゃんが誕生。生まれたばかりの赤子を見せに、わざわざホテルを訪ねてきたのだという。露明の赤ちゃんのあまりの可愛らしさに、永遠子はもちろん、時町見初や椿木冬緒もメロメロになってしまう。しかし、座敷童の赤子を狙う妖怪に目を付けられてしまい…。笑って泣けるあやかしドラマ、待望の第七弾!
動物看護士の優生が病院から忽然と姿を消した。ただただオロオロとする亜希。そんな亜希を心配して手伝いに来ていた手塚だが、見知らぬ女性から鳥かごを預かる。中には、優生が可愛がっていたオカメインコのぴよ次がいた。数日後、亜希と手塚は優生の家を訪ねてみるが、そこには飼っている動物たちの姿も見られない。失踪は計画的なものだったのか?そんなある日、フランスにいるはずの祖父から、消印のないハガキが届くー不思議な力を持つ獣医と動物たちを描いた、人気シリーズ第4弾!
還暦間際に妻と一人息子を航空機事故で亡くして6年。ある晩、葉加瀬一郎は、ふらりと入った不思議なバーで悪魔メフィストから自身の寿命を告げられる。しかし、自慢じゃないが一郎は、これまで亡き妻ひと筋。このまま他の女を知らずに死んでも死にきれない。懇願する一郎に、メフィストはある提案をする。それは、この世に未練を残す彷徨える魂を身に宿し、彼らが思いを寄せる5人の女たちとセックスするということ。悪魔との契約書にサインした一郎は、かくして性の終活に向けて走り出す。エロスとタナトスが交錯する昇天必至の傑作官能。