1990年9月1日発売
幕府小姓番頭という職を失脚し、絵師となった朝霞桔梗之介は、再び拓かれようとしていた武士の道を拒絶して、芭蕉が辿った奥の細道へ絵修業の旅に出る。景観を画布におさめる道すがら、偶然出会う妖しい女との困果で一刻たわむれ、経路を外れることしばしの道中であった。しかも、次々と行く手に現われる悪党に時の政治の腐敗を垣間見る桔梗之介は、自らの掟に従い、眼前に群がる悪を一刀両断に斬り捨てていくー。
110番通報で文京区千駄木のマンションへ急行した警視庁捜査1課・田丸警部は、衝撃をうけた。若い女性が、全裸で両手を縛られ、片足に赤いハイヒールをはいて首を吊っていた。受話器が放り出されている。田丸が拾うと、電話は繋がっていて転井沢署の刑事が出た。なんとその場所も首吊り現場だった。しかも、被害者は全裸で両手を縛られ片足にブーツをはいた若い男性だった。精神科医・氷室想介が、巧妙に仕組まれた完全犯罪、同一犯人による、東京-軽井沢同時首吊り殺人に挑む。抜群のテンポ、絶妙のストーリー展開、あふれる新感覚。度肝を抜く大トリック、推理界期待の大型新鋭が世に問う書下ろし新本格推理傑作。
杉原爽香、十七歳の冬。爽香の中学時代の恩師安西布子と河村刑事は、美術館で久々のデート。彫刻が置かれた庭で河村が意を決して布子にプロポーズをしたとたん、ずぶ濡れの若い女性が助けを求めてきた。何者かに池へ突き落とされたその女の手には、亜麻色のジャケットが…。長編青春ミステリー。
玉井タマ子は12歳を頭に3歳まで、5人の子を抱えて未亡人に。スーパーはえぬきの夫が、社長の妾だった経理部長と心中?「そんな馬鹿な!」タマ子は胆っ玉母さんだ。「ファミリーが団結すれば、真相を暴けるし、どんな強敵も斃せる」と誓う。葬儀屋で生計を立てた。10年後、子どもらは成長。さて一家の社長撃滅大作戦とは?
「中南米の麻薬組織による、コカインの日本持ち込みを阻止せよ」海原首相は特殊部隊の砦洋介に命じた。砦はまずコロンビアのコカイン地帯へ飛び、米軍特殊部隊と協力して、コカの葉絶滅作戦を開始。部隊の面々も日本へ向かう謎の貨客船を追跡した…。麻薬をめぐる政治、経済、軍事問題を、豊富なデータと綿密な取材で描く。
画家・小塩正彦の最高傑作である春画を探してほしいー。カウンセラーにして秘密捜査官の顔をもつ赤垣美晴は、群馬県川場村へ。そこで彼女は、二十年前に小塩が自殺し、絵のモデルをした三人の女性もことごとく殺されている意外な事実に出会う…。性と官能の深淵に鋭くメスを入れた好評“赤い闇の未亡人”シリーズ。
1992年6月、エルサルバドルで過激派が米海軍の最新型核ミサイル・トライデント2Aを略奪。協調路線をとる米ソにとって、この一件は、新デタント崩壊の引き金ともなりかねない。隠密裡に事件の処理にあたる米政府に対し、ソ連首脳はGRUの女工作員を米本土に潜入させ、真相究明にあたる…。-大物スパイと名女優の間に生まれた美貌のスパイ・アーニャをめぐる裏切りと陰謀。事件の背後にリビアの影とソ連上層部の確執が…。
そいつは、とうとうやって来た!それは人か魔物か。刑事の露無は、北海道の知床で物の怪に襲われた。魔物が住む世界へ行かぬかぎり、死が待っている…。物の怪の国への扉を開け!露無もまた魔人と化した-。
ライターとして駆け出しのジェシーにかつての無声映画の大スター、メルセデスの伝記を書くというチャンスが巡ってきた。そかし、メルセデスが出した条件は、ハリウッドきってのセクシーシンボルであるカム・ホールダーの家のバラ園に灰をまいてくる-という奇妙なものだった。そのために彼の邸宅に忍び込んだジェシー。ところが番犬にほえたてられアボカドの木にのぼって難を逃れる始末。と、犬を呼ぶ声がした。あれが、カム・ホールダー…。ジェシーは黒髪の男をじっと見つめたままその男らしさに声も出なかった。
カリフォルニアの山岳地帯-。動物保護施設の創設者ケンドールは、体の弱った動物をできるだけ自然に近い所で育て野性に帰す仕事をしていた。ある日、アメリカンライオン、クーガが険しい山の中にまよいこんでしまった。人の手で育てられたクーガは野生では生きられない。捕獲し、保護しなければならない。しかし、それには日頃動物を傷つけるとし敵対している名うてのハンター、チャズ・ドルトンに頼むしかない。ケンドールは勇気を振り絞って山小屋の戸をたたいた。
カニュエラは病弱な母とふたり、ロンドンの片田舎で人目を避け、暮らしていた。外交官の父は国家機密漏洩の疑惑をかけられ職を追われ、失意のうちに自殺してしまった。カニュエラは父の冤罪をはらすことを望みながら、生活を支えるため、秘書の職に就いた。ところが彼女を雇ったのは、偶然にも、父を罠にかけたラモン・デ・ロペスだった。深い恨みを胸に秘め、素姓を隠して働くカニュエラにロペスはアルゼンチンでの仕事を命じた。思い出と屈辱の、あのブエノスアイレスで…。
町を出た少年が迷い込んだのは、ゴーストでいっぱいのジャングルだった。耐えられぬ悪臭を放つもの、奇妙なかたちをして不思議なしぐさをするもの…。ヨルバ族に先祖から伝わる物語をふまえて、ドラム・ビートに乗せて紡ぎ出される幻想の世界。ナイジェリアに伝わる伝説をもとに紡ぎ出された幻想文学。『やし酒飲み』に続き西欧合理社会に衝撃を与えた傑作。
おとぎ話の世界には、古くからのいろんなきまりごとがある。たとえば…悪いドラゴンはセント・ジョージに滅ぼされるはず。良い娘は妖精から贈り物がもらえるはず。魔法をかけられた王女は王子に救われるはず…。ところがそんな“はず”をすべてはずして、思いがけない展開をみせるおとぎ話もある。イギリス・ヴィクトリア朝のひと味違う秀作をまとめた、文庫オリジナル版の楽しいフェアリーテール集。挿絵も多数収録。