1992年12月1日発売
小川家は、郊外の分譲地にあった。駅まで歩いて20分。スーパーも自動販売機もない。週一回はひどい霧にすっぽり包まれるという寂しいところ。だから隣りに宮沢家が引っ越してきたときには、大歓迎だった。しかし、どうした偶然の一致か、宮沢家と小川家の家族構成は、各人の年齢までピタリ同じだった。平凡な家庭に起こる戦慄の事件。超人気作家が描く新恐怖小説。
夏目涼太郎は六本木に生まれ、家業である銭湯の番台で女の裸を見ながら育った。美大生の彼は、アルバイトで始めたヌード・カメラマンの仕事が忙しく現在は休学中の身だ。悪友の岩田は、家業の魚屋を嫌って何やら怪しげなカフェバーを始めた。地元育ちの若者と多国からの出稼ぎモデルが繰り広げる、恋とスリルとウイットたっぷりの『六本木バナナ・ボーイズ』第二弾。
骨肉相食む戦国の世、島津家は親子兄弟が堅固な団結力をもって、薩摩・大隅・日向、やがては九州全土の征服を目指した。20歳の初陣で大勝した義弘は、輝かしい武名を残すが、関ケ原の合戦に敗れ、家康陣の前を敵中突破、“島津の早駈け”で名を挙げた。兄義久と協力して、薩摩藩の繁栄の礎を築く。南国の猛将の生涯を通して、島津一族の絆を描いた長編力作。
三十五万石彦根藩主の子ではあるが、十四番目の末子だった井伊直弼は、わが身を埋木に擬し、住まいも「埋木舎」と称していた。「政治嫌い」を標榜しつつも、一代の才子長野主膳との親交を通して、曇りのない目で時代を見据えていた。しかし、絶世の美女たか女との出会い、それに思いがけず井伊家を継ぎ、幕府の要職に就くや、直弼の運命は急転していった…。
なぜ、広い世界に目を向けようとしないのか?-米国総領事ハリスの嘆きは、同時に井伊直弼の嘆きでもあった。もはや世界の趨勢を止めることはできない。徒らに攘夷を叫ぶことは、日本国自体を滅亡させることだった…。腹臣長野主膳、それに直弼の密偵として、また生涯を賭して愛を捧げたたか女を配し、維新前夜に生きた直弼の波瀾の生涯を描く、不朽の名作。
「天下の英雄」か「侵略の鬼か」-。加藤清正は、日韓両国の間で、まったく正反対の評価を下され、さまざまな伝説が生まれた。ところが清正は、合理主義者で理財家、秀吉周辺の人々にまで付け届けを欠かしたことのない気配りの人で、世渡り上手であった。つまり彼は、〈虎退治の豪傑〉ではなかった…。日・中・韓の資料を駆使し、清正伝説の虚実を抉る歴史大作。
前田家に奥入れした二代将軍秀忠の娘珠姫に従うお付人一統-。利長の命と前田家の支配を狙うお付人一統に利長もついに起った。前田家が残した「前田日記」をめぐって展開される決死の攻防。
あたしの名前は大沢ルミ。学校からの帰り道に、変な二人組に誘拐されそうになったの。何とか逃げ出したんだけど、その次の日、ヒゲゴジラことうちのパパが中華街で連れ去られちゃって…。あたしたち一家を狙う秘密組織って一体何?オヨヨ大統領って何者なの?ギャグ、パロディ、風刺ー大人も子供も楽しめる傑作コメディ。〈オヨヨ大統領シリーズ〉の第1作。
メアリアンはゆっくりと人々から切り離され、孤立してきた。隅っこに追い詰められて、今はそこに座りこんでいる。手に膝をのせて。ほかに道はない。ほかに行くところはない。ディックの青春小説。
今年もクリスマスがやってきた。各種催し物の開催を初め、用事は山盛り。二男一女を抱えるジェーンには頭の痛いシーズンだ。おまけに今回は、疎遠にしていた旧友が性格最悪の息子を連れて遊びに来たから、たまらない。立ちこめる険悪ムードの中、事はついに殺人事件にまで発展し…。慣れない編み物片手に、真相解明に取り組む主婦探偵ジェーン。好評『ゴミと罰』に続く第二弾。
成城署の真名部警部は、偶然知り合った脳性マヒの少年の並外れた知性に瞠目するようになる。教えたばかりのオセロ・ゲームはたちまち連戦連敗の有様だ。そして、たまたま抱えている難事件の話をしたところ、岩井信一少年は車椅子に座ったまま、たちどころに真相を言い当てる…。数々のアイディアとトリックを駆使し、謎解きファンを堪能させずにはおかない連作推理短編の傑作。
おれはハリー・ラドクリフ、天才建築家だ。天才だから何をやっても許される。そう、おれはとっても嫌なやつらしい。それでも、ふたりの女と適当によろしくやってる。ある日、中東の偉いスルタンから仕事の依頼が来た。犬の博物館を建てろだと。はじめは断ってたんだが、だんだんその気になって…。ひとりの男の歴史を超えた壮大な使命を描き、キャロルの新境地を示す問題作。英国幻想文学大賞最優秀長編賞受賞。
『フロベールの鸚鵡』『10・1/2章で書かれた世界の歴史』と、知的で愉快な小説のはなれわざを見せたJ・Bが「普通の」小説に挑んだ。一人の女の一生を、少女時代から結婚生活への幻滅、世界の七不思議を求めての旅と、2021年までたどっていく。もちろんJ・Bならではの皮肉な人生観察も効いている。
あまりに事実そのもの。だからフィクション。野望、葛藤、利権、醜聞、謀略-。中東湾岸のある石油王国に渦巻く政治、経済、社会の実態を衝撃的にあぶりだした本邦初のアラブ内幕小説。
春の日が沈みかける長谷部邸の広壮な庭、ひとり息子の翔一は、これから一つ年下の弟となる圭に初めて出会った。まるで秘密の花園に迷いこんできた少女のような妖しく儚げな美しさを湛えた圭に、翔一の心は騒ぐ。何かが起こる…。あまりにも美しすぎる幻の花のような姿に、そんな予感すら覚えるのだった-。
美由紀は愛する夫と2人の息子をもつ平凡な主婦。友人の新居パーティの席上、思いがけず大学時代の不倫が暴露された。いたたまれず飛出した美由樹は、その新居がかつて愛した男の家のそばであることに気づく。だが、懐かしさで訪ねたそこは廃屋となり、一体の地蔵が残されているだけだった-。家庭の幸せに安穏とする主婦が陥っていく蟻地獄の恐怖を戦慄のタッチで描く長篇サスペンス。書下ろし。