1993年6月発売
老中・松平定信の非公式な隠密巡察役として、肥前長崎の地を踏んだ絵師・朝霞桔梗之介。不義密通の仕置きで拷問と女郎務めの日々を送っていた女・ムメを郭から連れ出した桔梗之介は、高名な女流陶物師・咲弥の屋敷に転がり込んだー。雲仙から肥後熊本へ、今生の地獄を見た女を伴い、桔梗之介の憂世の旅は、またしても剣難・女難の連続となる。
いわれなき人殺しの罪を背負わされた京極斑鳩之介は、岐蘇福島の道場の師範代にと請われ、妻の志津を連れて江戸を背にした。しかし鬼同心鬼頭一角らの執拗な追跡は続き、志津は捕えられ、女郎屋へ売りとばされたあげく、自ら命を絶ってしまう…。鬼頭一味の斬殺を心に誓う斑鳩之介の活人剣が怒りの閃光を放つ。書下ろし長篇時代小説。
林市はなぜ夫を殺害し、その死体を切り刻んだのか?飢えのためにいきずりの兵士に身を任せ、一族により川に沈められた母と、少量の豚肉との交換で屠夫のもとに嫁にだされた娘…。嗜虐的な凌辱、獣のようなセックス、飢えと恐怖と絶望の果てに、林市が見たものは?中国社会の暗部を怒りと悲しみで描き、容赦なく人間性の最深部を抉る現代台湾フェミニズム文学の最高傑作。
ワルシャワの一人のユダヤ人教師が、ナチの残虐を記録にとどめた。著者は、自分の周囲のできごとを冷静にみつめ、限られた情報を整理し、分析した。死の危険を賭して書かれ、保存された歴史への証言。
「ミステリー大賞」の受賞作品が作者不明。東京出版・文芸編集部の村瀬祐一は作者を探し出すよう命じられる。その過程で現れた妖艶な美女・結城真佐子。「あの作品はプライバシーの侵害です…」受賞作品には真佐子の人間関係が克明に描写されていた。いったいだれが何のためにこんな小説を書いたのか?謎を追う祐一は真佐子の魔性に引きずりこまれていく…。
春の訪れを待ちのぞむ二人の少女-。桜の花のように儚げな晴美と、蘭の花のように艶やかな美春。漆黒の髪と、その黒い瞳で少女たちの心を虜にする、弓削家の当主、葉月。亡霊のように現れては、晴美の心を見透かすように語りかける謎の庭師。四季の庭に、季節おりおりの花が咲き乱れる旧い館を舞台に、狂気の美が彩る殺人交響曲。新進気鋭が、華麗なる筆致で描く幻想耽美ミステリ。
23歳で華麗にデビュー。現代アメリカ文学の新しい流れを代表する、自分自身がゲイである作家レーヴィットの大ベストセラー。全世界で実に18か国語に翻訳されたという。アメリカの家族の絆の光と影をしなやかな感性で巧みにとらえた“優しく、おかしく、雄弁で、知的でもある驚くべき短編集”。
これから裁く。神に代わって、警察に代わって、検事に代わって、俺が裁く。俺を人間と思うなよ。俺は深い悲しみの果て、言いようもない憎しみをこの胸に膨らませることができた。その憎しみが、俺を野獣にした。地獄の鬼にした。
一介の秘書課のOLから破格の昇進で課長に抜擢された有美。彼女に新しく与えられた仕事は、その日本人離れしたプロポーションと、過去にソープランドにいた経験を生かして、会社の不利となる秘密情報を調査、潰すことだった。美女の股間の黒い繁みと、中高年向きのソープ・テクに狙った獲物はうめきとともに企業秘密を洩らす。だが彼女の前に強烈なライバルが。
京都近郊に建つヨーロッパ中世の古城を彷彿させる館・蒼鴉城を「私」が訪れた時、惨劇の幕はすでに切って落されていた。首なし死体、密室、蘇る死者、見立て殺人、2人の名探偵の火花散る対決そして…。島田荘司、綾辻行人,法月綸太郎三氏の賛辞を付して刊行された著者21歳のデビュー作、ノベルス化になる。
沢原は焦っていた。一枚の写真と物語で世界を構築するフォトライターとして、手応えある狙うべき像が見つからない。感性は鈍化し、才能は枯渇してしまったのか?沢原はカメラを手にやみくもに街を彷徨いた。理由のない怒りを覚えながら。その男の目は暗く、倦んでいた。沢原は鏡ごしに初めてその男と対峙した時、直感した。“こいつだ”と。そして、男の連れこそ沢原が忘れることのできない女性・彩子であった…。秀作「鏡の顔」他、四編を収録。日本冒険小説協会最優秀短編賞受賞作品集。
「父を売る子」他、肉親を仮借なく批判した〈私小説〉を執筆、一族の血の宿命からの脱却をギリシャ的神話世界に求めた異色の作家牧野信一。処女作「爪」を島崎藤村に激賞され、空想と現実の狭間で苦悩し自死した先駆的夭折作家の、12篇を収録。