1992年8月発売
コルトレーンの祈り、アイラーのうねりにも似た魂、そしてドラッグ。いかなるものにも癒されぬ渇きに呻きながら、19歳のジェイコブは、夏の日が撥ねる路上を、夜明けの海辺をさまよう。精緻な構成と力強い文体で、死によってしか完結しない愛と憎しみを描く長編問題作。
丞相・孔明の率いる北伐軍は長安へ向けて進軍を開始した。その中核は趙雲子竜、蜀漢帝国を支える歴戦の猛将である。緒戦の勝利も束の間、度重なる戦乱の疲労は、ついにこの老将の命をも奪い去ろうとしていた。孔明自身、最後の大決戦に残り僅かな生命を賭けるが、蜀の運命は…。歴史巨編堂々の完結。
少年と父の感動的な絆を中国連峰の緑の中にみごとに描出した「皐月」や鎌倉の鮨職人の心に鮮やかに亡き母の思い出が浮かび上がる瞬間を捉えた。「三年坂」、失意の中年男が草野球に誘われて思いがけず自分の生き方を見つける「水澄」など、深い抒情性と巧みな文体、人生へのいつくしみに溢れた初の小説集。
精魂こめて執筆し、受賞まちがいなしと自負した推理小説新人賞応募作が盗まれた。-その“原作者”と“盗作者”の、緊迫の駆け引き。巧妙極まりない仕掛けとリフレインする謎が解き明かされたときの衝撃の真相。鬼才島田荘司氏が「驚嘆すべき傑作」と賞替する、本格推理の新鋭による力作長編推理。
たった五勺の酒に酔う老教師の口舌の裡に、天皇制を批判する勢力の既にして硬直し始めた在り方を、痛罵し、昭和20年代の良心としての存在を確立した名篇「五勺の酒」をはじめ、萩の街の中で、見出した戦争の傷跡を鮮烈に描き出した「萩のもんかきや」など12の名篇。中野重治の詩魂と精神の結晶とも呼ぶべき中短篇集。
元赤坂の芸者だった老女が、昔の男の突然の再訪に心揺れ、幻滅する心理を描く「晩菊」。女流文学者賞受賞。戦死した夫の空っぽの骨壺に、夜の女が金を入れる「骨」。荒涼とした、底冷えのするような人生の光景と哀しみ。行商の子に生まれ、時代の激動を生きた作家林芙美子が名作『浮雲』連載に至る円熟の筆致をみせた晩年期の「水仙」「松葉牡丹」「白鷺」「牛肉」等、代表作6篇。
『ドン・キホーテ』と並び称される文学上の典型人物ラサリーリョ(16世紀・作者不詳)を新たに誕生させ、20世紀に放浪させる。現代ピカレスクの名作。
相模屋の店先で雪駄が一足盗まれた。相模屋出入りの岡っ引・半次は、下手人・仙八を挙げた上野山下の助五郎親分に会い、引合を付けて抜いてもらおうとした。だが、単純に見えた事件は意外な展開をみせはじめ、やがて大きな謎が…。サスペンスあふれる新・捕物帳登場。
エジプトのミイラのように顔中を包帯で巻いた怪人は、復讐のため地獄から戻ってきた〈地獄の奇術師〉と自ら名乗り、十字架屋敷に住む暮林義彦とその家族を皆殺しにすると告げた。まず長女を惨殺。顔の皮を剥ぎ包帯の下に隠された自分の無惨な顔と同じ姿にした後、その魔手は矢継ぎ早に暮林家の人間を血祭りにあげ、あろうことか何重にも鎖ざされた密室の中から、煙のように消え矢せるのだ。逆転につぐ逆転。ラストで明かされる畏怖すべき真相。名探偵・二階堂蘭子の誕生を告げる、妖気漂う本格ミステリーの傑作。
かつてないほどの大災害や世界大戦の後、文明が崩壊した地球。そこでは、月に住むルナ人が生き残りの地球人を支配していた。予言によると、315年に一度巡ってくる三聖節の年に16歳を迎える地球人の少年の中に、ルナの強敵がいるという。今年がまさにその年。恐ろしい企みがあるとも知らず、多くの少年が機械都市ヒルデバランに集められる。都市見物を楽しみにやって来たリュウもその一人。まさか自分が予言された人物で、この先ルナとの壮絶な戦いが待っていようと知る由もなかった。
ある朝、一隻の宇宙船がペンギン村に不時着して、その中からニコチャン大王が部下を一人連れて降りてきた…。この本に登場するのは則巻千兵衛博士、ドクター・マシリト、鉄腕アトム、キン肉マン、サザエさんetc。ポップ小説の旗手が新しい文学に挑戦する破天荒な痛快ファンタジー。
学生時代につきあった女友達の酒場を20年後に訪ねてホロ苦い思いを味わう男の気持ち(百円ライター)。マニュアルなしには何もできない新入社員の真摯で初々しい恋心を讃える(借りたハンカチ)。義足をつけた娘とイタリア青年との交際を、ハラハラ見まもるコミカルな父親の姿(花束)。契約書、印鑑、ローソク、指輪。日常の中の「物」たちを通して鮮やかに浮かぶ、明るい無常感に満ちた21の人生の悲喜劇。
通りがかりの乞食坊主から「死相がでておる」といわれた大坂の半端やくざ鍵屋の熊太は、見立てがまさに的中しかかったのに驚嘆、心機一転観相を学ぶ。髪結に弟子入りしてあらゆる人間の顔を眼前に眺め、五体を観るために風呂屋の下働き、死者の顔を覗くためには火葬場の人足と職を転々-。「黙って坐れば、ぴたりと当たる」と言われた天下第一の観相師の痛快きわまる一代記。
1956年、動乱に揺れる街ブダペストで、祖国を違える4人のスパイとひとりの女が関係した。そして生まれた娘、イローナ。誰が本当の父親なのかわからないまま14年の月日が流れ、美しく成長した娘と4人の“父親”は出会いの時を迎えた。しかし、娘が何者かに誘拐された。その道では百戦錬磨の男たちによる必死の救出作戦が始まった。異色のスパイ小説、世界に先駆けて日本版刊行。
空軍を退いたスティーブン・ゴールドは、父ハーマンが創設した〈ゴールド航空アンド運輸〉の経営に携わる。しかし、彼を待ち受けていたのは、謎の資本家による合法的乗っ取り計画だった。一方、空軍の特使として海軍の「トップ・ガン」に入隊したハーマンの孫ロビーは、特殊訓練の中で大きな挫折を味わっていた。ファミリーの誇り“金色の翼”は今再び大空をめざす。感動の完結編。