1993年9月15日発売
青銅色の鐘楼を屋根にいただく精神病院に続発する奇怪な毒殺事件。自称億万長者、拒食症の少女、休日神経症のサラリーマン…。はたして殺人鬼は誰か?患者なのか、それとも医師なのか?病人を装って、姿なき犯人の行方を追う警視庁の名物刑事・海方の活躍。全編、毒薬の謎に彩られた蠱惑的ミステリー空間。
男は、もうひとりの小男をキャンディの包み紙のように海に投げ捨て、鬼のような形相で私を追ってきたー。宝石泥棒を両親に持つ女性私立探偵ロニー・ヴェンタナが、その恐ろしい事件に遭遇したのは金門橋を見下ろす海岸通りを早朝ジョギングしている時だった。そして、事件は急展開、思わぬ犯人が。
美しい女を争って剛剣がうなり、おのが愛を守ろうと女の“秘剣”が舞い、女敵討ちの悲しい剣が奔る…。やませみが魚を獲る一瞬の妙技から想を得た、鍾捲新流の秘剣“やませみ”。夫の仇を討つためにその敵から“やませみ”を学ぶ決意を固める志乃を描く「秘剣やませみ」ほか八編を収録する秀作仇討ち短編集。
川沿い澪通りの木戸番夫婦は、人に言えない苦労の末に、深川に流れて来たと噂されている。思い通りにならない暮らしに苦しむ人々は、この二人を訪れて知恵を借り、生きる力を取りもどしてゆく。傷つきながらも、まっとうに生きようとつとめる市井の男女を、こまやかに暖かく描く、泉鏡花賞受賞の名作集。
奈津が奉公先雁金屋の次男光琳と出会ったのは光琳八歳、奈津十歳のときだった。早くも逸材の片鱗を見せる光琳に奈津は胸をときめかすが、それは果たせぬ恋の始まりだった。尾形光琳・乾山兄弟の間で揺れる女ごころ。京の大呉服商雁金屋を舞台に展開する絢爛豪華な時代絵巻。第一回時代小説大賞受賞作。
後水尾天皇は十六歳の若さで即位するが、徳川幕府の圧力で二代将軍秀忠の娘、和子を皇后とすることを余儀なくされる。「鬼の子孫」八瀬童子の流れをくむ岩介ら“天皇の隠密”とともに、帝は権力に屈せず、自由を求めて、幕府の強大な権力と闘う決意をする…。著者の絶筆となった、構想宏大な伝奇ロマン大作。
徳川家康、秀忠の朝廷に対する姿勢は禁裏のもつ無形の力を衰弱させ、やがて無にしてしまうことだった。「禁中並公家諸法度」の制定や「紫衣事件」などの朝廷蔑視にあって、帝は幕府に反抗し、女帝に譲位し、自らは院政を敷くことにする…。波瀾万丈の生を歩まれる後水尾天皇を描く、未完の伝奇ロマン。
妻と病室の窓から眺めた満月、行方不明の弟を探しに漕ぎ出た海で見た無数のくらげ、高校生に成長した娘と再会して観た学生野球…。せつなく心に残る光景と時間が清冽な文章で刻み込まれた小説集。表題作の他「くらげ」「残塁」「桃の宵橋」「クレープ」と名篇を収録し、話題を呼んだ直木賞作家の、魂の記念碑。
爆発性血液ペストをまぬがれたロワ・ダントンと「フランシス・ドレーク」の乗員たちは、惑星プリズン2で必死に生き延びようとしていた。この危地を脱出できるかどうかは、獅子人間グラドに化けている謎の敵の動向にかかっている。だが、にせグラドの真の計画は依然として判明していない。しかも、病気に対抗するため使った血漿共生体に拒絶反応を示す乗員が続出。絶望的な状況で戦いつづけるダントンたちの運命は…!?
新社屋の美術館創設のため、孤高の日本画家名瀬光二の絵の入手を試みて失敗した山名啓司は、立ち寄った馴染みの店で、かつて同棲していた女・純子の描いた絵に似た絵を見て衝撃を受けた。画廊へ出かけた山名は、純子が亡くなったことをオーナーの藤崎美奈子から知らされる。やがて二人は深い仲になるが、ある日、内密に入手し、美術館を飾っている名瀬の絵が贋作だという手紙が山名の許に届く。長篇推理。
プロカメラマンを目指す友成勝人は戒厳令下の北京に単身のりこんだ。自由と民主化を求め天安門広場に集う学生たち。彼らの姿をカメラで追う友成に黄という青年が弟子入りを志願し、自分の祖父が日本人だと打ち明ける。八路軍に加わり抗日戦争を戦った祖父が苦渋に満ちた過去を語った翌日、天安門広場には戒厳軍戦車の前に立ちはだかる老人の姿があった…。(表題作)。中国への熱い思いを描く六篇。
中杉節子は同僚の上条美也子のマンションを訪ねた。美也子の恋人・野島類を呼んで本心を訊き出すためのパーティが開かれるのだ。しかし美也子の部屋で節子が見たものは、全裸で倒れている節子のフィアンセ・村上と美也子の姿だった。節子は村上の親友・橋本と事件の真相を探ろうとするが、橋本も絞殺されてしまう。手掛かりを掴もうと野島に近づく節子だが、いつしか野島の性に溺れ…。長篇官能ミステリー。
保守的な空気の中で、上品な生活を送るイギリス中流階級の人間たち、陽光眩しいイタリアの地で、生きる喜びを満喫する男たち-。二つの異なった価値観のぶつかりあいから生じる悲喜劇を、ユーモア溢れる筆致で描く。
三伸建設設計課一級建築士・田中浩一は、ある夜、中学高校が同窓で、今は東聖大学法医学教室の古屋一郎の訪問を受けた。「緊急に信用できる人間に会いたいのだ」と古屋は、緑色の百円ライターを机の上に置いた。その目の前のライターこそが、法医学者・古屋の研究成果であった。それは「原爆、水爆よりも恐しい科学兵器なのだ」という。その兵器とは。
幸福を追い求める結婚五年目の夫婦に襲いかかる危機。隣家の殺人事件、夫の蒸発、川で出会う不思議な男を求める不倫願望。次々に起こる奇怪な日常生活の中で一人もがく妻の心情を巧みに描く長編現代小説。
百億円以上の金が動くと思われる、外資系会社の買収計画を進めていた矢倉啓造の恋人が、何者かによって惨殺された。警察の捜査では、矢倉が容疑者とされた。罠にはめられたと知った矢倉は、警察の厳しい目をくぐり抜けながら真相を突きとめたが、真犯人たちはパリへ飛ぶ寸前だった。日本での復讐は不可能だと察知した矢倉は、単身パリへ向かった。復讐、追跡、騙し、新境地を拓く著者渾身の国際冒険小説。